院生インタビュー

世界を創るプラットフォームビジネス研究で未来を切り開く

修士後期課程
陳 子頡 Chen Zijie

文化に憧れ訪れた日本。恩師との出会いが人生を変える

「最初は特にやりたいこともなくて。日本という国への興味が優先で、留学先を日本に決めました」

全寮制の高校時代、同じ寮に住む友人の影響で日本のアニメやマンガ、それらを生み出した日本文化に刺激を受けた陳さんは、高校卒業後の留学先を日本に決めたという。高校3年生の時点から日本語学習を始めた陳さんは、高校卒業半年後から1年通った日本語学校で日本語を徹底的に学習。日本語能力試験で最上級であるN1のレベルを獲得し、晴れて学習院大学の門を叩いた。

日本に留学するという目的は達成したものの、将来のビジョンは未確定だった陳さん。文系であることから選択できる学部・学科の選択肢が限られる中、学びの時間を無駄にせず将来の可能性に繋げるという観点から経済学部経営学科を選択した。

「当時は特にやりたいことが明確に決まっていませんでしたが、将来やりたいことが現れたときに何の準備もできていないのでは時間がもったいないじゃないですか。これから現れる目標に役立つ知識は何かと考えた時に、どんな道に進むにしてもきっと経営学は役に立つと思いついたんです」

選択肢の確保を主眼においた専攻をした陳さんは、1年生の科目選択において、河合亜矢子教授との運命的な出会いを果たす。河合教授は物流やサプライチェーンが専門。あらゆるビジネスが著しい発展を遂げている中国で生まれた陳さんは、ビジネスの根幹を成す物流の世界に強く惹かれていったという。1年生、2年生と河合教授の講義を受講し、サプライチェーンへの興味を強めた陳さん。2年後半でのゼミ選びでは、迷わず河合教授のゼミを志望した。

「1年生の時に選択した河合先生の講義がとにかく面白くて。2年でも河合先生の講義を選び、3年以降もいろいろ教えて欲しくて迷わず河合先生のゼミを選びました」

河合教授の下で学びたいという意欲を胸にゼミを選んだ陳さん。サプライチェーンマネジメント研究だけに傾倒せず、世界のビジネスを変化させる最新のテクノロジーの知識を自ら取り入れる姿勢を見せる河合教授の下、自らの研究テーマを「プラットフォーム」に定めた。

「ゼミに入った当初は研究テーマが定まっていませんでしたので、河合先生に相談に乗っていただきました。いろいろなテーマをああでもないこうでもないと検討した結果、最終的に『プラットフォームがいいな』という結論に至りました。中国でもプラットフォームビジネスはとても注目されています。今やプラットフォームビジネスが世界を変えたとも言われていますので、将来に繋がる研究になると確信しています」

研究の頓挫も貴重な経験。新たな挑戦への歩みは止まらない

研究テーマをプラットフォームビジネスに定めた陳さんは、学部の研究室で2年間プラットフォームの基礎を学んだ。

「研究室に入る前は、正直プラットフォームが何なのかよくわかっていませんでした。研究を進めていくうちに、プラットフォームは人と人を繋げていく仕組みであり、企業の成長には無視できない存在であることを知りました」

ビジネスの根幹を成すプラットフォームという存在に惹かれた陳さんは、やがてさらに専門的な研究を志すようになったという。学部3年生時には研究テーマを「語学学習の実践的運用」に定め、自らプラットフォームサービスの運営を開始した。

「私は母国語の中国語のほかに日本語を話すことができ、今後英語も学びたいと思っています。しかし語学を始める時に『価格』と『環境』という2つの問題に直面しました。英語のコーチは決して安い価格ではありません。また、習おうとしても周辺に欧米人がいなければ学ぶ環境すら作れないでしょう。そうした2つの課題の解決を目指し、お互いに語学を教え合う相手をマッチングするようなプラットフォームを作りました」

しかし「学生ならではの考え方が甘い部分がありましたね」と語る通り、プラットフォームとして軌道に乗れず。ビジネスとして詰め切れないまま計画は頓挫してしまった。陳さんにとっては苦い経験となったが、結果としてこの失敗はプラットフォームへの熱をさらに駆り立てることとなった。学部における成績は学習院大学外学院への学内推薦基準をクリア。河合教授からも大学院への進学のすすめを受け、陳さんはプラットフォーム研究に取り組むため、学習院大学大学院への進学を決めた。

「学部でプラットフォームの基礎を学び、さらに深い研究をしたいと思うようになりました。大学院でも引き続き河合先生に指導教官を務めていただけるということでしたので、迷わずに研究の世界に身を置く決意ができました」

大学院に入学し1年目、陳さんは早速研究テーマを「旅館業のイノベーションにおけるプラットフォームの活用」に定め、再び実践的なビジネスを通じたプラットフォーム研究を計画した。しかし、2019年末以来、新型コロナウイルスの影響を受けた国内旅行需要の回復は鈍く、旅館業界は軒並み不調のまま。旅館業のイノベーションに研究の切り口を見いだせず、大学院2年目の頭にまたもや研究テーマの変更を余儀なくされてしまう。

現在の陳さんは「Amazonのプラットフォーム効果のモデル化」を新たなテーマに掲げ、日々研究を進めている。Amazonの創始者であるジェフ・ベゾス氏がレストランの紙ナプキンに描いたというビジネスモデルを、システムダイナミクスの手法を用いてモデル化するというもの。1年の遅れを取り戻すべく、今は基礎的な情報の収集と理解に努めているという。

「Amazonのプラットフォーム効果を数値モデルに置き換える研究を進めていますが、先行資料を探そうにも事例がなくて。全くのゼロからの研究を行うため、今はAmazonの年間レポートの分析から成長の歴史を紐解いている最中です。結果として数値モデル化ができなかった、という可能性はありますが、これまでのプラットフォーム研究の経験と知識を動員していくつもりです」

可能性を広げる濃密な学び。大学院だからこそ得られる成長がある

現在大学院生活2年目を過ごす陳さんは、学部生時代を振り返り「大学院は楽しい」と語る。講義を受けテストで評価される学部に対し、個人の研究成果が評価される大学院。インプット重視の学部と比較し、アウトプットを求められる大学院の学びが肌に合うという。

「学部時代は年間48単位。大学院は2年で30単位と一見少なく見えますが、大学院における1単位は非常に濃密です。学部では講義に出席しテストを受ければ単位がもらえましたが、大学院では一コマ出席する前に3~6時間の準備をしなければ話になりません。時間の調整は大変ですが、とても充実した勉強生活を送れています」

陳さんは、その充実した大学院生活の背景に学習院大学教授陣の存在があると語る。

「大学院の学びで大切なのは、しっかりと自分が学びたいテーマの研究ができるかどうか。どんなにいい大学院に入っても、自分に合った指導教官に会えなければ、満足する学びはできないでしょう。学習院大学は私にとって学びたいテーマを学べる環境です。大きな大学院ではないかもしれませんが、だからこそ教授と近い関係性を作り上げ、一緒に研究に取り組んでもらえる環境であると思います」

大学院修了後は、日本国内の民間企業に就職し、ビジネスを学びたいという。目指す企業の姿を「現状に満足しようとせず変革を求める企業」と語る。

「今、私はサーキュラーエコノミーとサステナブルというキーワードに興味を持っています。これからの企業は循環する経済を意識しなければ生き残りは難しいでしょう。古い業界であっても、社会の変化を敏感に察知し変化を目指す企業は大歓迎です。そうした革新を目指す企業で経験を積み、人脈を構築したら、いずれ再び起業を目指したいと考えています」

一度は頓挫した自らのビジネスをもう一度動かしたい。そうした思いに行き着いたのは、大学院での学びが大きく影響しているという。

「大学院は本当に人を成長させる環境だと日々実感しています。問題解決に繋がる研究力を身につけ、修士論文としてアウトプットする経験を積めば、自分が想像している以上に可能性を広げられ、何にでも挑戦しようという意欲が生まれるでしょう。学習院大学で教授から受けた指導は私にとって何物にも代えがたい財産となりました。もしハイレベルな研究を通じた成長を求めるなら、大学院に挑戦してみてください。きっといい経験になると思いますよ」

取材: 2022年6月17日
インタビュアー: 手塚 裕之
文: 手塚 裕之
撮影: 中川 容邦


身分・所属についてはインタビュー日における情報を
記事に反映しています。

取材:2022年6月17日/インタビュアー:手塚 裕之/文:手塚 裕之/撮影:中川 容邦


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