院生インタビュー
人材マネジメントが実現する誰もがイノベーティブな世界を目指して
創造性は身近な存在。HRMの活用でイノベーションを促進する
人材を資源として有効活用する仕組み作りを目指すHRM(Human Resource Management)。吉楽ひかるさんは、学習院大学大学院で「HRMの創造性マネジメントへの活用」の研究を行う。学部時代は他大学でイノベーションを研究していたという吉楽さんは、革新的なアイデアの保護にはHRMの存在が必要不可欠であると考える。
「企業のイノベーションに繋がるようなアイデアをもつ人材が、伸び伸びと開発に従事できる環境は理想的です。一方で斬新なアイデアは既得権益を侵しやすく、一定の反発を受けるリスクを抱えています。そうした環境においてアイデアを形にして社会に出すには、上司であったり同僚であったり会社であったりという組織のサポートが必須であるという考えに至りました。アイデアの保護に人的リソースを投入するには人材のマネジメント、すなわちHRMの活用が求められます。革新的な商品やサービスを世に送り出す創造性のマネジメントのためにHRMをどのように活用していけばいいのか。そうしたテーマに対する研究に取り組んでいます」
また、その前段として守るべきイノベーティブなアイデア=創造性の定義についてもHRMが求められると吉楽さんは語る。イノベーションという言葉の背景に「選ばれた人間だけが生み出せる革新」という意味を感じる人は少なくないだろう。しかし吉楽さんはイノベーションとはより身近な、誰もが生み出す可能性がある概念だという。
「創造性は特別な才能であるように捉えられる傾向がありますが、私が考える創造性は誰にとっても身近で普遍的、そして再現性があるものです。最近ではユーザーイノベーションなどにも注目が集まっているように、誰もがクリエイティブな側面を有していると考えています。一方で、誰もが独力でクリエイティブな能力を発揮するのは困難です。スティーブ・ジョブズのように優れたアイデアを広く社会に普及させるには、企業のサポートが必要不可欠。そのようなイノベーションやクリエイティブに繋がる行動の蓄積をHRMによってサポートすることが創造性マネジメントであると考えています。」
研究の日々への入口は守島教授の著書との出会い
今でこそ学習院大学の大学院で研究に没頭する吉楽さんだが、かつては勉学に対する意欲が全くと言っていいほど無い学生だったという。吉楽さんは進学した大学でイノベーションを研究するゼミに所属するも、学習の仕方すら満足に知らなかったという。
「大学進学に至るまで、机に向かう時間を確保したことすらありませんでした。大学でも院に進むなんて全く考えたこともなかったのですが、ゼミでお世話になった先生から『いろいろな事象に対してなぜ?と考えるのが学習の基本だよ』と教えていただいて。ゼミで学んでいた経営学が日常に近い領域を学ぶ学問であることもあり、電車の広告を見れば『このサービスは何を目的にしている?』、店で発売されている新商品を見ては『この商品が生まれた背景には何がある?』と、学部で学んだ知識を元に調べることが楽しくなっていきました」
徐々に勉学に対して興味が湧いていったという吉楽さんは、3年生を迎えた頃に劇的な意識の変化を迎えた。残る取得単位はわずかとなり、講義が減る3年生。ゼミの時間以外に開催されていた勉強会に参加したことで、学びに対し"熱"が生まれたという。
「経営学に触れる時間が増えるにともない、知識と知識には繋がりがあることがわかってきました。たとえば組織論で聞いたこのテーマは戦略論のこの話と同じではないかと。戦略論とイノベーション論で同じ話をしていると。経営学という学問に学ぶテーマが絞られたことで、ひとつの領域を深く掘り下げる楽しさを知りました」
勉強嫌いから一変、学問の探究に喜びを見出した吉楽さんだが、時期は大学3年生。今後の進路を決める就職活動のタイミングが訪れることとなるが、ここでも吉楽さんは運命のターニングポイントを迎えた。
「だんだん勉強が面白くなってきたのですが、私ももう3年生。周囲では就職に関する話題が増えていきました。私もこのまま就職活動を始めるのかな、とぼんやり考えていた時、ゼミの先生から『もっと勉強を続けたいなら大学院を考えてみたら?』と勧めていただいたんです」
当時からイノベーションとクリエイティブ人材のサポートを研究していたという吉楽さんは、HRMの知識を深めるために関連書籍を読みあさる。その中で出会った一冊が学習院大学の守島基博教授の著書。HRM研究の権威である守島教授の著書に触れたことで、自らの知識と能力の不足を痛感したという吉楽さん。守島教授の下で研究への姿勢を学びたいという意欲が芽生えた結果、学習院大学大学院への進学を決意したという。
「基礎知識があって損はない世界だから」というゼミの教授のアドバイスを受け、学部の在籍期間を1年延長し、高校時代からの勉強をやり直したという吉楽さん。「これまでは知識の蓄積がなかった」と振り返った自らの欠点を補い、満を持して学習院大学大学院への入学を果たした。
分野の第一人者となる手応えとやりがい。大学院だから可能な学びの深さを知る
悲願ともいえる守島教授の研究室に入った吉楽さんは、改めて大学院での学びに大いに刺激を受け、喜びを感じていく。内部進学者、外部進学者、社会人入学と多様なバックボーンを持つ研究室の仲間たちと交わすディスカッションは刺激的。また、研究が机上の空論に寄らない守島教授の指導を受け、自らの選択が間違いではなかったと確信を深めたという。
「ビジネスの現場では生産性や効率性が重視されるため、非効率性をともなうテーマである『創造性』は、机上の空論になりがちです。しかし、守島先生は学術的な理論とHRMでの実践的なサポートをリンクさせ、現場に適用する方法を重視されていました。またゼミのメンバー同士でのディスカッションでは、実際にビジネスの現場にいる方からの意見も多く聞けますので、より具体的な、現実的な研究が実現しています」
理想に描いていた以上の大学院の環境に、吉楽さんはより学びへの意欲を深めていく。かつて知識の繋がりに喜びを見出していた吉楽さんは、身につけた知識を自らの意思で深める大学院の学びにさらなる手応えを感じているという。
「大学院と学部までの環境との違いは、主体性の有無にあると考えています。大学院はやりたいことをやりたいようにできる場所です。言ってしまえば、自分がこの分野の第一人者になるべくして研究を進めています。時には指導教授よりも専門分野に関しては深い知識を知っていなければいけない場面もあります。それくらい自分の研究に向き合っていかなければいけないのが大学院であり、私はそんな大学院での研究に手応えとやりがいを感じています」
それほど研究に熱中できる理由に、吉楽さんは守島教授の下で学ぶ環境の良さを挙げた。
「守島先生は非常に気さくな先生で、コロナ前には定期的にゼミ生と一緒に食事に行かれることもありました。食事に行った先でもみんなで研究の話を始めてしまうくらい、楽しく充実した研究の日々を送っています。自由な研究を優しく見守っていただいている、そう感じられる環境にいると思っています」
充実した研究の日々を送る吉楽さん。将来の進路に、研究職として創造性マネジメント研究に携わる目標を掲げる。
「学習院大学は研究者にとことん真摯といいますか、徹底的に支援してくれる大学だと感じています。入学してからその感想が変わったことはなく、先生方はいつも私の研究を熱心に聞いてくださいますし、研究に必要な環境を惜しげも無く提供してくれます。研究したいと思う人にとって、これほど優れた環境はないと感じていますね。大学院を終えた後も、研究者としてこの環境で学び続けたいと思っています。
ひとつの分野を研究し尽くす場所として、学習院大学の環境は非常に優れていると感じています。大学までの学びで満足できないという方がいるなら、学習院大学での研究に挑戦してみませんか。自分が分野の第一人者になれる喜びとやりがいを、ぜひ多くの方に感じて欲しいと思っています」
取材: | 2022年6月24日 |
インタビュアー: | 手塚 裕之 |
文: | 手塚 裕之 |
撮影: | 中川 容邦 |
身分・所属についてはインタビュー日における情報を
記事に反映しています。
取材:2022年6月24日/インタビュアー:手塚 裕之/文:手塚 裕之/撮影:中川 容邦
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