教員インタビュー
インタビュー

金田 直之教授

Naoyuki Kaneda

研究分野
会計学、会計分野における実証分析
プロフィール
1987年、東京大学教養学部卒業。国内保険会社で就業後に渡米。1995年、ニューヨーク大学大学院経営管理学修士号を取得。現地の会計事務所勤務を経て、2002年にカーネギーメロン大学Ph.Dを取得する。同年、筑波大学社会工学系講師へ就任。2005年、学習院大学経済学部助教授に就任し、2007年より現職。

ルールを超えてルールを学ぶ。
柔軟な視点と多角的な発想で企業を見つめる

民間企業からニューヨークへ。知的好奇心を胸に選んだ学問の道

金田教授のキャリアは決して平坦な一本道ではなかった。会計学の世界に身を置く意思を固めたのは、東京大学を卒業後に保険会社に就職し、6年が経過した後。証券投資の部門に所属していた金田教授は、企業を形作る数字に触れる中で、会計に対する興味を募らせていった。

「元々財務諸表の存在は知っていたんですが、業務の中で触る機会が増えるにつれ、徐々に関心が高まっていきました。元々制度論的なものへの興味をもっていたので、数字を通して企業の過去と未来を見る会計を体系的に学びたいという欲が強まったんです」

そうして安定した保険会社の職を離れ、向かった先はニューヨーク大学の大学院。当時を振り返る金田教授は「勉強したい一心で海を渡りました。あの頃はまだ私も若かったですね」と笑う。会計の研究に熱中し、2年でMBA(経営管理学修士号)を取得した金田教授は、そのまま世界経済の中心地であるアメリカで会計事務所へ入所。籍を置くこととなったが、この期間は金田教授に再び転機をもたらした。

「MBAを取得してから入所した会計事務所でしたが、やはり実際にやってみないとわからないことがあると実感し、さらに学びを深めたいと思うようになったんです。制度である会計が実務上でどのように使われ、どう役立つのかを知ることができたこの時期の経験は、経済的な分析をする際の理解にも大いに役立っています」

研究成果と実務が融合する体験をした金田教授は、知識欲の赴くままカーネギーメロン大学大学院の門を叩き、より分析に重点を置いた研究の道を志し、国際会計基準における研究開発費用処理の数学的モデル分析、CEO交代が会計にもたらす影響のアナリスト予想に基づく分析といった研究を行った。

博士号を手に日本へ帰国後、金田教授は民間企業へは戻らずに研究者としての道を選んだ。その選択の背景にあるのは、金田教授が抱え続ける渇望するほどの知的好奇心に他ならない。

「これは会計に限った話ではありませんが、日本は過去100数十年にわたり、海外のさまざまな制度を受容してきました。しかし、元々海外の制度を日本に取り入れたとしても、実際に適用するときにはまるで違う形になることは珍しくありません。この制度の変化が担う役割を知るためにも、国際的な制度の比較はとても重要なんです。

会計を含めて、いろいろな制度が企業の行動に与える影響への興味は未だに尽きません。これからも知的好奇心を刺激してもらいたいという思いと同時に、研究を社会に役立てていきたいという思いはあります」

「なぜルールがあるのか」形にとらわれない管理会計を通じ見極める

金田教授が取り組む研究テーマは多岐に渡る。先の博士論文で取り組んだテーマのほか、大学の教員紹介に記載される「企業再編やM&Aを巡る経営手法」「税制と企業経営をめぐる研究」「会計に関する実証研究」を広く研究。さらには講演で「法定耐用年数を通じた日本の不動産評価」「米会計事務所と中国の会計リスク」「日本航空の債権」を語るなど、研究テーマは枚挙に暇が無い。

しかし、金田教授は決して無作為に会計へ向き合っているわけではない。企業のあらゆる事象を会計の観点から見定め、分析する。多角的な視点で研究を行う背景には、金田教授が専門とする管理会計の観点がある。

「財務会計や税務会計は、社外への報告を目的としたものであるため、ある程度定められたルールの上に成り立っているという側面があります。一方の管理会計では企業が意思決定を行うために独自の目的やルールを用いた分析を行いますので、柔軟な発想と多角的な視点が必要です。企業経営はいかにあるべきか、どのように健全な状態を作り上げるか。変化を観測するためにさまざまな手法での探究が求められます」

金田教授が大学院で担当し、学部では特殊講義に属する講義「税務戦略概論」の内容にも、その思考が色濃く現れる。本講義では税制の逐条的な解説は行わず、プランニングアプローチの考え方を用いて考察する。

「プランニングアプローチでは、税制が経済的意思決定に与える影響を分析し、税金がビジネス活動へどのように影響するかを考えます。企業がどのような方法で運営にかかるコストを下げるのか。そして企業のコストリダクションに、税制はどのように対応していくのか。ルールとしての税制を学ぶのではなく、企業会計における役割や在り方を学ぶことが大切です」

「確かに財務会計や税務会計について語ると、現場で必要とされるルールの話に寄る傾向があります。ルールはもちろん大切ではあるのですが、会計における大きなテーマは企業経営や経済運営。財務会計や税務会計のいずれを学ぶにしても、細かく逐条的に学ぶだけで終わらず、なぜそのルールがあるのか、ルールの裏には何があるのかといった観点からの柔軟な学びが大切ではないかと考えています」

AI、ビッグデータ、社会課題。時代と共に変化する研究を

「最近の学会での発表を見ていると、ESGやサステナビリティといった取り組みに関する実証研究が増えていると感じています。世界的に注目されているトピックスですので、投資判断も含めて企業経営に大きな影響がありますね」と語る金田教授。また、企業の現場でもAIやビッグデータを活用した監査や会計分析が行われる方向にあるなど、最新技術を活用する動きが見られるという。

こうした変化を迎える時代に、人々はどのように向き合えばいいのか。金田教授は、そのひとつの答えが大学院での学びにあると示した。

「AIとホワイトカラーの学びに関する本を読んだときに、私がかつて博士課程で学んだことに似ていると感じました。過去の論文からの学びで終わらず、さまざまなデータから導き出した仮説を設定して検証する。こうした仮説検証の重要性は、学問の世界だけではなく企業現場でも認識されてきていると感じています」

「会計基準ひとつをとっても、その背後にあるものまで考察し、仮説検証を通じて学びを深められるのが大学院の魅力です。アーカイバルデータを使った論理的な物証研究、シミュレーションを用いる実験経済学的な研究など、アカデミックなアプローチを用いて会計を学べる環境が大学院にはあります」

学部での学びで身につけた基礎的な知識や概念を活かし、自らの研究を通じて新たな知見を得る。大学院で送る研究の日々は、文字通り"世界"を切り開くと金田教授は語る。

「海外留学生も多く、特に中国から学びに来る学生は多くいます。彼らが取り組む研究テーマは母国にちなんだものではなく、先述のESGなどグローバルな話を扱うことも増えてきました。必ずしも私の研究テーマに近いものばかりではありませんが、一緒に楽しみながら研究していますよ」

最後に金田教授は、大学院での学びはとても楽しいものであり、とりわけ学習院大学での学びは充実したものになると語った。

「会計は社会との繋がりが強く、企業にさまざまな影響を与える制度です。過去から続く概念を理解し、応用につなげられる人にとっては、学びがいのある学問だろうと思います。学習院大学は決して大きな大学ではありませんが、研究環境としては非常に優れている大学だと感じています。

学内にある法学部・経済学部 図書センターは蔵書が充実しており、私の研究分野でも制度や実証分析に関する資料・書籍がよく揃っています。また、所帯が小さいからこそ教授との距離が近く、良質な研究者と交流する機会も豊富です。研究を通じて新しい理論を導き出し、いずれ社会に貢献させるという気概がある方は、ぜひ学習院の環境に身を置いてください。ぜひ一緒に楽しい研究の時間を過ごしましょう」

取材: 2023年9月21日
インタビュアー・文: 手塚 裕之

身分・所属についてはインタビュー日における情報を
記事に反映しています。

取材:2023年9月21日/インタビュアー・文:手塚 裕之

身分・所属についてはインタビュー日における情報を記事に反映しています。