教員インタビュー
インタビュー

河合 亜矢子教授

Ayako Kawai

研究分野
経営情報システム、オペレーションズマネジメント、サプライチェーンマネジメント
プロフィール
2000年、筑波大学第三学群(現、理工学群)社会工学類卒業後、物流企業に入社。2003年、同社を退職し、筑波大学大学院システム情報工学研究科修士課程に進む。2005年、修士課程を終え、同博士課程へ進む。2008年、博士課程修了、同大学サービス・イノベーションプロジェクト研究員に着任。2010年、高千穂大学経営学部に着任。2017年、学習院大学経済学部経営学科に着任。

みんなにとってハッピーな、
優しい供給連鎖を。

理想のバトンリレーを求めて。

サプライチェーンマネジメント(以下SCM)とは、商品を生産するために必要な原材料の供給から最終消費者までの流れを、物流面と情報面から統合的に見直し、プロセス全体の効率化と最適化を実現するための経営管理手法だ。河合教授が物流という分野に興味を覚えたのは、大学1年生の時、セブンイレブンでアルバイトをしたことがきっかけだったという。

「当時はPOSレジスター自体が珍しい存在でした。レジはピピッと読み込むだけ、発注する時にはハンディターミナルに需要予測が出て、これくらい注文したらいいのではとガイドの数字が示されるのです。午前中に注文したものが午後には正確に配送されてくる。先進的だと感動するとともに『どうしてこんなことができるのだろう?』と興味を持ちました」

そんな河合教授が現在興味を持って研究に取り組んでいることの一つが「インダストリー4.0」だ。「つながる工場」「スマート工場」と呼ばれることもある。モノのインターネット(IoT)の技術を用い、大量のデータをリアルタイムで集めることで、生産や物流、在庫の<今この瞬間の状況>が即時に見える化できるようになる。<次の瞬間どのように動いていくのか>時間軸を持った在庫情報を動的に捉えることができるようになり、情報の質と精度を飛躍的に高めることにもなる。

「つながる工場がこれから本格的に動き出すと、たとえばサプライチェーンの各所に予め理想的な形で在庫のターゲットとなる量を設定でき、発注や出荷業務が自動化されるはずです。発注量をいくつにすべきか? 現在の在庫はどうなっているのか? そういったビジネスをサポートしているプラットフォームのところで、いちいち人間の意思決定を介すことなく流れを自動で上手く柔軟に管理しながら、次の組織へ理想的なバトンリレーがシームレスにできるようになるはずです」

作業と仕事は違う。その時、人間はAIには肩代わりできない種類の仕事ーーー人間にしかできないことにリソースを注げるようになると河合教授はいう。

「たとえば自分たちのビジネスを大きくするには何をすべきか? どんなサービスや製品を、どう提供すればお客様に喜ばれるのか? サービスや製品の設計と提供という人間にしかできないことに集中できるようになります。人間でなくてもできることを人の手から離していくことで、人間にしか創り出せない価値が次のステージへと進化していくと思っているので、私は使命感を持って研究に取り組んでいます」

プロセス全体の効率化と最適化を実現するために。

河合教授のもう一つの関心に「リバースロジスティックス」がある。生産者から消費者へ商品が流れていく物流管理を指すロジスティックスに対し、逆に消費者から生産者へと向かう物流のことだ。

「従来は、商品が消費者のもとに届き、利用され、やがて不要となって処分されてライフサイクルが終わっていました。しかし昨今は環境問題に対して企業に向ける世の中の目が大変厳しくなっています。商品を作った企業は、消費者がそれを不要になった時、どのように回収してリサイクルしていくのかまで問われています」

役割を終えた商品をもう一度何らかのカタチで甦らせるために。循環型社会を目指すアプローチとして、河合教授は「フローが流れていくだけではなく、回収してループを閉じるところまで、リユースやリサイクルといったアフターケアの流れまで含めたプロセスを考える『クローズドループサプライチェーン』がホットな話題になっている」という。

では、河合教授はどんな理想を脳裏に描いて研究に取り組まれているのだろうか。

「日本の製造現場では、どの会社も1秒1円といったような考え方で現場の生産性を上げようと熱心にカイゼン活動に取り組んでいます。しかし先進諸国と比較してみますと、日本は生産性面で課題を抱えているのが現状です。よく言われるサービス業はもちろんのこと、製造業も実際はさほど高くはないのです」

「自分の会社では要らない在庫を限界まで削ぎ落としているという状態でも、サプライチェーン全体を通してみると、実はどこかに不良在庫が山と積まれていたりして、SCMという観点でいくと20年前からそれほど変わっていないと言われています。ある会社の在庫ゼロを支えるために下請けの会社が不必要な在庫を抱えているケースがあったりして、それだと全体的にハッピーになっていないな、と私は思うのですね。それによって無駄も生まれているし、必要ではない作業をしている人がたくさんいるわけです」

「バッファーとして持たなければならない在庫は各自が分担し、お互いがお互いに優しいサプライチェーンを作り上げることができれば、みんながもっと効率よく、しかもゆとりを持って生産性の高いビジネスを回していくことができるはずです。みんながハッピーであるためにも、SCMをしっかり研究していきたいと思います」

研究で得られることと、院生に求めること。

「大学院のゼミでは、今年はオペレーションマネジメントとSCMについての専門書を輪読し、それぞれが担当したところを発表して、それを基にディスカッションするスタイルで進めました。大学院生にどうだったかとフィードバックを求めると、『広く浅く勉強するのも楽しいが、広く知ったうえで自分が興味のあるところを掘り進めてみたい』といううれしい回答を得られました。院生の勉強熱心さに刺激をもらっています。そこで来年は違う専門書をもう少しスピードアップして学んだ後、自分たちの興味関心のあるトピックを1つか2つ選んで、自分たちでそれを掘り進めたり、ケーススタディをつくったりして分析や研究を行う予定です」

「また、論文作成を目的とした演習もあります。ある学生はSCMのエレファントゲームで集めたデータ用い、戦略のパターンによってサプライチェーンのパフォーマンスがどのように変化するのか、その傾向を分析する研究を進めてもらっています。どんどん学会で発表してもらいたいですね」

このエレファントゲームとは、SCMに関する主要な原理を実際に体感させるために河合教授が日本大学の大江秋津准教授とともに発案したシミュレーションゲームだ。マサチューセッツ工科大学が考案したビールゲームが基となっているが、それよりも驚くほど短時間でプレイできることから、研修用としてコンサルティング会社や大手メーカー、物流の公益法人まで幅広く用いられている。またこのゲームを通して企業との接点ができたことから、教授は学生に物流の最前線企業との共同研究なども実現させていきたいと意気込む。

では、この分野を研究することの強みとは何だろうか? そして教授は、どんな方に来ていただきたいのだろうか?

「私が研究していることは、基本的にはマーケティングや戦略展開をどのように支援していくかというプラットフォームを作るところなので、派手さはないかもしれません。でも、縁の下の力持ちである分、幅広くその知識を活用することができます。テーマが具体的かつ実践的ですから、実務家になる人にとってはとても強い武器となり、マスターすると即戦力になると思います」

「実は私は修士で2年間勉強して専門知識を身につけ、コンサルティング会社ですとかそういった企業に戻ろうと思っていました。しかし研究が面白くなってしまったのですね。SCMには究明されていないところがたくさんあるうえに、新しいテクノロジーもどんどん生まれています。また物の流れだけは瞬間移動装置でも発明されない限り、絶対になくなりません。そういった意味では研究者を目指す方にとっても大変面白い分野だと思います」

「学部から来る学生ももちろんウェルカムですが、一旦社会に出て、自分自身で問題意識を持たれてからこういうことを学びたい、もっと突き詰めたいという人がいらしてくださるのもうれしいですね。私自身がそうでした。学部からであれ、社会人であれ、自分自身で問題意識を持って学びに来た人は、開いている回路の数が全く違います。同じものを読んでも同じ話をしても、また同じ見学をしても、見方が違いますし、理解のスピードも段違いです。自分の身の回りのことでハッキリした問題意識を持っている方をお待ちしております」

取材: 2018年1月25日
インタビュアー・文: 遠藤和也事務所
撮影: 松村健人

身分・所属についてはインタビュー日における情報を
記事に反映しています。

取材:2018年1月25日/インタビュアー・文:遠藤和也事務所/撮影:松村健人

身分・所属についてはインタビュー日における情報を記事に反映しています。