「Warm Heart but Cool Headで世界の貧困に挑む」 関麻衣教授ゼミ(開発経済学)
掲載日:2025/07/17

国際社会科学部―学習院ISSにおける魅力の1つ、ゼミ。ISSでは「専門演習」「卒業演習」という名称でゼミを開講しており、2年生までに学んだ社会科学の基礎知識をベースに、興味のある分野の専門家のもと研究に取り組みます。
ゼミとは何をするものなのか?個性豊かな各ゼミの魅力とは?
今回は、開発経済学を専門とする関教授と、そのゼミ生にお話を伺いました。
関先生のゼミ(専門演習・卒業演習)で扱うテーマは何ですか。
途上国が抱える教育、労働、貧困といったさまざまな社会課題を、統計学的手法を用いて分析するゼミです。国際機関が参照する研究論文や政策資料にも触れながら、学術的な知見と実務に活かせる視点の両方を深めていきます。
関ゼミでは、途上国の人々が直面している課題の中から、ゼミ生自身が関心のあるテーマを選び、リサーチクエスチョンを設定するところから研究をスタートします。試行錯誤や行き詰まり、発見の喜びといった研究ならではの経験を仲間と共有しながら、主体的に学び、成長していくことを目指します。
途上国には、先進国以上に多くの社会課題が存在しています。例えば教育分野では、小学校を卒業しても十分な学力が身についていない「学習の貧困(Learning Crisis)」が、多くの国で深刻な問題となっています。この課題に対しては、研究者や世界銀行をはじめとする国際機関の専門家、NGOや教育現場の関係者が連携し、フィールド実験を通じて効果的な教育手法の検証やエビデンスの蓄積が進められてきました。
教育に限らず、農業、栄養、公衆衛生、貧困、金融、ジェンダー、環境といった分野でも、限られた開発資源(資金や人材)をいかに有効に活用するかという観点から、エビデンスに基づく政策立案が重視されています。本ゼミでは、こうした学術と実務の流れを踏まえ、まだ十分に解明されていない途上国の社会課題について、各自の関心と重なる問いを見つけ、掘り下げていきます。
ゼミではどのような活動を行っているのでしょうか。
専門演習(3年生ゼミ)では、途上国のデータを用いた定量分析に取り組み、他大学との研究会での発表を目標に研究を進めます。各自の関心に基づき、英語で書かれた学術論文や国際機関のレポートを読みながらリサーチクエスチョンを絞り、仮説を立て、研究者も使用する国際データを用いて検証します。発表は日本語・英語のいずれでも行います。
卒業演習(4年生ゼミ)では、専門演習での経験を基に卒業論文を執筆します。4年生には、可能な限り因果推論の手法を用いた分析に挑戦することを勧めています。2025年度は、全員が英語で卒業論文を執筆しました。単著の英語論文は、海外大学院進学や国際機関など専門性の高い進路を目指す際の重要なアピール材料となるため、今後もこの取り組みを大切にしていきたいと考えています。
2025年度のゼミでは、アフリカやアジアを対象に、幼児教育、栄養や食糧不安、児童労働、女子教育や早期婚、外国援助やFDIなど、子どもや社会の将来に関わる多様な社会課題を分析しました。その成果は、関西大学東京センターでの合同研究会にて発表しました。
また、JICA横浜で開催された学術イベント「AfriCampus」にも参加し、英語での研究発表やポスターセッション、パネルディカッションを行いました。このような外部の学術イベントへは、今後も積極的に参加していきたいと考えています。

写真:他大学との合同ゼミで、学生が英語によるプレゼンテーションを行う様子
「専門演習」「卒業演習」の魅力、醍醐味とはなんでしょうか。
少人数で、一人ひとりの疑問や知的好奇心を「研究」という社会に開かれた形で深く掘り下げていく経験は、高等教育機関ならではの貴重な学びだと考えています。とりわけ、試行錯誤や失敗を重ねながら、学内外の仲間と切磋琢磨できる安全な知的環境こそが、演習の持つ最大の価値だと感じています。
本ゼミに集う学生が持つ、途上国の人々の苦難に寄り添う温かい心(warm heart)は、それ自体が大切な資質です。一方で、問題意識だけでは課題解決につながらないのも現実です。近年ますます重要性を増している「エビデンスに基づく政策立案」に貢献するためには、冷静に考え抜く力(cool head)が不可欠であり、演習はその力を養う最適な教育の場だと考えています。因果推論をはじめとする分析的思考は、研究や政策分野に限らず、民間企業など多様なキャリアでも活かされる力です。
複雑に絡み合う社会課題の中に埋もれた重要な問いに輪郭を与え、まだ誰も答えを見つけていない問いに挑む──そうした研究マインドを身につけ、卒業後も力強く、しなやかに社会で活躍していってほしいと願っています。

写真:JICA横浜で開催された学術イベント「AfriCampus」にて学生が発表する様子
ゼミ生インタビュー(2023年度入学・宮野 亜子さん)
私は専門演習Iより関先生のゼミに所属し、アフリカ全54カ国を対象として、栄養状態と学業アウトカムとの関係性について研究しています。現在は、Global Child Nutrition Foundation (GCNF)およびWorld Development Indicator (WDI)のデータを用い、アフリカの学校給食が初等教育就学率にどのように対応しているのかを分析しています。
膨大なデータのクリーニング作業や、アフリカにおけるデータの欠損といった課題に直面し、トライアンドエラーの連続ですが、関先生からの指導や同じゼミの仲間からの助言を受け、日々着実に研究を進めることができています。
また、TICAD9のユースイベントや他大学との合同ゼミなどを通じて、自分の研究を発表しフィードバックを得られる機会に恵まれているだけでなく、他者の多様な研究に触れることで、新たな視点を得ることができる点も、ゼミ活動の大きな意義であると感じています。
将来は大学院に進学し、アフリカの地域研究について学びたいと思っています。そして、ゼミで身につけた課題発見力や分析力を活かし、国際的な社会問題の改善に寄与できるような存在になりたいです。
ゼミ生インタビュー(2022年度入学・椎橋 優樹さん)
ウガンダの小規模農家が気候変動の影響をどのように受けているかを、教育や農業に係る情報アクセスの観点などから分析しています。世帯追跡型の家計調査データを活用していますが、農家の食糧安全保障に影響を与える要素を数値データから読み解く作業はトライアンドエラーの連続。しかし、関先生の客観的な視点からの丁寧な助言を受け、物事を辛抱強く、多角的に検討する力を養うことができました。今ではさらに視野が広がり、国内外の貧困や教育など、より幅広い社会課題にも関心が向いています。
将来は、ゼミで磨いた統計的な観点や考察力を存分に活かし、山積みとなっている国際的な経済社会の課題改善に寄与できるような存在になりたいです。
※掲載内容は取材当時のものです。