院生インタビュー

幅広く、深く学ぶ大学院は
自分との真剣勝負の場。

博士前期課程
髙井 駿 Shun Takai

身近だった会計学。さらに深い学びのきっかけは学部時代にあった

髙井駿さんにとって会計学は、物心ついたときにはすでに身近な存在だった。税理士である父が自宅で仕事をしているのを目の当たりにし、簿記や会計は常にそこにあったからだ。「自分も勉強してみたい」。いつしかそんな思いが芽生え、学習院大学経済学部経営学科に進学し、会計学を学ぶに至るのは、ごく自然な流れだった。

「大学に入学した当初は、資格試験を受けて士業をめざす方向性で考えていました。ですが、経営学科の講義を受け、ゼミに参加するうちに、もっと会計学の奥深い内容を知りたいと思うようになったのです。」

きっかけは、現在に至るまでの恩師である勝尾裕子教授の講義やゼミを受講したことだった。ゼミの中で、あるテーマについて自分なりに調べ、発表した時のことだ。自分では考えもつかなかった示唆を勝尾教授に与えていただき、「そんな考え方もあるのか、もっと掘り下げるとこういう考え方もあるのだなと、視野の広さや目の付け所に衝撃を受けたのです。」

「勝尾教授のもとで、より深く会計学を学びたい」。髙井さんがその思いを強くするのに、そう時間はかからなかった。髙井さんは優秀な成績を修め、学部を3年で早期卒業して大学院へ進学することになる。大学院への進学について勝尾教授に相談したときのことを、髙井さんはよく覚えている。

「『勉強ができる人や、与えられた仕事を無難にこなせる人ならば、世の中にたくさんいる。必要なことは、何が問題なのかを自分で見つけ出し、それを解決する力を身につけていることであり、それこそが価値ある力である』というお話をしていただいたのです。」

先生と学生との距離感の近さは、学習院大学大学院の大きな特徴のひとつだ。学問上の相談はもちろんのこと、人生の先輩としてさまざまなことに矜持をあたえてくれる。勝尾教授ももちろんその一人だ。

「学生の立場であることは大前提としても、先生との距離が近いのは実感しています。勝尾教授は学生に寄り添ってくださる先生で、在学生はもちろん、卒業後のOBやOGも頻繁に勝尾教授にお会いしていろいろな相談をしていると聞いています。また、大学院での授業の多くは少人数制で、先生とのマンツーマン授業のこともあります。大学院の他の先生方とやりとりさせていただく機会も多く、腰を据えて研究に取り組める環境が整っていると思います。」

同じ学問を志す仲間や、先輩・後輩との関係も重要だ。髙井さんが大学院進学を考え始めた頃にも、大学院に進んだゼミの先輩に相談に乗ってもらっていた。ゼミの同期の友人達とは、大学院入学後も互いに支え合っていくことになる。

あえて議論の多いテーマに飛び込んで、自分なりの考察を

髙井さんの現在の研究テーマは、「財務会計における割引現在価値測定」だ。割引現在価値測定とは、将来もたらされる収入や支出について、その額面の金額を一定の利子率で割り引いた金額により評価するという方法。

たとえば、今日あなたの手元に100万円あったとしよう。さて、1年後のこの100万円の価値を考えてみる。100万円をたとえば金利5%の預金として保有しているなら、1年後には105万円となる。将来の105万円と現在の100万円は同じ価値であり、将来からみて現在の価値は100万円に"割り引かれて"いるとみることができるのだ。

このような評価の方法は、さまざまなところで取り入れられている。とくに投資家の間では、その意思決定において定着している評価方法といえる。だが、会計測定の場面では賛否両論あるのが現状だ。時間が経過することで損益が発生することにどのような意味があるのか、明らかにされてはいない。

とくに税効果会計における繰延税金の現在価値測定については古くて新しいテーマである。修士論文では、繰延税金の割引現在価値測定の意義が、その税金支払い延期の経済的な利点を、延期した時点で認識することから導かれており、その後の期間において計上される利息の要素について、議論が不十分であることを指摘した。

割引現在価値に関する議論は日本や国際会計基準(IFRS)、アメリカ、ドイツなど国・地域によってもさまざまで、理論的な考え方だけでなく実務上の対応も異なっており、"正しい答え"はどこにもない。

しかし髙井さんは、「議論の多いテーマほど面白い」と感じる一人だ。

「学部時代は、体系付けられ確立された学問を学ぶ機会が多いのに対して、大学院では自分なりの視点で考えていくことが必要です。会計学はルールを扱うことの多い学問分野ですが、なぜそのようなルールになっているのか、理由が明確でなかったり、ルール策定までの議論に検討すべき重要論点が含まれていたり、いまだに答えがひとつでないものがあったりと、さまざまな考え方に触れることで多様な問題が浮かび上がってきます。それらを自分でひとつひとつ拾い上げ、たくさんの議論の中から自分なりの筋を通していく作業がとても刺激的で面白いのです。」

学部時代とは異なる、学びの幅の広さ、そして深さ。これぞ大学院での学びの醍醐味だ。

日々の研究は、大量の文献と格闘し、膨大な情報を整理するところからはじまる。次に情報を組み立てて、足りないところや先行研究の問題は何かを明らかにする。そして、足りないところを自分なりにどう考えていくかの作業にとりかかる。

「行き詰まることももちろんあります。まだまだ情報を拾うスピードも精度もあげていきたいし、情報を取捨選択する力もつけていきたいです。」

博士後期課程でさらなる研究を。教える立場も両立したい

髙井さんは今後について、博士後期課程への進学を希望している。さらに研究を進めることによって、利益の測定と会計理論に対して何がしかの貢献ができるのではないかという手応えを感じているからだ。

「割引現在価値評価に伴い認識される、機会費用を表す利息の要素について、損益計算の観点から検討を行う予定です。具体的には、機会費用が損益計算に含まれるものであるのか、含まれるとすればどのようなタイミングで認識されるものであるのかについて検討します。この研究の発展的な段階として、資本と利益の関係などの高度な論点へとつながる可能性があると考えています。」

そして、研究と両立したいことがもうひとつ。それは「教育」だ。

「勝尾教授の影響もあると思うのですが、人に"教える"ということに興味をもっています。学んできた専門知識だけでなく物事の考え方などを、自分よりも若い世代に伝えることも大切なことだと思うようになってきました。」

研究以外、たとえば趣味で続けているサッカーでも、「感覚だけでなく、理屈を組み立てていく」作業のおもしろさや、教える立場のおもしろさに目覚めている。

「学習院中等科・高等科の後輩たちとサッカーで関わり教える立場になったときに、感覚的なことだけではなかなか伝わらないということに気づいたのです。たとえばサッカーのフォームについて、なぜこれがいいのか、という理屈を組み立てて考えるようになりました。これは大学入学以後、とくに大学院での学びと並行して意識するようになったところです。教えることによって、たくさんの気づきが得られます。もっと早く気づいていたらよかったなと思うこともしばしばですが。」

髙井さんに、研究は好きですか?と尋ねると、迷わず答えが返ってきた。
「はい、好きです。大量の情報に接するときにはしんどいと感じることもありますが、課題を与えられるのでなく、自分で問題点を探し出し、それについて筋道を立てて考えていく作業が好きなのは間違いありません。」

「自分で探して考える力」。進学前に勝尾教授から教えられた"価値ある力"を、髙井さんは確実に身につけつつある。そしてこれからさらなる高みを目指してはじまる、自分自身との真剣勝負。そこに挑む髙井さんの心に迷いはない。

取材: 2017年12月8日
インタビュアー: 斉藤恵里子
文: 八木美貴
撮影: 松村健人

身分・所属についてはインタビュー日における情報を
記事に反映しています。

取材:2017年12月8日/インタビュアー:斉藤恵里子/文:八木美貴/撮影:松村健人

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