教員インタビュー
インタビュー

鈴木 亘教授

Wataru Suzuki

研究分野
社会保障論、医療経済学、福祉の経済学
プロフィール
上智大学経済学部卒業。大阪大学大学院経済学研究科・修士課程修了、同博士課程単位取得中退(経済学博士)。大学卒業後、日本銀行勤務(1994~1998年)。その後、大阪大学大学院において経済学博士を取得。同大学大学院国際公共政策研究科助教授、東京学芸大学教育学部総合社会システム専攻准教授などを経て、学習院大学経済学部准教授に着任。2009年より現職。政府の規制改革会議や国家戦略特区WG委員、東京特区推進共同事務局長、大阪市特別顧問、東京都特別顧問などを歴任。著作物に『医療崩壊 真犯人は誰だ』講談社現代新書(2021年)、『社会保障と財政の危機』PHP新書(2020年)、『経済学者 待機児童ゼロに挑む』新潮社(2018年)、『経済学者 日本の再貧困地域に挑む』東洋経済新報社(2016年)、ほか多数。

取材:2023年1月17日

このインタビューはスタディサプリに掲載された記事を再構成したものです。
身分・所属についてはインタビュー日における情報を記事に反映しています。

経済学とデータサイエンスを駆使して
社会の諸課題に対峙する力を養成する

社会人に人気の理由

社会保障論、医療経済学、福祉の経済学を研究領域とする鈴木教授のもとには、これまで多くの社会人学生が集まり、多種多様な目的を持って学んできた。あらゆる社会問題にアプローチできる研究領域と、目的に合わせたコース設計の存在が、その人気の理由のようだ。

「世界的に見ても例がないほど急激に少子高齢社会を迎えた日本において、年金、医療、介護、少子化対策、生活保護、ホームレスといった社会問題は極めて重大です。私の研究テーマは計量経済学を用いた実証分析や現地調査を実施して諸課題の解決にアプローチをしようとする学際領域といえます。従って学生たちの関心も幅広く、『研究者養成コース』で研究者を目指す学生のほか、高度な専門性をキャリア形成に役立てようと修士課程『専修コース』に入学する学生もいます。」

では実際、どのような研究テーマに取り組んだ学生がいたのだろう。尋ねてみると、テーマタイトルだけでも多彩で、興味深いものばかりが並んだ。

「シンクタンクでビッグデータに関わった経験を生かして医療費のレセプトデータの分析を行った方や地方自治体の福祉財政の分析を行った方、医療品の価格付けを統計的に分析する手法を用いて研究された方などもいました」


参考:鈴木教授がこれまでに指導した社会人学生の研究テーマ
健保レセプトデータを用いた自己負担引き上げの効果の分析/裁判の判例データを用いた医療過誤に関する統計分析/自治体による福祉財政の決定要因の分析/医薬品のコンジョイント分析/日中貿易の応用一般均衡モデル分析

研究テーマは妥協せず見つけてほしい。そのための万全な指導体制が強み

社会人学生に人気の理由はまだある。鈴木教授の教育方針には流儀があり、理想的な研究環境を創出するために様々な工夫を施しているのだ。

「私から研究の方向性や手法を示唆するのではなく、一人ひとりの学生が自分の進むべき道を探る手助けをするようにしています。その道が決まれば伴走して、分かれ道があったらアドバイスするというのが私の流儀ですが、一つだけ強調していることがあります。それは研究テーマを安易に決めず、『本当に意義のあるもの、社会の役に立つものを見つけてほしい』ということです。また、学生同士が切磋琢磨する機会をできるだけ設けるようにもしています。現在も、職場の女性差別、地域振興、外国人就労問題という異なる研究に取り組んでいる学生が意見交換をする場があり、そこから新たな視点や手法の発見につながることも少なくありません。さらに、研修コースは3名の教員による集団指導体制を敷いているため各教員の強みを生かして研究の深化や実践力の強化を図る指導を行っています」

重要なのは問題意識と何を勉強したいかというモチベーション

実社会に幅広く対応できる研究領域と、充実したサポート体制。これらの構築は決して表層的なものではなく、鈴木教授自身の経験が深く関わっていた。

「私自身も大学卒業後に務めていた日本銀行を退職し、大学院に入り直して修士号・博士号を取得しました。その当時を振り返って感じる社会人経験者の強みは、研究テーマに対しての問題意識をきちんと持っているということであり、時間の使い方が効率的なことだと思います」

社会人を経て進学したキャリアの持ち主だからこそ、知っている強み。これが、教育の原点にある。

「経済学の分野は文系と思われがちですが、私はこれまで現地調査、GIS(地理情報システム)分析、ビッグデータの統計解析、マイクロシミュレーションモデル、マクロ計量モデル分析など、さまざまな分析手法を用いて社会問題の解決に取り組んできました。本研究科においてもAI、マシーンラーニング、プログラミングなどを学ぶ機会が多く、社会人のリスキリングの機会として価値があるものだと考えています」

最先端の研究手法を駆使し、社会の諸課題にアプローチしていくのだという具体的なイメージが湧いた。しかし、大学院で学ぶ目的には、もっと大切なものがあるという。どんな学生に来てほしいか尋ねると、本質的なことを教えてくれた。

「重要なのは知識や経験ではなく、何を勉強したいかというモチベーションです。経済学を応用して社会問題の解決に取り組もうという問題意識を持った方に学んでほしいと考えています」

社会に役立つ明確な目的を持ち、最適な手段で解決に導いていく。そんな鈴木教授のもとで学生らが取り組む研究テーマは、これからも無限に広がっていきそうだ。


身分・所属についてはインタビュー日における情報を
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