2026.08.26 Wed

落語研究会

笑う門には福来る ~落語研究会~

笑う門には福来る ~落語研究会~

学習院大学の落語研究会は、各自が「目白亭〇〇」という高座名(芸名)を持ち、学内外で落語を披露。落語班と三味線班があり、落語班が高座(舞台)に上がる際、三味線班が出囃子を生演奏する珍しい"落研"です。これまで林家はな平さんや柳家小もんさんといったプロの落語家も輩出し、本職の噺家が後輩の指導にあたるほか、学内での寄席に特別出演することもあります。こうした卒業生から日々指導を受けているのが、3年生で委員長を務める"目白亭白痴(はくち)"こと杉木豊実さん。2年生で副委員長を務める"目白亭夏芽(なつめ)"こと松下晴さんとともに、落研の活動内容や魅力を語ってもらいました。

杉木豊実さん
松下晴さん

"目白亭白痴"こと 杉木豊実さん 法学部法学科 3年 東京都立北園高等学校出身[2026年度委員長(落語班)]
"目白亭夏芽"こと 松下晴さん 文学部教育学科 2年 東京都・私立朋優学院高等学校出身[2026年度副委員長(三味線班)]

みんなで寄席を観に行こう!

まず、お二人が落語研究会に入部した理由から聞かせてください。

杉木:私は小学校低学年の頃に、家にあった落語のCDを聞いたことが始まりです。それが面白くて、小学校5年生のときには『笑点』を見始めました。その後は特に積極的に落語に触れていたわけではないですが、大学に"落研"があると知って入りました。最初から決めていたわけでもなく、「あるんだ?じゃあちょっと見学してみようかな」くらいの感じでした。

松下:私は高校時代に偶然見たYouTubeのショート動画がきっかけです。そこから落語を聴いていた時期があって、「出囃子かっこいいかも」と思ったんです。そこから、大学に落語研究会があると知り、なおかつ学習院はCDではなく三味線の生演奏ができると聞いて、やってみようと思いました。

入ってからはどんな流れですか?

杉木:落語班の場合、1年生にとって初めてのお披露目となる6月の「若手勉強会」に向けて、みんなで寄席を観に行ったり、部室で落語の動画を観たりします。その中で面白そうなネタを選んで練習を始め、同時に落語の決まりごとも覚えていきます。例えば、小道具である扇子や手ぬぐいの使い方や、"かみしも(カミシモ)を振る"といって、右や左を向いて登場人物を演じ分ける際のルールも覚えます。また、出囃子は三味線班が演奏してくれますが、太鼓は落語班が手分けして叩きますので、その練習もします。「若手勉強会」でのネタは、1人15分程度。ネタに合う声のトーンや間合いなどは、内容を覚えて実際に喋ってみることで体に染み込ませていき、上級生や卒業生の師匠方からのアドバイスも受けられます。

練習のための活動日を教えてください。

杉木:基本的な活動日は"週2回"で、1年生が入ったばかりの時期は教えることが多いので、"水曜日と木曜日に一応集まろう"という話にしています。水曜日になるべく全員で集まって、次のイベントに向けた打ち合わせや練習を行い、落語班は木曜日にも集まります。落語班の練習は、台本を読んだり音源を聴いたりといった個人練習が中心で、ある程度内容をインプットしてから見せ合ってアドバイスし合うので、集まるのは週2回程度です。

松下:それでいうと、三味線班には木曜日に集まる決まりはなくて、最近は個人で練習することの方が多いです。現在の三味線班は、4年生の"目白亭玉妃"さんと、2年生は私を含めて3人で、もちろん入部当初は玉妃さんに教えてもらうことが多かったのですが、慣れてくると自分で反復練習して曲を覚える時間が大事ですので、落語班と同じように個人練習がメインになるんです。ですから、部室にある三味線を持ち帰って家で練習しても構いません。ただ、私は移動中に三味線を壊してしまうのが怖いので、部室に置きっぱなしにして、基本的には学内で練習しています。それで、結局のところ活動日以外でも時間があれば部室に行って練習しますので、なんだかんだでみんなと顔を合わせています。なお、最近は三味線班も外部の寄席を見に行くことが増えました。出囃子は言わば登場曲ですが、ネタが終わって演者が高座から降りるときにも演奏するんです。その際に、落語で"サゲ"と呼ばれている話の"オチ"や終わり方がわかっていないと、タイミングよく弾き始められませんので、その絶妙なタイミングを知るためにも実際に見て聴いて学ぶようにしています。

なんとなく自然に笑っちゃう状況が一番いい

プロの落語家による指導も受けられるんですよね?

杉木:お忙しい中、後輩のために稽古をつけてくださって、学内での寄席にも特別出演していただいています。私が林家はな平師匠から受けた指導で印象深いのは、「ウケようとしすぎている」と指摘されたことです。私は落語を始めて3年目。喋る内容も頭に入ってきたことから、もう少し工夫したら面白くなるんじゃないかと考えてアドリブを入れることがあるんです。でも、師匠は「落語はコントや漫才のように瞬間的に笑わせるのではなくて、会話劇として聞いていたお客さんが、なんとなく自然に笑っちゃう状況が一番いい」というんです。師匠からすると、私は目先の笑いを求めすぎだったんです。「なるほど」と思いましたし、確かに師匠は気負って「面白いんだぞ!」と主張するような感じではなく、聞いているこっちが自然と笑ってしまうんです。これが学生の落語と、本職の落語の違いなのだと思いました。ちなみにですが、師匠方は穏やかでやさしい方々ばかりで、怒られた記憶はないですね。

松下:私の場合、卒業生や玉妃さんのほかに、高校時代に筝曲部で琴を弾いていた"目白亭おたべ"と、"目白亭花蓮"という2人の同級生からも何かと指摘をしてもらっています。三味線では、基本の音をYouTubeなどで聴いて"調弦"をするのですが、同級生の2人には私にはない音感があって、「音がずれてるよ」と教えてくれるんです。この先、玉妃さんは卒業してしまい、現在の2年生3人が三味線班の一番上になることを考えると、正確な調弦もそうですし、もっと弾ける曲を増やしたいと思っています。

落語はどんなイベントで披露しているのですか?

杉木:4月の「オール学習院 めじろ寄席」や、6月の「若手勉強会」という寄席のほか、大学祭での寄席、言わば引退公演となる「雪解けめじろ寄席」などがあり、それらに向けてネタを覚えて練習を重ねます。今年の1年生3人は全員が落語班で、初のお披露目となった「若手勉強会」ではしっかりと話し切ることができました。また、去年の大学祭では、最大60人程度が入る教室が満席になり、立ち見が出るほどでした。プロになった卒業生も出演してくださって、しかも"木戸銭"なし、要は入場料なしということで、学生や来場者からしても、とても貴重な機会になったと思います。また、年間を通じて、高齢者施設や地域のコミュニティセンターなどから直接ご依頼をいただき、土日に「出張寄席」を行うことも少なくありません。大学周辺に限らず、行けるところならどこへでも馳せ参じます。さらに、夏には合宿があり、昨年は日光・光徳小屋(学習院の校外施設)にみんなで行き、旅行気分で美味しいご飯を食べてきました。今年の夏は、福島での出張寄席の予定があり、合宿を兼ねて行ってくる予定です。同窓会組織「学習院桜友会」の福島桜友会でイベントを企画することになって、「落語研究会に出演してほしい」という話が出たようなんです。本当にありがたい限りです。あともう一つ、2026年に久しぶりに復活したのが、「春のめじろ寄席」です。

十四代目「目白亭白痴」を襲名

なぜ「春のめじろ寄席」が復活したのですか?

杉木:「春のめじろ寄席」は、ここ何年かは部員が少なくなってしまったこともあって開催していなかったのですが、これまで「目白亭伊笑者(いえもん)」を名乗ってきた私が、学習院の落研で十四代目となる「目白亭白痴」を襲名することになって、621日に「春のめじろ寄席 十四代目 目白亭白痴襲名披露興行」を行いました。先人の名前を受け継いでいく襲名という文化が伝統芸能の世界にはあって、私たちは学生の組織ではあるものの、これにあやかって襲名を行っているんです。当日は在学中に「白痴」を名乗っていたOBの林家はな平師匠と柳家小もんさんのほか、柳家小團治師匠にも特別にご出演いただきました。なお、はな平師匠は私の三代前となる十一代目の白痴で、その次の十二代目白痴が、柳家小もんさんです。

どうすれば襲名できるんですか?

杉木:選考があるわけではなく、先輩に「お名前をいただきたいです」と自分からお願いするんです。それでOKをいただければ襲名するという流れです。コロナ禍もあって、ここ8年ぐらいは襲名が行われていなかった中で、私が襲名したいと思い立ったのは202510月ぐらい。翌月の大学祭に先代の"白痴"である先輩がいらしたので、相談させてもらいました。その後、歴代の白痴の方々に私の落語を見てもらい、「これならいいでしょう」ということで決まりました。ちなみに、「白痴」以外にも、例えば「玉三郎」や「白朝」など、学習院の落研で受け継がれている高座名があり、女性だけが名乗れる名前や、三味線班だけが名乗れる名前もあります。なお、私は以前「目白亭伊笑者」でしたが、もし「二代目伊笑者になりたい」なんて後輩が出てきてくれれば、譲るかもしれませんね。

杉木さんもプロの道に進むのですか?

杉木:確かに白痴を名乗った先輩の何人かはプロの噺家になりましたが、全員が本職になっているわけではありません。落語の世界は「この師匠のもとで弟子になって落語家になりたい」という人が、「お願いします」というスタンスで入っていく世界。しかも、基本的には「そんなに簡単な世界ではないからやめておいた方がいい」と止められるらしいのです。だからスカウトのようなものもなく、積極的に勧められることもないみたいです。ですから、私も、私は、どうなりますかね......、どうしましょうかね......。

会場全体が一つになる喜び

落語のコンテストなどに出場することもあるのですか?

杉木:落研として定期的に出場しているわけではないですが、私は昨年、学生落語の大会である「策伝大賞」という全国大会に参加しました。ビデオ審査、予選、決勝の3段階に分かれていて、総応募者数は約300人。ビデオ審査で150人ぐらいまでに絞られて、予選を経て決勝に行けるのが8人。私はビデオ審査はクリアして、予選と決勝が行われる岐阜まで行ってきました。決勝には進めませんでしたが、他大学の学生と連絡先を交換し、新しいつながりをつくることもできました。決勝に進んだ学生は、本当に上手で驚きました。古典落語を練りに練ったり、自分で1からネタを作ったり、元ネタの設定を大きく変えて"改作落語"にしたりと、オリジナリティ溢れる工夫がされていて、純粋に「すごいなぁ」と思いました。私の知る限り、ここ何年かは学習院の落研から学外の大会にエントリーしたケースはありませんが、とても刺激的だったので、私は再度チャレンジしたいと思っています。

落語では、どれくらいオリジナリティを出せるものなのですか?

杉木:私の場合は、話の骨格の部分は残しますし、中身を大きく変更することはないですが、ちょっと言い回しを変えてみるとか、自分のやりやすいように変えています。ですから、1年生に対しても、「自分のやりやすいように変えてもいいよ」とは伝えています。もちろん最初の頃は元の音源をなぞるのが一番ですが、慣れてきたら、わかりやすい表現や、現代風の言い回しなど、「自分が喋りやすいように少し変えてみるといいよ」といったアドバイスはします。また、練習していくと、自分の中で「ここは変えない方がいいかもしれない」「ここは自由にやってもいいんじゃないか」といったポイントもわかってくると思います。そうやってアレンジしていくと、自分の落語がお客さんに「ハマった」と思える瞬間が訪れるんです。会場全体が一つになる感覚がして、「ここで!」というタイミングで必ず笑いが起きるんです。それで最後にサゲ(オチ)を言って大きな拍手をもらったときは、心の底から嬉しくなりますね。

ちなみに、古典落語の中にはこのご時世にマッチしないネタもあると聞いたのですが...。

杉木:むむむ......。そうなんです。落語の登場人物は、映画のようなヒーローではないですし、劇的で感動的な展開があるわけでもないばかりか、低俗だといわれても仕方のないような人物が登場するネタもあります。ただ、「そういえばこんな人いるよね」とか、「こういう話ありがちだよね」といった、ややもすると悲しく哀れで、でも憎めない人物や世界観を描くのが落語なんです。ある落語家さんは、「落語っていうのは、馬鹿らしいことをしてしまう人間、社会にうまくなじめない変な生き物を笑って許してあげるものなんだ」と話していました。現代社会のコンプライアンスという観点では、風当たりが強くなる側面があることは確かですが、そういう点をご理解いただいた上で落語を楽しんでもらえたらいいですね。

落語班と三味線班の二刀流でもOK

では最後に、未来の"目白亭〇〇"さんにメッセージをお願いします。

4年生の玉妃さんは落語と三味線の二刀流

松下:落研の落語会では、三味線班も「おはやし教室」と題して高座に上がり、出囃子の演奏はもちろんのこと、出囃子に関する背景知識や聴きどころを披露することがあります。この経験を重ねてきたからこそ、授業での発表をはじめとして、人前で話すことへの心理的なハードルがなくなってきました。入ったばかりの頃は緊張もしましたが、先輩方や卒業生があたたかく見守ってくれる中で着実に成長していけますので、少しでも落語に興味があれば、気軽に連絡していただければと思います。

杉木:私は昔から人前で話すことへの抵抗感はなくて、落研でも苦には感じなかったのですが、優先順位をつけて計画的に物事を進めることは得意ではなくて、当初はそこが課題でした。徐々に改善されてきているとは思いますが、イベントに向けた準備では直前になってバタバタして焦りまくり、先輩に謝って尻ぬぐいしてもらうこともありました。そうかと思えば委員長になって、そうなると今度は素晴らしい後輩たちがサポートしてくれて、私は幸せ者ですね。

松下:2年生の"おたべ"は渉外的な役割で忙しそうにしていて、同じく2年生の"目白亭おすし"も広報担当として日々情報発信していますね。一方で、私は運営面では副委員長をしていますが、そこまで副委員長としての役割を果たせている実感はなくて...、これから頑張りますね。ちなみに、"目白亭おすし"は、基本的には落語班なのですが、最近は三味線にも興味を持って練習を始めています。4年生の玉妃さんは正に落語班と三味線班の二刀流ですし、自由に自分なりの関わり方を探せることも落研の魅力ですね。

杉木:そうですね。大学に入ると世界が大きく広がりますし、いろいろなことにチャレンジして、自分の可能性を広げていってほしいですね。ただ、そう肩肘張らず、まずはお気軽にいらしてください。