院生インタビュー

「ここならできる」と飛び込んだ、
新しい学びの場へ確信。

博士前期課程
陳 暁軍 Chen Xiaojun

留学生として期待できる環境が、学習院大学にはあった

人生の中で「これだ」と思える出会いは、誰にでもそう何度も訪れるわけではない。その意味で、陳暁軍さんは幸運だった。「学びたい」と思える研究内容と師事したい教授。そのふたつが揃う環境が、学習院大学にあったからだ。

「学習院大学のホームページで米山茂美教授の研究内容を知ったとき、わたしの興味のある分野にぴたりと一致していると感じました。それまで来日経験はありませんでしたが、勉強するならぜひ米山教授のもとで学びたいと、留学することを決断したのです」

陳さんは出身地である中国の大学で経営学を専攻し、卒業後に銀行(招商銀行及びCitibank)に勤務。大学院への進学を考え始めたのは、銀行員として様々な企業と商談する実務にあたる中で抱いた、ある危機感がきっかけだった。

「企業の方々とお話ししていると、経営の話になることも多いのですが、そこで話についていけないと感じることがありました。業務がうまくいかないと思うとき、その理由のひとつとして知識不足がある、と痛感したのです。そこで、もっと経営学を学び、より深い知識を身につけたいと思いました」

実務の中でぶつかった、知識の壁。それを乗り越えるために、どこで学ぶべきか。陳さんの学び舎探しが始まった。日本の大学を選択肢に入れたのは、先に日本に留学していた親しい知人の影響だ。陳さんの興味や関心のあるテーマについてよく理解している知人が勧めてくれたのが、学習院大学の米山教授だったのだという。

「さまざまな大学を調べましたが、やはり一番の決め手になったのは米山教授の研究分野でした。私が興味を持っていたのは『中国のスマートフォンメーカーの急成長の要因を知りたい』というテーマです。イノベーションや事業戦略を専門にしていらっしゃる米山教授の元でなら研究ができる、と確信しました」

それまで、陳さんに来日経験はなく、日本語の学習経験もなかった。初めての国と、初めての言語。並大抵の覚悟では決断できない。それでも飛び込むことができたのは、信頼のおける知人の勧めと米山教授の研究への強い思い、そして、学習院大学なら、手厚いフォローが受けられる環境が整っていると確信したからだった。

「学習院大学が、他大学に比べて少人数指導を行っているところに非常に魅力を感じました。学習院大学では、私の知る限り、1人の先生につき学生は1人から2人、多くても4人ほどで指導を受けられます。1対1の指導を受けられる機会も多くあります。また、留学生の数はそれほど多くはありません。私は日本語も十分ではなく、生活面での不安もありましたから、先生のご指導を密に受けられたり、日本人の学生と一緒に勉強できたりする環境の方がいいと考えたのです」

この選択は正しかったと、陳さんは今改めて実感している。

未知のジャンルに足を踏み入れた研究は、発見の連続だった

博士前期課程での陳さんの研究テーマは、中国のスマートフォンメーカー3社を比較しながら、それぞれの競争戦略を明らかにすることだ。ここ数年で著しい成長を遂げた3社の競争力の源は一体どこにあるのか? 技術やマーケティング、消費者とのコミュニケーションなどの視点から研究を進めている。

「スマートフォンは生活に欠かせない、身近なものになり、今やスマートフォンさえあれば、あらゆることができると思えるほどです。そして、そのジャンルで中国のメーカーが急激に業績を伸ばしています。たとえばXiaomi社は2010年に設立され、2014年には中国の市場シェアNo.1になっています。なぜそんなに強いのか、その競争力はどこからきているのかにずっと興味がありました」

こうして始まった研究だったが、陳さんははたと気づいた。自分はスマートフォンの中身についてほとんど知らないこと。そしてまずそれを知らなければ、研究は続けられないこと。

「スマートフォンメーカーの競争戦略には、技術力や、サプライチェーンとの関わり、広告宣伝の力、そして消費者とどのようにコミュニケーションをとっているかなど、さまざまな要素が関わってきます。それらを明らかにするためには、スマートフォンのどの部品が何に使われて、どんな機能を果たし、どのようにスマートフォンの性能を上げているのか、それを知らなければ始まりません。蓋を開けてみれば、まるで理系のエンジニアのような内容も含まれていたというわけです」

スマートフォンを分解したレポートを作成したり、教授を通じて半導体の専門家を訪れたり、難解な専門用語を理解するために日本語の勉強を増やしたり……。地道な努力を重ねた。最初はどの部品がどんな機能を担っているのか全くわからなかったが、今では、ほとんど理解しているのだという。

「研究の中で一番面白いのは、新しい発見が得られること」と、陳さんは目を輝かせる。

「研究を進めていくうちに、面白い事実をいくつも発見することになりました。スマートフォン会社3社は、部品の内製比率・調達先が違うだけでなく、組み立ても外注しているところがあります。研究開発戦略が大きく異なることも、詳しい特許指標から明らかにできました。販売チャネルの特徴なども論文で展開しています。これらのデータから、A社は技術力が高く、B社は販売チャンネルに強みがあり、C社は消費者とのコミュニケーションが優れている。そうした特徴を競争優位ドライバーという概念を使ってあぶりだしたのです。さらに、A社は単にスマートフォン企業にとどまらないインターネット企業であるととらえることができ、今後はIoT企業へと成長していくだろうという予測も立てられました」

スマートフォンなどの最新デバイスを取り巻く世界は日進月歩。次々と更新される情報を追いかけるのは容易ではないが、時代とともに生きる面白さを日々感じている。

思い描いた通りの研究環境。そして掴んだ新たな夢

陳さんの研究をサポートしているのが、米山教授、そして中国やその他途上国の企業研究を専門とする渡邉真理子教授。そして志を同じくする、日本人の学生たちだ。

「渡邉先生からは、研究テーマにおける分析の枠組みなどの基本的なところから、多くのものをアドバイスいただきました。中国企業についての本をいただいたり、知り合いの技術者のもとへ私を連れて行ってくださったり、多岐にわたって助けていただきました。そして研究だけでなく、生活面などでもいろんな相談にのっていただいています。優秀な先生たちばかりなので、これから大学院に進学する人たちにも、ぜひそのチャンスを生かしてたくさんの知識を身につけてほしいと思います」

日本語も苦労しながら勉強を重ね、初めて来日してから3年たらずで、日本語の論文を読んだり、日本語で発表したりできるようになった。修士論文ももちろん日本語で執筆した。

「私には2人の日本人学生がついてくれて、論文をチェックしてもらいました。普段の授業や研究においても、議論を交わしたり、親身になって相談に乗ってくれたり、本当に助けてもらっています」

「学習院大学なら、留学生の自分にとって最適な環境があるはず」。まさに留学を決めたときに確信した通りの環境で学ぶことができたのだ。

そして、留学を終えようとしている今、陳さんには新しい目標ができた。

「中国と日本の架け橋になれる人材になりたいと思っています。ニュースなどで流れている情報を見ると、両国とも、誤解している部分や、偏見、先入観をもっている場合があるように思います。でも実際に接すると、中国人も日本人も、優しくて真面目な人が多い。若者同士がもっともっと交流して、将来的には日本と中国の関係がよくなっていくような、そんな大きな夢を描いています」

卒業後は、外食系の企業に就職することが決まっている。日本の食文化を中国に紹介したり、逆に中国の食文化を日本に紹介したりと、スマートフォンメーカーをターゲットに研究した競争戦略を、今度は外食産業という新ジャンルで生かしながら、架け橋を目指す考えだ。チャンスを見つけたら自ら起業することも視野に入っている。

いずれの道に進んでも、舞台は常に中国と日本の両方だ。両国を行き来しながら、人と人とをつなぐその先に、また新しい"発見"が待っているに違いない。

取材: 2017年12月8日
インタビュアー: 斉藤恵里子
文: 八木美貴
撮影: 松村健人

身分・所属についてはインタビュー日における情報を
記事に反映しています。

取材:2017年12月8日/インタビュアー:斉藤恵里子/文:八木美貴/撮影:松村健人

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