平成27年度大学院、専門職大学院及び大学入学式

学長告辞(平成27年度 大学院、専門職大学院及び大学入学式)

新入生のみなさん、入学おめでとうございます。目白の杜のキャンパスへようこそ。教職員と在学生を代表して、心から歓迎します。別室でモニターをとおしてご覧いただいているご家族の皆様も、およろこびのことと存じます。

ここに内藤政武学習院長、卒業生の同窓会である桜友会の内藤賴誼会長、父母会の小堀正晴会長をはじめ来賓の皆様のご臨席を賜わるなかで、入学式を執りおこなえますことをたいへんうれしく思います。

みなさんは入学後、学部や大学院はちがっていても、今の日本と世界が直面している大きな問題をめぐって、直接的にあるいは間接的に考える機会があるはずです。大きな問題とは何でしょうか。もっとも大きな問題の一つは世界に共通する格差社会の問題です。先進国も途上国も、社会的な格差の問題に直面しています。
なぜ格差は拡大するのか。この問題を解き明かすフランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界の主要国でベストセラーになっています。日本でも同様です。このブームは格差社会問題に対する持続的な関心の現われにちがいありません。バブル経済崩壊後、四半世紀になろうとしているのに、日本経済の長期停滞が続いています。「勝ち組」対「負け組」といった身も蓋もない表現が横行した時期もありました。今も日本社会は二極化が進行中です。

二極化はあらゆる分野に及んでいます。大学もそうです。みなさんは日本の大学をめぐるG型L型問題を知っていますか。日本の大学はG型とL型に二極化する。二極化するべきだ。そのような考え方が急速に勢いを増しています。G型のGとはグローバル、L型のLとはローカルの略号です。G型は大学院重点大学で、巨額の国費を投じて先端医療科学などの研究分野に従事することが想定されています。対するL型はやや誇張して言えば、高校卒業資格があれば誰でも入学できるような大学で、職業技能を身につけることが目的です。G型の大学が少数で、L型の大学が圧倒的多数であることは容易に想像できます。
格差は是正されなければなりません。二極化ではなく多極化すべきです。ほんの一握りの人たちが溢れんばかりの富を手にして、その他の大勢の人たちの生活水準は下がっていく。あるいはG型大学を頂点としてL型大学が底辺となるような大学の序列のピラミッドを築く。そのような社会や大学でいいはずがありません。

戦後70年の今年から振り返ってみれば、戦後の70年間の前半は格差が縮小に向かっています。「一億総中流」と呼ばれるような時代もありました。ところが後半になると格差は拡大していきます。このように格差の拡大は不可避ではないのです。下の社会階層が上の社会階層を引き摺り下ろすことで格差を是正する下方平準化ではなく、下の社会階層が上の社会階層に上昇することで格差を是正する上方平準化をめざして、日本は政策を総動員しなければなりません。
大学の二極化は是でしょうか、非でしょうか。ここでは二極化に反対の立場を明確にします。日本の高等教育研究機関は、先端が尖った山よりも頂上が平原になっている山のイメージに再編されるべきです。別の言い方をしますと、さまざまなタイプの大学が相互に尊重し、多様性のなかで、協力と競争をすることで、日本の高等教育と研究は飛躍的に進歩するようになるにちがいありません。

私たちの学習院大学はどの方向をめざすべきでしょうか。学習院大学はG型でもなく、L型でもなく、自ら第3のタイプの大学群を作り出し、そのトップ校をめざします。
たとえばアメリカにはハーバード大学のようなアイビーリーグの一流校だけでなく、アマースト・ウィリアムズ・ウェズリアンの「リトル・アイビー」「リトル・スリー」と呼ばれる3大学があります。これらの大学はアイビーリーグの大学とは別基準で全米第1位の大学の栄誉に浴しています。
私たちの学習院大学も受験偏差値の序列化やG型L型の分類から脱却して、独自のユニークな大学、特別な大学をめざします。「マーチ」「Gマーチ」とは受験産業が勝手につけた分類です。私は自ら進んで「学習院大学は『マーチ』『Gマーチ』レベルだ」などとは決して言いません。
学習院大学は来年度に開設される国際社会学部の完成年度をもって、大学院のほかに5学部を擁する1万人規模の中規模大学になります。学習院大学は中規模大学の新しい〈かたち〉を示します。5学部と大学院による高度な専門教育と研究を展開しながら、学部・大学院のちがいを超えて、横断的なつながりを強めます。固有の高度な専門知識を修得する一方で、共通する知的スキルを活用できるようになるのです。

もう一度、強調します。学習院大学は、独自のユニークな大学、ほかの大学とは異なる特別な大学になることをめざします。それにはみなさんが各学部・大学院での専門知識を深める一方で、他方では学部・大学院のちがいを超えて共通する実践的な教養力を身につける必要があります。それには、たとえば海外フィールドワーク研修や留学、キャリア・デザイン科目や英語のインテンシヴコースを履修し、あるいはボランティアやインターンシップに取り組むべきでしょう。特別な大学をめざす学習院大学で学ぶことで、みなさんひとりひとりが特別な人になるのです。

大学では自ら課題を設定し自分の頭で考え自分の言葉で解決策を表現しなければなりません。
冒頭で紹介したピケティは「日本のことはよくわからないが」とあらかじめ断ってから議論します。それはそうでしょう。安易に処方箋を求めてはいけません。自分の国のことは自分で考えるべきです。同様に私たちもこの目白の杜のキャンパスで、自分の頭で考え自分の言葉で表現できるようになりましょう。
以上をもって学長告辞とします。

平成27年 4月 8 日 学習院大学 学長 井上 寿一