教員インタビュー
インタビュー

竹内 倫和教授

Tomokazu Takeuchi

研究分野
組織行動論、キャリア論、人的資源管理論
プロフィール
他大学での専任講師、准教授を経て、2011年学習院大学経済学部准教授に就任、2013年より現職。2017年よりUCLA (University of California, Los Angeles) Anderson School of Management客員研究員、2018年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)訪問教授を兼任。 専門は、ミクロ組織論、人的資源管理論。産業・ 組織心理学会理事、経営行動科学学会元東日本部会長。社会的活動として、公益財団法人中部産業・労働政策研究会・第26期研究「日本にモノづくりを残すための基盤強化」研究主査(2014年〜2016年)、公益財団法人日本生産性本部・「経営アカデミー」グループ指導講師(2012年〜現在)、防衛省海上自衛隊幹部学校・幹部指揮幕僚課程等講師(2016年〜現在)等を歴任。2015年日本応用心理学会第81回優秀大会発表賞受賞、2012年4th International HR Conference Best Paper Award受賞、2012年The Association of Japanese Business Studies (AJBS) Palgrave Macmillan-AJBS Best Paper Award受賞、他国内外の学会での受賞多数。

働く人の意識や行動のメカニズムを解明する喜び。

新入社員が組織に馴染んでいく適応の過程を研究する。

新卒入社者の組織に対する帰属意識は心の奥底にいつ宿るのか? その意識はどのようなタイプの人なら入社後も低下せず維持されるのか? それを決定づける要因とは何か?
新入社員が組織に馴染んでいく適応の過程——人の意識や行動の変化を定量的に調査・分析し、いくつもの研究を成果として世に送り出し、国内外の学会で数々の賞を受賞しているのが竹内教授である。

竹内教授は、組織社会化というテーマで研究を行っている。組織社会化とは、新卒入社者や中途入社者といった組織参入者が、組織の規範や価値観、文化を習得し、期待されている役割を理解し、同時に職務遂行上必要な技能を獲得することによって組織に適応していくことだ。
教授は、「入社後の導入研修の内容を高く評価した人は、帰属意識や職務満足度が他の人に比べて低下しない」こと、また「入社前の就職活動時における自己分析や業界・会社研究(キャリア探索行動)などを頑張った人ほど、入社後も帰属意識などが維持される傾向がある」ことを研究で明らかにした。

組織社会化を促進する要因としては、組織と個人、この2つがこれまで重視されてきた。そこに竹内教授は第3の要因として「職場」を指摘した。

「新入社員が実際に仕事を行う場である職場が、組織への適応や仕事を覚えていくうえで大きな要因となり影響を与えていると考えます。
1つは上司との関係です。上司との人間関係はもとより、上司がどのようなリーダーシップを発揮しているか、毎日職場で目にし、肌で感じていることですから、良い上司にあたった場合には、うまく新入社員の適応が進み、仕事に対しても彼・彼女らの能力が開発されていきます。しかし、残念ながらそうではない上司にあたってしまった場合には、ストレスフルだと思いますし、せっかく高い能力を持っていても、それを活かしきれないことも起こりえます。
また、たとえば悩みがあったときに職場内に相談相手がいるかどうか。職場の先輩や同僚からのサポートも新入社員が組織に適応していくうえで重要です」

竹内教授の研究のテーマは組織社会化だが、専門領域は組織の中で働く人間の気持ちや行動を心理学的な視点から科学的に明らかにする組織行動論だという。
「企業経営を考えたとき、経営戦略に基づいて財務や生産、販売などがそれぞれに目標を立てますが、その目標を達成できるか否かはどの分野であろうと、そこで働いている個人一人ひとりの頑張りにかかっています。目標に向かって個人がいかに動機づけられて実際に行動していくか。モチベーションやリーダーシップ、ストレスマネジメントなどは組織行動論のなかの重要テーマであり、様々な場面で応用できる部分がとてもありますので、興味深く研究を進めています」

どうすれば、若者の早期離職を減らせるか?

厚生労働省の調査によれば大卒学生の約3割が就職3年以内に辞めるという。しかもこの数値は空前の売り手市場といわれる昨今に限らない。ここ20年来、買い手市場のときやリーマンショック時も早期離職率はほぼ一定しているのだ。

竹内教授は「企業にとっては大きな損失ですが、辞めることすべてが悪いわけではない」という。「まず、離職した理由を検討する必要があるし、離職理由がとても重要である」と。

「たとえば、もともと独立志向の高い方で、企業組織を一度経験しておきたかったからですとか、その会社のなかである程度のスキルを身に着けられたから、といった積極的な意味での離職であれば、それ自体は問題になることではないと私自身は考えます。
一方で、自分はこの会社でキャリア形成するのだと意気込んで入社したにもかかわらず、現実が少し違ってしまい、それを果たせずに離職せざるを得ない人たちもいます。後者の人たちに対し、どのようにすれば組織に適応できたのか? 入社後はもとより入社前からすべきことがあったのではないか? 企業側からも個人側からも考えてみる必要があります」

「個人と組織との関係性のなかで、これまでは長期的かつ安定的な雇用という前提のもと、企業が主導して個人のキャリアを形成していく組織主導型のキャリア形成が主流でした。しかし今、その前提は失われようとしており、両者の関係性は短期的かつ非安定的なものに変わりつつあります。個人として自律型のキャリアデザインを持たなければならなくなったとき、組織が従来と同じように仕事の配置を一方的に決めるのは難しくなります。入社した人たちに対し、企業が一律にキャリアの主導権を握るのではなく、個人が持つキャリアの希望や志向性と丁寧に対話しながら、いかに組織として仕事を提供し、個人のキャリアをともに発達させていくのかが問われているのだと思います」

「制度というものは、個人の創造性や働きがいというものをある意味で阻害してしまう部分もあるのです。個人から見て、どういった制度を用いれば生きがいや働きがいを持てるのか? これは極めて重要な視点ですし、それが結果として組織の成果にもつながるのであれば、企業にとってもハッピーではないでしょうか。私は、個人の視点から人材マネジメントのあり方を考えてみる必要性を感じて研究を行っています」

大学院で、より質の高い研究を行うためには?

竹内教授は研究に縦断的調査法を用いている。同一対象を継続的に調査し、時間経過に伴う変化を明らかにするもので、手間もコストもかかるが、発達心理学などでも用いられる有益な研究方法である。調査は企業の新卒採用者を対象に実施してきたが、昨今はその対象に上司を加えることもある。

「組織行動論という研究領域、もしくは組織社会化という研究テーマで論文を発表しようとしても、きちんとしたデータに基づいて分析したものでないと掲載されなくなってきています。とくに海外ではその傾向は極めて顕著です。ですから1回だけの調査ではなく2回や3回と追跡調査をする、あるいは因果関係を考察するときには、新卒者の自己評価だけでなく上司から見た評価も加えることでデータの厳密性や価値を高めています」

教授は「大学院でも、より質の高い研究を行うためには、研究するテーマについて深い知識を得ることはもちろん、どのような方法論を用いて課題を明らかにしていくのか、研究の方法論を身につける必要がある」という。

「研究というものは、きちんとした方法論に則ったものでないと、発見事実がいかに素晴らしくとも、その価値は必ずしも高く評価されないと私は思います。たとえば何かの実験をして画期的な結果が出たとしても、その実験の方法が正規の手順を踏んでいないものなら偶然かもしれず、信憑性に欠けてしまいます。
経営学は社会科学であるという前提に立ち、きちんとした方法論を確立したうえで研究を行ってもらいたい。そうしないと誤った結果が社会に広まってしまう可能性もあります。方法論よりもセンセーショナルな結果のみが取り上げられてしまい、それが流布してしまうことの怖さもあるのです」

「私は大学院時代に研究方法論を勉強していくなかで、質問紙の調査票を配布し、人の意識や行動の高低、あるいは意識と意識の間での関係性を数値で把握する定量的方法論と出会いました。以来、それに依拠した実証研究を今日まで続けています。ある意味では、テーマが変わっても方法論がしっかりしていれば、ある一定水準の研究を行うことができると思っています」

竹内教授は「派手な結果よりもほんの一歩の謙虚な前進、そうした事実提示を積み重ねていくことが大事」だという。
「今回の研究結果からわかること、わからなかったこと。それを理解したうえで、その結果に対して謙虚かつ真摯に説明をしていくことです。あまりいい加減な研究はしたくないですね。いい加減というのは、私からするときちんとした手続きや方法論に基づいていない研究ということになります。物事を科学的に捉えて分析する能力と、問題を明らかにしようとする強い意志が経営学を学ぶうえで大事です」

「人間の意識や行動のメカニズムは未だ謎に包まれており、それを解き明かすことは大変困難ですが、ある理論をもとに仮説を立てて調査し、データで裏付け、実証できたときには、部分的ですがその一端を解明したことにもなりますので、研究者としての喜びを大いに感じます」

取材: 2018年10月5日
インタビュアー・文: 遠藤和也事務所
撮影: 松村健人

身分・所属についてはインタビュー日における情報を
記事に反映しています。

取材:2018年10月5日/インタビュアー・文:遠藤和也事務所/撮影:松村健人

身分・所属についてはインタビュー日における情報を記事に反映しています。