略歴
1956 年、神奈川県生まれ。ソウル大学客員研究教授、高麗大学招請教授、マサチューセッツ工科大学客員研究員、中国社会科学院客員研究員、国立国語研究所特別研究員などの研究歴がある。筑波大学大学院教授を経て 2008 年 4 月より学習院大学教授。博士(言語学)。
※2026年3月退職予定
学習院大学
文学部日本語日本文学科
大学院 人文科学研究科日本語日本文学専攻
Staff
WASHIO, Ryuichi
1956 年、神奈川県生まれ。ソウル大学客員研究教授、高麗大学招請教授、マサチューセッツ工科大学客員研究員、中国社会科学院客員研究員、国立国語研究所特別研究員などの研究歴がある。筑波大学大学院教授を経て 2008 年 4 月より学習院大学教授。博士(言語学)。
※2026年3月退職予定
言語学
担当授業(2025年度)
主要著書
主要著書
日本言語学会/日本英語学会/日本エドワード・サピア協会
言語学を専門としています。関心を抱いた言語はすべて研究対象にしてきましたが、様々な言語を「比較」することによって言語の普遍性と個別性に迫る、というのが基本的なスタイルです。これまで、日本語、モンゴル語、朝鮮語、英語、フランス語、オランダ語などを対象に比較研究を手掛けてきましたが、言語の起源・系統・変化なども重要な関心事ですので、研究対象は中世のモンゴル語や朝鮮語、上代の日本語、あるいは古代英語などにも及びます。
博士論文を書いていた頃には、『元朝秘史』と呼ばれる古い文献に残されたモンゴル語などを分析し、これを日本語、朝鮮語、フランス語などと比較することにより、論理的に意味のある一般化を導き出すという研究を行ないました。多言語比較という研究スタイルは、私の中ではこの時期に確立したように思います。
諸言語を比較する研究には、言語類型論、普遍文法論、言語系統論などと呼ばれる分野がありますが、これらを横断しながら東西諸言語を比較するのが、大雑把に言えば私の研究分野ということになりそうです。しかし、研究の中心には常に日本語があります。あらゆる言語の中で、母語は特別な位置を占めているからです。母語である日本語の性質を理解するために私が選んだのが、他言語との比較という方法であったと言えるかも知れません。
以上のようなスタイルの言語学とは別に、私はこれまで言語研究の歴史も研究してきました。一般に「言語学史」と呼ばれる分野ですが、日本には伝統的に「国語学史」と呼ばれる分野もあり、私自身は国語学史と言語学史を融合する視点から、日本における言語研究の近現代史を再構成してきた。研究史という比較的地味な分野にあっても、経験的な証拠に基づく新たな解釈や問題提起は常に可能であり、従来の研究史が見落としてきた学史上の「空白」を埋めることさえ可能であることを、『日本文法の系譜学』(2012)や『国語学史の近代と現代』(2014)といった著作で具体的に論じてきました。
比較的最近では、日本と韓国それぞれにおける国語研究を比較し、その影響関係を実証的に明らかにする「比較国語学史」という研究プロジェクトに取り組んできました。かなりマニアックな世界ですが、すでに「兪吉濬『大韓文典』と近代日本文典 ~日韓比較国語学史への貢献~」Bulletin of the Edward Sapir Society of Japan 30. や「比較国語学史の背景 ~兪吉濬・崔鉉培・鄭烈模と近代日本文法~」ENERGEIA 41. といった論文を発表していますので、興味のある方には見ていただければと思います。韓国の近代国語学史を方向づけた有名な著作のいくつかが、実は日本の大槻文彦、山田孝雄、松下大三郎などの影響をまともに受けていた、という事実が疑問の余地なく明らかにされています。
研究分野の紹介でも書きましたが、私は諸言語の比較研究に携わってきましたので、日本語の研究も、言語研究という大きな枠組みの中で捉える習慣が身についています。私の授業に特徴と呼べるものがあるとすれば、それはこのような「言語学的視点」から日本語の事実や日本語学の歴史について考えるという点であるように思います。
「対照言語学」という科目では、小説の原文と翻訳などを材料として言語比較の一端に触れてもらいます。例えば日本語、英語、フランス語という三つの言語を比べてみようと考えた時、英語とフランス語に類似点が多いであろうと予測するのは自然です。ところが、ある種の現象に着目して比較を試みてみると、英語には見られない性質が日本語とフランス語には見られる、というパターンが繰り返し観察されたりします。「へえ」と思う人は、言語学に向いているかも知れません。
言語の比較研究は、しかし、個別言語を深く研究することから始まります。とりわけ重要なのは、母語に関する豊富な知識と深い理解、そして現象を適切な抽象度で一般化する分析力です。「日本語学演習」という授業では、文法や意味に関わるいくつかのテーマを取り上げますが、これまでの学説を学び、それらを批判的に検討することにより、受講者が日本語文法に対する理解を深め、分析力を身につけてくれればと思っています。