【開催報告】理学部「今年のノーベル賞」


10月10日(火)、理学部で「今年のノーベル賞」が行われました。この催しは、その年のノーベル賞の発表後、受賞対象となった研究について専門分野の近い理学部の教員が解説をする会で、物理学賞を東大名誉教授の小柴昌俊さんが、化学賞を島津製作所の田中耕一さんがそれぞれ受賞した2002年から毎年行われています。

今年は医学・生理学賞について生命科学科の安達卓教授が、化学賞について物理学科の中根大介助教が、物理学賞について物理学科の井田大輔教授が解説を行いました。

hp171012_001.jpg(写真)会場の様子
hp171012_002.jpg(写真)安達 卓 教授

医学・生理学賞を受賞したのはアメリカの科学者で、ジェフリー・ホール氏、マイケル・ロスバッシュ氏、マイケル・ヤング氏の3名です。生物の体内で時を刻む「体内時計」に指示を出す遺伝子を特定した功績が認められました。

この研究を理解するための糸口として、発生遺伝学の研究者で、ショウジョウバエを使って発生と維持の仕組みの解明に取り組んでいる安達 卓教授が、「circadian clock(概日時計:生物にみられる生理活動や行動のほぼ一日周期の変動)」とは何かについて、ヒトを例に挙げ解説しました。また、今回受賞した3氏もショウジョウバエを使って研究をしていますが、なぜ遺伝子研究にショウジョウバエが適しているかということについても話しました。

hp171012_003.jpg(写真)中根 大介 助教

化学賞を受賞したのは、スイスのジャック・デュボシェ氏、イギリスのリチャード・ヘンダーソン氏、アメリカのヨアヒム・フランク氏の3名です。溶液中の生体分子の構造を高い解像度で観察できる「クライオ電子顕微鏡」の開発が評価されました。

解説をした中根大介助教はこの夏、「スパイダーマンのように動く微生物の運動メカニズムとその制御機構」を世界で初めて明らかにし、その研究が米国科学アカデミー紀要において原著論文として発表されるなど、活躍めざましい新進気鋭の研究者です。小学生の参加者もいたことから、0円でスマホを顕微鏡にするという斬新でわかりやすい実演とともに顕微鏡についての基本的知識を説明した後、1980年代にさかのぼる「クライオ電子顕微鏡」開発の歴史や3氏の功績について話しました。

hp171012_004.jpg(写真)井田 大輔 教授

物理学賞は、LIGO(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory:レーザー干渉計重力波観測所:重力波の検出のための大規模な物理学実験施設)で、重力波を初観測したアメリカ・マサチューセッツ工科大学名誉教授のレイナー・ワイス氏、カリフォルニア工科大学名誉教授のバリー・バリッシュ氏、キップ・ソーン氏の3名が受賞しました。重力波検出に成功したとの発表(2016年2月)からわずか2年足らずでのスピード受賞で話題となりました。

1916年にアルベルト・アインシュタインが存在を提唱した「重力波」とは何かについて、また、LIGOでの重力波検出の検出原理について、宇宙物理の研究者である井田大輔教授が詳しく解説しました。

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登壇した3名の教員はそれぞれユーモアをまじえた語り口で、時には大きな笑いが起こるようなシーンもあり、会場は終始、和気あいあいとした雰囲気に包まれていました。それぞれの解説後には質疑応答の時間が設けられ、参加者からは途切れることなく様々な質問が寄せられました。

今年、会の幹事を担当した物理学科の田崎晴明教授は、開催の趣旨について、「一日の授業を終えた後、ワインを飲むような気軽さで、受賞した研究を肴(さかな)にみんなで楽しく語りあえたら」と話し、また、今回初めて参加したという学生は、「今年の受賞者の評価ポイントを的確に理解することができ、とても有意義だった」と語りました。専門家による解説を楽しみつつ歴史に残る重要な研究の一端に触れることができる、贅沢で知的な秋の夕べとなりました。

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