2016.03.25 Fri

陶芸研究会

もっと陶芸の魅力を伝えたい〜「挑戦の年」を語る〜 陶芸研究会インタビュー

もっと陶芸の魅力を伝えたい〜「挑戦の年」を語る〜 陶芸研究会インタビュー

シーンとした作陶室に響く、ろくろを回す音。気迫あふれる眼差しは、真剣そのものです。「陶芸のない学生生活なんて、今では想像もつかない」と話す坂本さんと沼尻さん。でも二人はもともと陶芸に興味がなく、入部するつもりもなかったと言います。なぜこんなにのめり込んだのか、そして今「もっと陶芸の魅力を伝えたい」と語る理由とは...?

坂本さんと沼尻さん

右:文学部フランス語圏文化学科2年 坂本千夏さん(委員長)
左:法学部法学科2年 沼尻伊武季さん(総務係)

予期しなかった、陶芸との出会い

入部したきっかけについて、教えてください。

作業風景

坂本:最初は、運動系の部活に入ろうと思っていました。女子校から進学したので、活気のある部活に入ったら何か変わるかな、どんな雰囲気かな、と興味があって。でも結局、活動日の多さが理由で諦めてしまいました。そんな時、友人から「一緒に入ろう」と誘われたのがきっかけです。高校生の頃までは、陶芸なんて全く眼中にありませんでした。でも実際に部室に伺ってみたら、先輩方がとても優しくて。入部については「どっちでもいいよ」という、押しの弱い感じも自分に合ってるな、と思えたんです(笑)。それで誘ってくれた友人と二人で入部しました。

沼尻:私も運動系の部活を希望していました。陶芸は、日本史の資料集で見てすごいな、という程度の知識しかありませんでしたし、興味もそんなに...という感じでした。ただ、最初に陶芸研究会が主催する食事会に誘われたので、「まぁ、食事だけなら」と顔を出しました。そこで知り合った友人が先に入部し、2ヶ月近くに渡ってずっと勧誘してきたんです。授業で顔を合わせるたびに「陶芸に入ろう」ですよ。肩を組んで迫ってきたこともありました(笑)。それでついに陥落し、入部したという経緯です。でも実際に入部してみたら、彼はほとんど顔を出さない。他に3人も入部させたのに、一番活動していない。じゃあ何故あんなに熱心に誘ってきたのか...理由は全くわかりませんが(笑)、その彼のおかげでこうして陶芸に出会えたので、今は感謝しています。

作品を通じて伝わる思い

お二人とも、それまで全く知らなかった陶芸の世界に飛び込んだ、とのことですが、入ってみてイメージは変わりましたか?

陶芸作品

坂本・沼尻:変わりました。

坂本:やればやるほど楽しくなって。「どうすれば上手くいくんだろう」とか「今度はこういうのを作ってみよう」とか、いろんな考えが次から次へと浮かんでくるんです。作品を作るごとに上達していく、それが目に見えてわかるのは嬉しいですし、作品を見てくれた方からの評価もやりがいになります。

具体的には、どんなやりがいを感じていますか?

作品

坂本:部員たちは毎年6月と11月(大学祭)に開かれる展示会に向けて作品を作っています。そこで作品が売れたり、お客様から「形が良いですね」といったお褒めの言葉を頂いたり、と結果が返ってきます。会場では作品の人気投票を行っていて、投票用紙には理由を書く欄もあります。一部の作家に票が偏るなど、数字でハッキリと支持が表れることもありますね。そうした評価で、自分の努力が報われるところに魅力を感じます。

沼尻:壺や大皿は会場で目立つ分、人目に付きやすく、見に来てくださった方の印象に残りやすいです。また、大きい作品というのは力を使うので、誰でも簡単に作れるというわけではないんですよ。お客様からコメントを頂いたり、展示会で評価されたり、購入して頂けることにやりがいを感じます。

坂本:そういう意味では、私は小さな作品しか作らないので、箸置きといった実用品や、展示する数量、デザインで勝負していますね。珍しい用途で目を引こうという部員や、カボチャの置物のようなオブジェを作る部員もいます。お皿だけが陶芸ではありませんし、見ている方も飽きてしまいます。なので、みんな存在感を出そうと工夫しているんです。何を作っても自由なところも魅力ですよ。

自分の作品が人から評価される、という場は学生生活の中でも貴重な経験ですね。

作業風景

沼尻:ダメ出しやアドバイスも参考になります。「中心がブレている」といった器の歪みに関する評価や、見た目に対して手に持った時の「重さ」など、技術的なことや具体的なコメントも多いです。展示会に来られる方は目が肥えている方も多く、「この土に対してこの色は...」といった細かな点まで声をかけられることがあります。

坂本:アドバイスを受けると、次は満足して頂けるようにと、より一層モチベーションが高まります。私は最初、あまり何も考えずに作っていました。とりあえず土を動かしてみて、これは湯のみになりそう、とか、茶碗になりそう、と。そんな時、「最初に何を作るか、完成のイメージを明確にしないと作れないよ」と先輩から注意されたことがあって。それからはイメージを決めて、実際に使うことを想像しながら作るようになりました。すると、展示会でお客様から「使うことをちゃんと考えて作られていますね」と声をかけられたんです。ああ、思いが伝わったんだなって、とても嬉しかったです。

続けること、そして根気の大切さ

どんなふうにのめり込んでいったんですか?

作業風景

坂本:1年生の頃は、「ダメだったら辞めようかな」と考えたこともありました。でも一通り経験してから決断してもいいと考え、6月の展示会と夏の合宿が終わるまで、とりあえず頑張って続けてみたんです。すると、段々「自分に合っているかもしれない」と感じるようになった。途中で辞めなくて良かった、と思いました。これは新入生のみなさんにも、ぜひ伝えたいことです。何事もすぐ辞めたりしないで、とりあえず経験してみることが大切。経験する前に一時の感情で辞めてしまっては、自分に合っているかどうかもわからないですから。

沼尻:小さな作品であれば最短2週間で作品ができますが、大きな作品を作るのはそのぶん時間もかかり、とても根気の要る作業です。5〜6時間かけて行った作業が全て無駄に...ということもあります。なので、完成した時は喜びよりも、安堵のほうが大きいくらいです。1つのことに集中して、じっくり取り組める性格の人に、陶芸は向いているんでしょうね。もし陶芸をやっていなかったら、学生生活はだいぶ違うものになっていたと思います。

坂本:想像がつかないですね。陶芸をやっていなかったら、何をやっていたんだろう?って。今では自分にとって、代えることのできない時間です。

まだ見ぬ作品に出会う喜び

普段、どんなふうに作品を制作しているのですか?

作業風景

坂本:富士見会館の5階にある作陶室で制作しています。流れとしてはまず「成形」といって、土を自分の作りたい形にします。数日から1週間かけて乾燥させる作業を挟んだ後、「削り」といって、余計な土を削り、薄く軽い器にする作業を行います。その後、もう一度乾燥させ、いよいよ器を焼く「素焼き」を行います。富士見会館の1階に焼き釜があり、そこで数日間、温度調整などに気を配りながら焼きます。このとき少しでも空気が入ると破裂してしまうので、いつも素焼きが終わるまでは気が抜けません。無事に焼きあがると、今度は「釉薬」といって器に様々な色をつけるための溶液を用います。最後に再度焼く「本焼き」という工程は、部員たちの作品数が多くなってきた時にまとめて行っていて、4日間かかります。焼きあがりを見るのは、いつも楽しいですね。一つとして同じ仕上がりにはなりませんから。

沼尻:展示会には、最低2つは作品を出すようにと、部員に義務付けています。なので展示会の前は、いつも作陶室が混み合いますね。

焼きあがってみたら予想外の仕上がりに...なんていうことも?

沼尻:あります。たとえば、「孔雀」という釉薬を使った時に驚きがありました。かけ方によって色が変わる釉薬だったんです。薄くかけると緑色、厚くかけるとまだら模様の青になりました。陶芸は釉薬ひとつで仕上がりが変わります。まだ使ったことのない釉薬を選んでみたり、お気に入りの釉薬を見つけるのも楽しいです。

初心者でもすぐに始められますか?

作品

坂本:はい、入部したらすぐ作品を作ることができます。部員のほとんどが大学から陶芸を始めたという初心者ばかりですが、必要な道具はそろっていますし、先輩たちが作り方を丁寧に指導しています。

沼尻:やる気と力があれば、1年生でも大きな壺を焼き上げることができますよ。活動日が自由ということもあり、勉強や他のサークル活動、アルバイトと無理なく両立していける部活です。部費は800円なので、経済的に続けやすい、という点も強みではないでしょうか。各自が自分のペースで活動しているため、「混まないから」という理由で、朝6時に来てろくろを回す部員もいます。

坂本:友達と話しながら作る人もいれば、一人黙々と作る人もいて、そこも自由ですね。

養われた眼と自作の器で、日常を彩る

陶芸を始めて、日常生活も変わりましたか?

沼尻さんと坂本さん

沼尻:器を見る時は、とりあえず1回ひっくり返します(笑)。それにお店で器を買う時も、時間をかけて結構しっかりと見ちゃいますね。

坂本:友達とご飯を食べにお店に行って、出てきた器を見ても「これ、どう?」「作れるかな?」という話になってしまいます。「どんな釉薬を使っているんだろう」というのも気になります。

沼尻:それは「陶芸やってる人あるある」ですね。あと、これは私だけかもしれないですが、食堂でプラスチックの器が出てくるとガッカリします。

器を見る目も養われたんですね。

坂本:「これは量産品だな」というのはすぐわかるようになりましたね。以前はそんなこと、全く気にならなかったのに。

ご家族の方たちの反応はどうですか?

作品

坂本:作品を持ち帰ると、家族からは「また?」なんて疎まれることもあります(笑)。それで、「今度はもっと軽いものを作ってね」なんて注文が入ったり。

沼尻:私は家族から、「床の間に飾りたいから大皿を作ってこい」と言われました。

そうやって実用的に使える、というのは良いですね。

坂本:「お皿がないから自分で作る」と話す、一人暮らしの先輩もいました。私も自分で作った白いお皿に、白いご飯と卵を乗せて、「私だけのご飯で、私だけのお皿だ。何もかも自分だ!」と感動したことがあります。

沼尻:私も自分で作って持ち帰った湯のみで、しょっちゅうお茶を飲んでいますね。

「挑戦の年」

お二人がまさか大学で陶芸に熱中するなんて、周囲の方たちは思ってもいなかったでしょうね。

作品

坂本:はい、全く想像もしていなかったみたいで、周りの友達に話すと「えっ、陶芸!?」と必ず驚かれました。「大学生がやることなの?」と言われたり...。陶芸は、若者がやるものとは思われていないんですよね。実際、展示会の来場者もご年配の方のほうが多くて、もっと若い人にも来てほしいなと思っていました。それで、私は若い人にも陶芸に興味を持ってもらえるよう、かわいらしいデザインや、手に取りやすい機能性のある陶器を作っていこうと思ったんです。

陶芸のイメージ改革、といった感じですね。

坂本さん

坂本:これまではあまり情報発信をしてこなかったので、これからは大いに発信していこうと思っているんです。部外の人にも、もっと活動を知ってもらいたい。それで今年からTwitterを使った情報発信も始めました。陶芸部って何してるんだろう?と思われないよう、活動報告をしています。また他大学の陶芸サークルとも、幅広くつながりたいと考えています。学外だけでなく、華道部など学内の部活との連携も模索し始めました。「挑戦の年」と位置付け、今まさに取り組んでいるところです。

いろいろな交流を仕掛けているわけですね。今現在、他大学との交流はあるのですか?

関東学生陶芸連盟 集合写真

沼尻:関東学生陶芸連盟に所属する千葉工業大学と東京大学とは、共同展示会や夏合宿などで交流しています。

坂本:お茶会では自作の器を持ってきてお茶を飲むので、その人の個性がすぐわかって面白いです。器を介して親睦を深めている感じですね。それに、同じ陶芸部でも大学によってカラーが違います。自己紹介で「好きな釉薬は...」と話す熱意のある学生がいたり...

沼尻:釉薬を自分たちで作っている千葉工業大学の取り組みにも、刺激を受けています。

陶芸で、新しい扉を開いてみよう

最後に、新入生のみなさんへ一言お願いします。

坂本さん

坂本:新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。今までは周囲が自分の進む道を用意してくれていましたが、大学は何もかもが自由です。どんな大学生活にするか、どのように4年間を過ごしていくのか、行動の全てに責任がのしかかってきます。ですが、これまで過ごしてきた環境と大きく異なる大学での4年間こそ、自らと真剣に向き合い、進むべき道を定める絶好の機会です。学習院大学で過ごす日々を一日たりとも無駄にせず、後悔のないように考え、行動してみてください。そしてもし「何か新しいことをしてみたい!」と思ったら、なかなか触れる機会のない陶芸を始めてみませんか? 目白キャンパスでぜひお会いしましょう。