計量経済学
所属学会:日本経済学会、日本統計学会、Econometric Society
経済学のデータ分析である選択必修『計量経済学』の講義では、第1学期で幾つかの説明要因を探る重回帰を中心に、第2学期では本格的な計量分析(需給分析・最適選択・時系列解析など)を学びます。統計学入門I・Ⅱや経済数学Ⅰ・Ⅱを履修することは理解の手助けとなり、表記法にも慣れ易いでしょう。まず、ゼミ等でレポート・論文を書くときに、経済データを数量的に分析するには、計量経済学の手法が必要です。そして、統計学による推定と仮説検定に基づくので、主張をエビデンスによって客観的に他者へ伝えることができます。さらに、パソコンを回し現実のデータのレポート課題を通じて、他者のデータ分析結果も読み取れるようになるのが大きな目標です。
恐らく計量経済学(エコノメトリクス)というのは昔からむずかし気な科目のひとつです、経済小説家城山三郎の「官僚たちの夏」にもそんな件があったような。しかし、ミクロ経済学・マクロ経済学に並ぶ基幹的な科目とされ、他のどんな経済科目のデータ分析にも対応しようとするのが魅力です。こうした意味で、経済学は既にかなり昔から、昨今で謂うデータサイエンティスト的な人材の育成にも重きを置いています。皆さんには上述を承知した上で受講を勧めるところですが、単位については、まじめに普通に取り組んでいれば取得できるよう配慮しているつもりです。
演習について2年次では、『統計検定2級』の資格取得を目指した対策テキストの輪読が中心です。3年次では、各自が研究テーマを見つけてゆき、先行研究を調べてプレゼンしたり、実証論文のデータ分析を再現などして、実証の実際を学びます。4年次には、研究テーマを絞り実証分析による卒論を上梓することを目標にします。
学問をするうえで、分からないことにぶつかることが間々当然にあります。それは恥ずかしいことではなく、演習では質問意見し合いお互いにとって建設的な議論を行うことが大切でしょう。
私の研究の関心は、計量経済学において伝統的で未だ中心課題のひとつである内生性というものです。自然科学のデータと違って、社会科学では我々人々が主人公で、最適な行動をしたであろう経済システムの内から生まれるデータを扱います。これを内生性と呼び、必ずしも原因と結果の二項対立では話を済ませられず、他の統計分野とは大きく異なる特徴です。例えば、所得が増えれば消費が増えますが、逆の因果で、消費が増え景気が良くなり所得も増える、なのでどちらの変数も原因かつ結果でもあるのです。統計学のみでは内生性は扱えず、正確な因果の測定のために計量経済学特有の手法が考案され続けています。しばらくは内生性のあるパネルデータ(各経済主体の動学を追跡したデータ)の研究をして来ましたが、いくつか論文にまとめたので、多少はこの分野を理解したつもりで自分のアジェンダがひとつ消せました。
本学で皆さんと共に学び講義の準備をしているなかで、大学院の教科書や公刊論文であっても極めて稀ではありますが、誤りではないか?できないと書かれてはいるができるのでないか?と思う時があります(自分の勘違いも多々ある)。そして、気になる箇所もたいがいは内生性に関連しています。現在は、こうした機会で得ることができた疑問点を、研究課題として徒然に論考しています。
ご入学おめでとうございます。皆さんが専攻する経済学は、『経国済民』に由来するように志の高い学問領域だと思います(誤解されがちな金儲けの学問ではありません)。経済学は数理モデルで解説することもしばしばで、高校までの勉強法とは異なり数多くある科目を100%理解することが難しく感じるかもしれません。そこで、自分の中で要点や原理を、言葉やイメージによって分かった気になるという折り合いをつけることをお勧めします。そうして問題解決型の体系を修めることで、いかなる問題に対してもベネフィットだけに目が行くのではなくコストも意識できる人材になり、社会へ出てもきっと応用が利くでしょう。二度とは訪れない目白の日々を学び豊かなものとしてください。