2018.12.14 Fri

落語研究会

襲名制度が絆を深める~創部60年の地道な積み重ね~落語研究会インタビュー

襲名制度が絆を深める~創部60年の地道な積み重ね~落語研究会インタビュー

左:文学部史学科3年 山下肇さん <目白亭 白痴(はくち)>(落語班)
中:文学部史学科2年 石山海里さん<目白亭 一味(いちみ)>(落語班)
右:文学部日本語日本文学科2年 飯尾旭さん<目白亭 千とせ(ちとせ)>(三味線班)

 創部当時から少数精鋭、男子学生が中心で活動していた落語研究会。60年の時を経て、最近ではお囃子(おはやし)を演奏する女子学生が多く入部するようになり、現在の部員の男女比はほぼ同じに。プロの落語家たちにも支えられている落語研究会のインタビューで見えてきた舞台ウラとは......?

キャラクターをも変える、落語の不思議な力

入部したきっかけや理由について教えてください。

練習風景

山下:お笑いが大好きで、高校生の時、人気芸人を参考に漫才のネタを作って文化祭で披露しており、おもしろいことをやりたいという思いがありました。入部するまで落語を聞いたことがなく、興味もありませんでしたが、先輩たちの雰囲気がとてもよく、ここなら自分のやりたいことができると思い、入ろうと決意しました。
 
石山:私は、テレビで男性アナウンサーが小噺をしているのを見て、衝撃を受けました。普段テレビで見ているキャラクターはそこにはなく、全くの別人でした。小噺をする姿が格好よく、同時に落語の魔力のようなものを感じました。

飯尾:私は、着物が着たかったこと、楽器演奏がやりたかったこと、そして三味線の音が好きだったことですね。あとは、部室に行ったときに話をしてくれた方が、私の母校の先輩という偶然の出来事があったことが大きいですね。一気に距離が縮まり、親近感を持ちました。

笑いのための孤独との戦い

普段はどんな活動をされているのでしょうか。

練習風景

練習風景

山下:私の属する「落語班」は、1人1教室を使用して落語の稽古をしています。登場人物の気持ち、セリフの言いまわしなど全て自分で行います。お客さんもいないため、反応が全くわからない中で地道に稽古に励みます。教室にこもって孤独との戦い、自分との戦いです。
 
飯尾:私の属する「三味線班」は、1つの教室に集まりみんなで三味線の稽古をしています。三味線は、全員が初心者のため、先輩が後輩に丁寧に教えています。
 
山下:私たちの主な披露の場は、学内での寄席や老人ホームなどです。ほぼ月1回のペースで披露の場があります。毎年夏には、「夏巡業」をしており、地方を移動しながらその地域で落語をさせていただいています。現地で訪問先を探し、落語を通して人々と触れ合います。今年の夏巡業は6泊7日で、まず名古屋まで新幹線で行きました。そして、名古屋から京都まで在来線で移動し、その途中で落語をさせていただきました。

夏巡業の記念写真

夏巡業の記念写真

落語や三味線の魅力ややりがい、続けるモチベーションは何ですか?

山下:落語の稽古はとても孤独で辛いものです。でも、本番の寄席でお客さんが笑ってくれたときは本当にうれしいです。これまで稽古をしてきてよかったと感じる瞬間です。

石山海里さん

石山:私は恥ずかしがり屋なので、落語よりも落語をする前に、落語のCDや見本となる動画をYouTubeなどで見てネタを書くことがとても楽しいです。おもしろくなるように自分でアレンジした部分でお客さんに喜んでもらえると最高です。

飯尾旭さん

飯尾:三味線班は、三味線を演奏するだけではなく、落語家が落語をする場所である「高座(こうざ)」にあがって「お囃子(おはやし)教室」という形で多くの落語家の登場音楽(BGM)である出囃子(でばやし)を紹介しながら、お客さんの前で演奏することも役割のひとつです。台本がないので、お客さんと自由度が高いコミュニケーションができるのは大きな魅力です。高座からお客さんの笑顔を見たり、お客さんからいろいろな反応があると緊張が和らぎ、楽しむことができます。

自分たちで寄席をトータルプロデュース

落語研究会の強み、他の大学の落語研究会にない点とは?

寄席

寄席文字

山下:「自分たちだけで寄席をすることができる」のが強みです。落語研究会というと、落語のみがほとんどですが、私たちには三味線班があるため、月に1回くらいのハイペースで披露の場を設けることができるのです。また、寄席で使用される文字の字体である「寄席文字」も自分たちで書きます。寄席文字は、部室にある寄席文字図鑑を使用し、先輩から教えてもらいます。めくり(出演者名を書いた紙製の札)も部員が作成しますので、最初から最後まで全て自分たちで行います。

最初から最後まで全て自分たちで行うためのノウハウはどうされたのですか?

山下:「プロの落語家と関わることができる」のも私たちの強みです。以前、人間国宝の柳家小さん師匠の自宅が目白にあり、学生が柳家小さん師匠と同じ舞台に上がっていました。そのご縁で現在は柳家小団治師匠に顧問になっていただいています。大きな寄席の前には、OBの林家はな平師匠(林家正蔵の弟子)から直接指導を受け、落語の世界のしきたりなども教えていただいています。プロの落語家に直接指導していただけるのは、私たちの落語研究会は「古典落語」を中心にやっているからでもあります。

襲名と前座名を通して深まる絆

OBでプロの落語家である林家はな平師匠から直接指導を受けているとのことですが、卒業生との交流はありますか?

寄席

襲名前「ハニー」時代の山下さん

襲名前「ハニー」時代の山下さん

飯尾:私たち落語研究会は、襲名制度があります。それぞれ芸名があり、お互いを芸名で呼び合います。大学祭とめじろ寄席で襲名をします。襲名のため、歴代の先輩方一人ひとりに連絡をして、許可をいただかなければなりません。襲名制度が先輩方とのつながりをとても強くしていると感じます。
 
山下:入部した新入生に対して、卒業生を含めてみんなで芸名である「前座名(ぜんざめい)」を考えます。普段、芸名で呼び合っているため、本名が分らなくなることもあります。
落語班は、2年生か3年生で襲名をします。私は、襲名して「白痴」となりましたが、襲名前は「ハニー」で活動していました。襲名の際には、歴代の12名ひとりひとりに連絡して許可をいただきました。稽古を見てから判断すると言われるなど、すぐに許可をいただけない場合もありました。

芸名を考えるときのポイントは?

寄席

山下:新入生にアンケートを書いてもらい、趣味や好きなものをもとに、先輩たちがアイディアを出して芸名を決めます。芸名は①呼びやすいこと ②分かりやすく、覚えやすいこと ③ひねりがあること の3つがポイントです。

石山さん

石山:私の芸名「一味」は、「赤いものが好き」→「赤いもの=唐辛子」→「一味」という経緯で生まれました。

これからの目標は?

山下さん

山下:私たちは大会に出ることはなく、自分たちで寄席を行うのがメインの活動です。堅実ですが、ひとつひとつの寄席に向けて稽古や準備をしっかりすることです。

石山:襲名があるので、それまでに落語のレベルを上げることです。加えて落語以外にも寄席文字や大学祭での舞台作りなど取り組むことが多いので、この1年を何とか乗り切りたいと思います。
 
飯尾:三味線班は人数が少ないため、発表機会がとても多いです。私も稽古をしっかりして本番に備えることと、演奏したい曲があるので演奏できるようにしたいです。

最後に新入生へのメッセージをお願いします。

飯尾:大学では高校までとは比べものにならないくらい世界が広がります。いろいろなところに行って、見て、ぜひ自分の過ごしやすい場所を見つけてください。
 
石山:時間を大事に使ってほしいですね。時間が経つのは意外と早いです。早めに動いていろいろなことに取り組んでほしいです。
 
山下:伝えたいのは「稽古は決して裏切らない」ということです。みなさんにとって稽古にあたるものは勉強や部活など、人それぞれだと思います。しっかり稽古をすれば結果が必ずついてくるので、やるべきことをしっかりとやってほしいと思います。

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