教員紹介

村瀬 英彰教授

Hideaki Murase

研究分野
経済政策論、金融論、マクロ経済学、日本経済論
担当科目
経済政策特論Ⅰ、(学部:経済政策(上級Ⅰ))経済政策特殊研究

略歴

1986年 東京大学経済学部卒業
1991年 東京大学大学院経済学研究科退学
同年 横浜国立大学経済学部助教授
1997年 名古屋市立大学経済学部助教授
2005年 名古屋市立大学大学院経済学研究科教授
2013年 学習院大学経済学部教授

主要業績

*『シリーズ新エコノミクス 金融論 第2版』日本評論社、2016年(第1版、2006年)(単著)。
*「日本の長期停滞と蓄積レジームの転換-弱い企業統治のマクロ経済学による分析」堀内昭義・花崎正晴・中村純一編『日本経済 変革期の金融と企業行動』pp.269-313、東京大学出版会、2014年(安藤浩一氏と共著)。
*「コーポレート・ガバナンスと株式市場─企業収益と株式収益率への影響」香西泰・宮川努編『日本経済グローバル競争力の再生 ヒト・モノ・カネの歪みの実証分析』pp.285-314、日本経済新聞社、2008年(笛田郁子・細野薫氏と共著)。
*「権利の束としての不動産:オプション理論による解明」西村清彦編『不動産市場の経済分析(シリーズ現代経済研究Vol.20)』pp.239-259、日本経済新聞社、2002年、不動産学会著作賞受賞(単著)。
*「設備投資と土地投資」浅子和美・大瀧雅之編『現代マクロ経済動学』pp.323-350、東京大学出版会、1997年(浅子和美・国則守生・井上徹氏と共著)。
*『ゼミナール国際金融 基礎と現実』東洋経済新報社、1993年(河合正弘・須田美矢子・翁邦雄氏と共著)。
*『発展途上国の累積債務問題』三菱経済研究所、1992年(河合正弘氏と共著)。
*“Macroeconomics of Weak Corporate Governance: An Alternative Theory of Japan’s Lost Decade” Review of Monetary and Financial Studies, Vol.34, pp.64-80, 2012(単著).
*“Ownership Structure and the Risk-Return Profiles of Japanese Stocks” Corporate Ownership and Control, Vol.7, Issue 1, pp.9-17, 2009 (with Kaoru Hosono and Ikuko Samikawa).
*“Why Watchdogs Sometimes Forget to Bark?” Review of Monetary and Financial Studies, Vol.27, pp.47-57, 2008(単著).
*“Electoral Competition and the Political Support for Risky Politicians” Public Choice Studies, Vol.49, pp.17-25, 2007(単著).
*“Monitored versus Non-monitored Finance: The Bank-centered System as a Coordination Failure” Review of Monetary and Financial Studies, Vol.23, pp.51-64, 2006(単著).
* “The Peacock’s Tail: Why is an Extremist so Sexy?” Japanese Economic Review, Vol.55, Issue3, pp.321-330, 2004(単著).
* “A Theory of Split-Ticket Voting: Biased Politicians as Contestants” Public Choice Studies, Vol.42, pp.32-45, 2004(単著).
* “On Land Price Formation: Bubble versus Option” Japanese Economic Review, Vol.50, Issue2, pp.212-226, 1999 (with Satoru Kanoh).
*“Equity Ownership and the Determination of Managers’ Bonuses in Japanese Firms” Japan and the World Economy, Vol.10, No.3, pp.321-331, 1998(単著).
*“Monetary Policy Regimes, Central Bank Commitments, and International Policy Coordination”In Lawrence R. Klein (ed.) A Quest for a More Stable World Economic System: Restructuring at a Time of Cyclical Adjustment, pp.73-98, Kluwer Academic Publishers, 1993 (with Masahiro Kawai).

学外での活動

日本金融学会(常任理事:2014年~現在、理事:2012年~2014年、『金融経済研究』編集委員:2011年~現在)、日本応用経済学会(『応用経済学研究』編集委員:2010年~2012年)、日本経済政策学会(理事:2001年~2006年、『経済政策ジャーナル』編集委員:2003年~現在)、公共選択学会(川野辺賞選考委員:2013年)、不動産鑑定士試験試験委員(「経済学」:2016年)、科学研究費委員会審査委員(「経済政策」:2009年~2011年)、地方公務員試験出題委員(「国際金融論」:1995年~1997年)、日本銀行理論研修講師(「国際金融論」:1993年~1996年)、建設大学校(国土交通大学校)講師(「不動産価格理論」:1993年)

講義・演習の運営方針

「経済政策論」がわたしの研究分野です。「経済政策論」というと、伝統的には、「経済問題を解決し人々の生活を良くする政策の解明」が研究課題でした。すなわち、そこでは、「良い政策」が採用されることを前提に、「何が良い政策なのか」が探求されてきたといえます。

でも、現実世界では、伝統的な「経済政策論」の問題意識に反して、経済学の教科書で良いとされる政策が採用されなかったり、悪いとされる政策が採用され続けたりといったことが頻繁にみられます。

どうして、このような「おかしなこと」が起こるのでしょうか?経済学の知識が世の中に普及しておらず誤解に基づく政策決定が行われているから?それとも、悪い政策からこっそり利益を得ている人々が事実をひた隠しにして世の中を騙し続けているから?

そうした考えにも一理あります。しかし、人々の勉強不足や誰かの陰謀だけで「おかしなこと」が永続したり反復したりすると言い切ってしまうのも無理があります。つまり、良い政策が採用されなかったり悪い政策が採用され続けたりということがあるならば、そこにはそれなりのもっと合理的な理由があるはずなのです。

わたしは、「良い政策」のあり方を探求する伝統的な経済政策論を「良い政策の経済理論」と呼び、「良い政策」がなかなか採用されず「悪い政策」が採用され続ける理由を探求する経済政策論を「悪い政策の経済理論」と呼んで区別することにしています。そして、「悪い政策の経済理論」の研究対象である「自分たちが間違ったことをしているのはわかっているけれどやめられない」メカニズムの解明を研究課題の1つにしています。「悪い政策」の採用はけしからん、政府が悪い、役人が悪い、と言っているだけでは問題は解決せず、「悪い政策」の発生メカニズムを多面的に解明することこそ、真に「悪い政策」を退治し「良い政策」の採用を促すために必要だからです。

講義では、こうした「経済政策論の新展開」を背景にして、まず、基礎編として「経済問題を解決し人々の生活を良くする政策は何か」という「良い政策の経済理論」を学びます。その後、応用編として「悪い政策の経済理論」を学び、現実世界で「良い政策」の実現を妨げている様々な経済的・社会的要因について洞察を深めていきます。

とくに、民主主義制度の下での政策の作り手(政策の「供給者」)である政府と政策の受け手(政策の「需要者」)である国民の関わりに着目し、「需要者」である国民が、様々な要因のために政治プロセスに自分の意思を反映できず、「供給者」である政府が「良い政策」の採用に失敗するメカニズムを分析します。さらに、こうした「国民が良い政策を望んでいるにもかかわらず政府がそれを実現しない」という「供給サイドの失敗」理論だけでなく、国民が投票者として有する様々なバイアスを分析に取り込み、「国民が教科書的な意味での良い政策を"実は望んでいない"ので政府がそれを実現しない」という「需要サイドの失敗」理論にも議論を進めていきます。

日本がいまだ長期停滞にある中、サブプライム・ローン問題、ヨーロッパ債務危機、中国の景気後退などのショックやTPP参加問題などの政策課題が次から次へと押し寄せてきています。こうした中、多くの人々は、「望ましい政策は何か」、「その政策は実現可能か」、さらには「政策が実現したとして、それで自分の生活はどうなるのだろうか」といった問いに対して、ますます自信ある解答を出せなくなっているようにみえます。いまの日本にとって「良い政策」は何か、また採用すべき「良い政策」が見つかったとしてそれを実現するために必要な環境は何か、混迷を深める今日、皆さんと一緒に懸命に考えていきたいと思います。

メッセージ

さまざまな経済現象は、それぞれの人に異なった利害得失をもたらします。経済学の知識を身に付けると、ある現象が自分の身辺に与える影響だけでなく、世代や地域、国を超えて他の人に与える影響を理解することができるようになります。そうした他の人の状況への深い理解を基にしてお互いを尊重しながら力を合わせて問題解決のアイデアを出していく、ここに経済学の知識活用の醍醐味があります。皆さんが、大学生活を通じて、経済学の知識に裏付けられたアイデア豊かな社会人へと成長されることを楽しみにしています。