新入生・在学生の皆様へ(荒川学長からのご挨拶)

令和 2(2020)年4月3日

新入生・在学生の皆様へ

学習院大学長
荒川 一郎

 新入生の皆様、入学おめでとうございます。教職員と在学生を代表して、こころから歓迎し、お祝い申しあげます。ご父母の皆様、ご家族の皆様もおよろこびのことと存じます。また本学の多くの卒業生も、皆様が同窓の仲間に加わったことを喜んでいると思います。

 新型コロナウイルス感染症の広まりの影響で、大変残念なことに入学式を挙行することができません。また授業の開始時期も遅らせることになりました。推移を見守りながら慎重なスタートを切るつもりです。これまでにも様々な事件、災害がありましたが、それを乗り越えてきました。感染症の拡がりの中で、組織や各人がすべきこと、してはいけないことが示されています。一日も早く収束する様に、それぞれが適切な賢い行動を取るようにいたしましょう。しばらくは自主学習を進めるなり、本を読むなり、大学の活動の再開に備えてください。

 本年度の新入生は、法学部・経済学部・文学部・理学部・国際社会科学部の5学部あわせて2,050名です。大学院は6つの研究科と法科大学院をあわせて177名です。すべての新入生の皆様、あらためて入学おめでとうございます。

 さて、私はこの4月から学長を務めることになりました。新入生だけでなく在学生の皆様にも、新任の挨拶に代えてメッセージをお送りします。大学は何のためにあるのか、言い換えると大学にいる教職員、学生は、それぞれが何を目的として研究・教育を行い、勉学に励めばよいのか。この問いに対しては、それぞれの学校の「建学の精神」をもって答えることが多く行われると思います。大学によって様々な建学の精神が掲げられていますが、学習院大学には、これが建学の精神であると明確に定義された文言がありません。しかし、新制大学としての学習院大学の開設に力を注ぎ、初代学長を務めた安倍能成が残した言葉の中に「建学の精神」に当たる思想を読み取ることができます。その一つは「真理と平和」の希求です。つまり、真理を追究すること、平和を実現することで、学習院歌にも謳われています。学問が真理を追究するのは至って当然で、あらためて説明する必要も無いでしょう。平和の実現のために、学問はどのように関わるのでしょうか。

 人が追い求めるべき普遍的な価値は「真善美」にあると思います。当然学問もそれを追うべきです。「真」は真理、真理を見つけるために科学があります。「善」は善きこと、倫理の問題です。「美」は審美、感性に関わることです。芸術的な美は判りやすいでしょう。環境の美しさ、社会の美しさもその仲間と考えたいのです。心地良い自然があり、清潔で公害や疫病等のないのが美しい環境と言えるでしょう。自由と平等が保たれ、差別のないのが美しい社会だと思います。善きことが実現しているのを見ると、美しいと感じるのではないでしょうか。「善」と「美」はかなり親密な関係にあると言えそうです。そしてこれら「善」と「美」は「平和」の前提に他なりません。戦争が「善」でも「美」でもないのは言うまでもないことです。災害や疫病で荒廃した社会は美しくありません。しかし、現実には戦争はなくなっていませんし、災害、疫病を根絶することは至難の技です。それでもその中で我々は善きことは何か、美しさを保つためにはどうすれば良いのかを追い求めています。学問は、未来を見つめながら、善きことは何かを追い求め、美を形作る努力をします。社会科学、人文科学、自然科学のいずれも何らかの形で「真善美」につながっています。皆様のこれからの学究活動が真理と平和を目指して進むことを願っています。

 「真理と平和」あるいは「真善美」を求めるために、大学で行われる活動は教育と研究です。研究あっての教育と理解してください。教育を「教え育てる」と読むと、教員から学生への一方的な働きかけになってしまいます。「教え育つ」と読むべきです。教員が教え、学生は自ら育つのです。育ててもらおうなどと期待しないでください。育とうという意志のない人を育てることはできません。皆様は小学校から高校まで教育を受けてきました。大学に入っても2年、3年までは、その延長線上と感じると思います。しかし、だんだんと研究が視界に入ってきます。教育は、すでに人類が知識として持っていることを勉強するのですが、研究は、まだ誰にも知られていないことがその対象です。誰も分かっていないことを解き明かす、誰も考えたことのない事物を創作するのが研究です。知的活動としてこんなに楽しいことはないはずです。皆様には、大学にいる間に研究の醍醐味の一端を味わってほしいと思います。その経験は、将来研究者と言われる職業に就かなくても、社会の中で未知の世界を開拓し、新しい事物を創造することに繋がるはずです。そしてそれが「真理と平和」として実を結ぶものとなることを願っています。