院生インタビュー

『知りたい』が紡ぐ研究者の道。学びの旅は始まったばかり

博士前期課程2年
松本 莉奈 Rina Matsumoto

サステナビリティ情報の開示が資本市場に与える影響とは。利益と持続可能性の両立の鍵を解き明かす

博士前期課程2年の松本莉奈さんは、学習院大学大学院経営学研究科において「サステナビリティ情報の開示」を研究する。近年、世界的な社会活動の潮流として注目されるサステナビリティ。日本語で「持続可能性」と表現されるこの概念は、企業活動にも大きな影響を与えている。松本さんは企業が開示するサステナビリティ情報と会計情報の関係性に関心を持っている。

「昨年、国際会計基準審議会IASBから、IFRS S1「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」が公表されました。ここで開示が要求される情報は投資家が行う投資判断のために用いられるものです。サステナビリティ情報は、企業の開示情報においてどのような位置づけなのか、投資意思決定にどれほど有用な情報を提供するのか、ということに関心があります」

世界中の企業や投資家が注目するトレンドに着目した研究である一方、最新のトピックであるがゆえの難しさがあると松本さんは語る。

「伝統的な会計学の研究と比べると先行研究が少ない分野であることは間違いありません。最新の情報が次々と登場する分野ですので、積極的にキャッチしていかないとすぐに乗り遅れてしまいます。さらには定性的な情報が多くなる傾向にあり、各企業の取り組みを数値化し、比較することが難しい面もあります」

情報の不明瞭さや信頼性と戦いながら行う研究は決して楽なものではない。無き道を切り開くにも等しい苦労があるといえるだろうが、松本さんは「だからこそ楽しい」と笑顔を見せる。

「企業の利益とサステナビリティへの取り組みは両立するのか。トレードオフにならざるを得ないのかという点は、さまざまな研究が行われてはいますが明らかにはなっていません。この分野の研究は定性的な情報が多いがゆえの難しさはありますが、未開拓であるからこそ本当に楽しいです。」

松本さんがサステナビリティを研究テーマに選んだ背景には、中高生時代からの社会問題への関心があった。

「女子中・高等科時代に募金活動等を行う学内の委員会に入っていて、その一環として様々な社会問題や開発途上国について調べる活動をしていました。その経験を通じ、募金活動やボランティア活動など、ひとりひとりの取り組みは社会問題を克服するうえでとても大切である一方で、社会問題の根本解決には企業などの組織の協力も不可欠なのではないかという考えを持つようになりました。この頃はテーマを突き詰めたいとまでは思っていませんでしたが、大学院に入るまで心の中に残り続けていたのだと思います」

公認会計士試験合格を経て選んだ大学院への道。指導教授との出会いが人生を切り開く

松本さんの会計との出会いは学習院大学経済学部にあった。中学・高校と学習院で学んだ松本さんは、得意の数学を生かす進路を検討。選択肢に数学科と経済学科が挙がり、最終的に実社会での生活に直結するイメージを持った経済学科へ進学した。

期待に胸膨らませながら学習院大学に進んだ松本さんだったが、2020年は新型コロナウイルスの影響が最も大きかった時期。講義のオンライン化や外出自粛といった生活環境に身を置く中で、時間の有効活用先として簿記に注目する。

「もともと数字が好きだったこともあり、大学に入ってから簿記に興味を持つようになりました。勉強を始めてみると、計算だけではない世界が広がっていました。会計学の理論やファイナンスの考え方、会社法や税法との関係性など、学ぶことすべてがとても新鮮でした。元々好きなものにはとことんのめり込む性格なのですが、勉強を始めてすぐの頃からすっかり簿記や会計の分野に夢中になっていました」

オンラインで受講した経済学部の簿記入門の授業を出発点に、松本さんは徹底的に簿記や会計の学びを深めていく。その集中した取り組みは、2年次に日商簿記1級合格、3年次には公認会計士試験の合格という成果へと繋がった。

国内最難関資格のひとつである公認会計士試験の合格を果たした松本さんは、学部3年の終わりに大きなターニングポイントを迎えた。

「公認会計士の一次試験である短答式試験に合格し、将来やりたいことを考えていた時、『より専門性の高い公認会計士になりたい』という思いが浮かび上がってきていました。ちょうど同じ時期に自分が3年次での早期卒業制度を使って大学院へ進める要件を満たしていることがわかったので、指導教授に相談し、背中を押していただき進学を決めました」

松本さんと指導教授の出会いは学部2年生の夏頃に遡る。経済学部の学科を跨いでゼミに参加できる制度を利用し、経済学科に在籍しながら経営学科のゼミへ所属したという。松本さんは指導教授との出会いのきっかけをこう語った。

「先生のゼミの募集には『一生の友に出会う』という内容が書かれていました。そのメッセージは、コロナ禍の影響でキャンパスで過ごす時間が少なかった私にとってとても魅力的でした。その頃は会計士試験の勉強に多くの時間を使っていた時期でしたので、経済全般を同期と共に学ぶことのできる環境に身を置くことで、大学生活をより充実したものにできると考えました。また、女性で教授として活躍されている先生のお話を伺ってみたかったというのも大きな理由です」

この選択が、松本さんのこれからを大きく変えることになった。松本さんは学部時代の指導教授の印象を次のように語った。

「話せば話すほど、もう本当にすごい方なのだと驚きました。お忙しい身でありながら、学生一人一人に真摯に向き合いながらお話をしてくださって。私を含め、学生がターニングポイントを向かえるような時には本当にたくさんの時間を使って相談に乗ってくださいました。ゼミの指導教授の枠を越えて、とても尊敬している方です」

指導教授へ学部卒業後の進路の相談をした際も、教授は真摯に寄り添ってくれたという。

「会計の研究をしたいという思いがあったのはもちろんですが、それと同じくらい浅見先生にご指導いただきたいという思いがありました。そのため、学習院ではない大学院に進むつもりは全くありませんでした」

こうして松本さんの大学院進学は、会計への興味、社会貢献への思い、そして指導教授との出会いが重なって実現した。学習院大学で積み重ねてきた経験が、新たな挑戦につながったのだろう。

自分だけの研究を突き詰められる魅力。学習院だからこそ味わえる贅沢な時間

中学から学習院で学び、学習院が大好きな松本さん。学習院という環境の魅力を次のように語った。

「学習院全体の印象として、温かい雰囲気のある学校だと思います。女子中・高等科時代には先生方がいつも学生一人一人を気にかけてくださっていると感じていました。これは学部以降も変わることはなく、特に少人数制である大学院では、教授と密接な関係を築きやすい環境にあると思います」

学習院における教授との密接な関わり方とは何か。松本さんは「いろいろありますが」と前置いたうえで「教授が個人のレベルに合わせたカリキュラムを組んでくださる」点を挙げた。

「たとえば私は経済学科出身なので、会計学の基礎は一通り学んでいても、意思決定論やマーケティングの知識はほぼ無い状態で入学しました。そんな私に対して、それらの分野の先生方は知識がゼロであることを前提に授業内容を組み立ててくださいました」

「一方で、会計学の本川勝啓教授は、日本の会計基準の基本的な知識を身につけていることを前提とした、より深い知識を与えてくれるような授業をしてくださいます。国内でも有数の研究環境といわれる学習院の教授が自分に合わせたカリキュラムをつくってくださる環境は、本当に贅沢だと思います」

充実した日々は、教授という存在から与えられるだけではない。松本さんが「贅沢」と評する時間は、同じ志を持つ院生との繋がりからも得られているという。

「学習院の大学院に来る方は、教授との密接な関わりの中で研究したいという人ばかりです。一見穏やかでおとなしめな方が多いですが、皆さん強い思いや研究への情熱をお持ちです。そうした尊敬できる方々がいらっしゃる中で研究に取り組める環境は、本当に刺激的です」

充実した環境で研究へのめり込み続ける松本さん。今後の目標について、学習院の協定留学制度を利用したアメリカへの渡航計画を明かした。

「8月からアメリカに留学し、現地でも会計学を学ぶ予定です。サステナビリティの問題についても、国ごとの捉え方や問題意識の度合いの違いも感じられたらいいなと思っています」

自身が歩んでいる道を振り返り、最後に松本さんは学習院での学びの素晴らしさを呼びかけた。

「いつも親身になってくださる指導教授、院生の成長に合わせてご指導してくださる教授陣、そしてそれぞれの研究を熱心におこなう大学院の仲間たち。学習院は私にとって何ものにも代え難い場所であるといえます。協定留学制度のような、学生や院生の学びをサポートする制度も充実しています。突き詰めたい研究分野や、没頭したい興味関心がある分野がある方は、ぜひ学習院大学の大学院に来て欲しいです。研究を通じて未知の世界を切り開くのは、本当に楽しいです。」

取材: 2024年6月5日
インタビュアー: 手塚 裕之
文: 手塚 裕之

身分・所属についてはインタビュー日における情報を
記事に反映しています。

取材:2024年6月5日/インタビュアー:手塚 裕之/文:手塚 裕之

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