多様性、少子高齢化、技術革新、人生100年時代、など新しいキーワードが取り沙汰される昨今、社会の動きや企業の在り方、人生においてのこれからのキャリア像とは何なのか?キャリア形成とはどういうことか?「学習院大学経済学部が考えるキャリア形成」というタイトルのもと、守島基博教授にモデレーターに、キャリアについての授業を受け持つ南裕子氏(特別客員教授)、多田浩司氏(特別客員教授)のお三方に座談会形式でお話をいただきました。
※ 南裕子氏は2024年3月末をもってご退任されています。南氏のご厚意により本座談会記事の掲載をさせていただいております。
守島基博(モリシマ モトヒロ)教授
経営学科:人材マネジメント論(人的資源管理論)・組織行動論・労使関係論
1980年:慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。1986年:米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得。カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。1990年:慶應義塾大学総合政策学部助教授、1998年:同大大学院経営管理研究科助教授・教授。2001:年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より現職
南裕子(ミナミ ユウコ)特別客員教授
経営学科:キャリア発達、キャリアカウンセリング
2016年:筑波大学大学院人間総合科学研究科博士前期課程修了(カウンセリング)。1990年:鉄道会社(広報室、ホテル事業、社長室)。2009年:東京労働局 就労支援業務。2011年:国立・公立・私立大学 キャリアカウンセラー。2020年:学習院大学経済学部特別客員教授(※2024年3月に退任済み)。公認心理師。キャリア・コンサルティング技能士(2級)。
多田浩司(タダ コウジ) 特別客員教授
1988年:航空会社入社2005年:筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士前期課程修了 修士(経営学)。2012年:一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了 博士(商学)。2021年:学習院大学経済学部特別客員教授
守島先生: 本日はお忙しい中、お集まりいただき、ありがとうございます。まず、この座談会のテーマが「学習院大学経済学部が考えるキャリア形成」ということなんですけれども、「キャリア形成」というとどうしても就職先や転職についての議論になりがちなんですが、今日はもうちょっと根本的にキャリアとは一体何なのか?であるとか、最近はお二人とも企業がどうこうというよりもキャリアというのは本人がつくっていくものである、というような場面が多くなってきているように思います。そういう部分も含めて経済学部というものがどういう風にキャリアを考えていくか?ということについて、話をしていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
キャリアという言葉の世間的なイメージ、誤解。
守島先生: まず、キャリアデザインについて教えていらっしゃるお二人にお伺いしたいのですが、そもそもキャリアって何なんでしょうか?
南先生: キャリアの授業をする時に最初に学生にする話というのがまさに今、守島先生からいただいた「キャリアって何だと思う?」、「キャリアっていう言葉から何をイメージする?」という質問です。そうすると学生からは、「キャリア官僚」、「キャリアウーマン」とか、そういう言葉が返ってきます。その後にキャリアという言葉の語源を話すのですが、キャリアの語源はご存知のとおり馬車の轍(わだち)なんですね。馬車の御者が後ろを振り返った時に自分の通った場所に延々と連なってくる二本の線のことをキャリアと言うんです、ということをまず話します。
次に、その二本の線というのは振り返ると見えるのだけれども、振り返って見えたものだけがキャリアのすべてだろうか?という投げかけをします。今、自分がどこにいるのかということもキャリアだし、これからどういう道を通りたいのかを計画して選んでいくこともキャリアに含まれる。キャリアというものの概念は、過去と現在、そして未来を通した時間軸の中で自分がどこをたどり、これからどういう道を進みたいか?と考えることも含めた全体であるという話をします。
多田先生: 私も最初の授業でキャリアという言葉の語源について話しています。馬車が通って来たこれまでの軌跡を実線で示し、これから進んで行こうとしている道を破線で描いた絵を見せながら、キャリアとは個人が将来にわたる生き方そのものであるとの話をしています。
また、キャリアという言葉のイメージは先ほど南先生がおっしゃったとおり、「仕事経験の積み重ね」や「出世」といった捉え方をしている学生が多いですね。すなわち「成功」という言葉に絡めた捉え方をしている人が多いように感じます。ただし、私はキャリアに関しては絶対的な正解は無いと考えており、何が正解かは人によって異なるということです。
守島先生: そうですね。
多田先生: やはり自分が進むべき道は自ら切り拓いていく必要があり、これからの時代はこれまで以上に求められていると思います。そのような意味合いも含めてキャリアデザインという言葉を捉えて欲しいという話をしています。
キャリアとは何か?
守島先生: 今のお二人のお話に共通しているのは、いわゆるキャリア官僚であるとか、キャリアウーマンであるとか、そういう風なキャリアという言葉はある意味俗語であって、それよりもキャリアというのは今まで辿って来た道、それから自分がどうやって作っていくかっていう道の両方を指していて、で、これからの時代ではこれからどういう風に前に、先に向かってつくっていくか、という部分が大切であるというのが一つ大きなポイントになると思います。
多田先生: そうですね。さらに付け加えるとしたら、ワークだけではなくライフを含めた人生全体としてキャリアを捉えて欲しいと考えています。
守島先生: あと、多田先生のお話ですごく面白いと思ったのは、要するにキャリアというのは成功したかどうか?良いキャリアかどうか?という風に他人が評価するものでは無く、結局、自分がどういう風にどこまで評価をするかということです。キャリアというのは極端に言えば自分が作っていくっていうことであれば、それが他人から見てどういう風なキャリアだったとしてもそれは極端に言えば関係ない、ちょっと断定的な表現かもしれませんけれどそういうイメージになりますかね?
南先生:そうですね、自分がその馬車の御者になった時を想定した時にどういう馬車をつくりたいのか?というお話かと思います。たとえば、小型ですごく早く走る馬車がいいと思う人もいれば、スピードは出なくても豪華絢爛で素敵だね、と言われるものがいいという人もいると思います。
さらにいえば、あえてデコボコ道を走りたいんです、デコボコ道で乗り心地が悪いけど乗りこなす感覚がとても面白いんです、という人もいれば、いやいや、舗装された道をまっすぐ快適に走りたいんです、という人もいるでしょう。ですから何がいいか、というのは、さきほど多田先生がおっしゃったように、その人の価値観によるその人の選択であるわけで、自分の人生をどういう道を選んで進んでいきたいのかを考えることがキャリアなんですよ、ということですね。
守島先生:おっしゃる通りですね。
南先生:なんとなく学生の皆さんは、大学に入ると、横一線で全員同じというような感覚を持っている人が多いと言いますか・・・。
守島先生:そうですね、大学というのはスタートラインとなっているもので、こうまだ視界が閉じられてるような状態ですね。
キャリアをデザインするということ
守島先生:お二人ともキャリアデザインというテーマの授業をされていらっしゃいますが、難しいと思うのは、みなさんおっしゃったように学生、特に一年生二年生のあたりというのはまだ高校の時までのキャリアが長いわけであって、そこのイメージからみると一線に並んでいるという状態に感じている学生が多いわけですから、そこでキャリアデザインを学ぶということの意味合いって一体どういうことなんでしょうかね。
南先生:高校との違いという意味でしょうか?
守島先生:高校との違いというよりは、今、大学に入りましたと、新しいステージに入りましたと。で、まあ、キャリアという言葉を考えると、やはりその次は就職という言葉が多分常に頭に浮かんでくると思うんですね。で、その辺の流れみたいなところが、やっぱり学生の中では結構整理しきれていないのかなと思うんですがいかがでしょう?
南先生:例えば高校にいる時は先生方が指導してくれて、テストで何点とれば大体この辺りの大学目指せるかな?とか、いつ頃から過去問をやっていこうとか、このタイミングでこれをやろうという指示やアドバイスがあり、それにうまく乗っていけば入試という山を越えられる、というのが大学入学までの過程だとすると、大学を卒業する段階での社会に出る、就職とは全く異なる、ということになります。
就職活動が始まると、指示されるのを待っていました、という学生がたまにいるのですが、待っていても誰かが就職先を運んできてくれるわけではない。社会に出ていく場所をつかむということに関して、自分が主体的に動いていかないとつかめない、というところが、まず根本的に全く違います。
大学に入る時は、例えば成績で何点取れるか、ということだとすると、就職に関しては選考の中に一部テストもあるけれども、テストの点数で決まる訳ではない。基本的にはその人の人柄、人格、資質などによって総合的に判断される。だからそれらを高めるために自分から働きかけ、自分で考えられるようにならないといけない。そのために大学生活をどのように過ごしていくか、ということを検討しておくことは重要だと思います。
多田先生 :意思決定という観点からお話しますと、人によっては自らが望んだ大学や企業に就職できないこともあるかと思います。しかし、キャリアを考える上で一番大切なのは、自らが選択したものを自身で最適なものにしていこうとする姿勢が重要であるということです。私たちが人生において行う選択は、必ずしも望み通りに行かないこともあるかと思います。だからこそ選んだ「後」に自らが選択した道を、より良いものにしていく努力が必要になるのです。
守島先生:それがまさに多分、デザインっていう言葉なんでしょうね。
多田先生:そうですね。
守島先生:私は学生に大学というところは選択を覚える場所である、ということをよく言うんですね。南先生がおっしゃったように、高校までは少なくとも食べるものについても幼い時から与えられてきたし、それから、勉強の内容についてもほとんど全部必修で取らなきゃいけない。授業を取る選択をするっていうことを、大学に入って初めてやっていくわけで、いろんな選択肢が広がるきっかけの一つになるんだと思うんですね。特に学生がその中で、やっていく選択というものは、まさに多田先生もおっしゃったようにパーフェクトじゃないんだと。つまりその選択、本当に合っているかどうか?というのは結果であって、ちょっと時間が経たないと分からないものなんだ、という風に言うんですけれども、まさに多田先生がおっしゃったように、結果的にはそれをどうやっていいものに、最適にしていくかということであって、選択っていうのは、そこまで含めて選択なんですね。
そういう風に考えると、人生の中で就職というものは、ものすごく重要な意思決定なんだけれども、完全じゃないんだということを理解して、どうやってそれを良くしていくのかということをやっぱり考えなくちゃいけない。つまり、そういう場面自体がやっぱり重要で、そのための方法論であるとか、考え方を学ぶのが多分キャリアデザインという話である、という風に私は理解させていただきました。
大学期~就職初期のキャリアとは
守島先生: 具体的な授業の内容についてお話し聞かせていただきたいんですが、どういうことを教えていらっしゃるんでしょうか?
南先生: 最初に学習院大学でのキャリアデザインの流れについて説明します。キャリア・デザインⅠでは「自分を知ること」。私ってどういう人間なんだろう?どういう考え方をする人間なのか?自分の特徴は何なのか?というようなことを理解していく。キャリア・デザインⅡでは「社会を知ること」。社会とか業界に対する知識やその変化について理解する。キャリア・デザインⅢではその二つを繋げることについての授業です。自分を理解したうえで社会を理解し、それをどのように繋げていくのかを検討した上で自分を表現する、という流れですね。
多田先生: 今、南先生がお話されたとおり学習院大学ではキャリアデザインを自分事として体系立てて身に付けていけるカリキュラムになっています。特に前半の授業では自己理解を深めるということに主眼を置いた進め方をしています。例えば、他人の良いところや欠点は容易に気づくのに、自分のこととなると良く分からないという人は多いと思います。また、自分を理解しようとすると自分の悪いところに目が行ってしまい、自分の良さや強みになかなか気が付けないという人もいるかと思います。やはり、自己理解を深めるには友人や先輩など周囲の人との関わりの中で自らの価値観や拘り、さらには自身の魅力に気づいてもらうということが必要で、これらを授業の中では色々なワークを通じてやっています。
守島先生: 自己理解であるとか、社会とのブリッジを作っていくであるとか、そういう議論をしていくなかで、学生たちの頭の中にはその先にある就職や就職活動が結構大きく出てきますよね。多分、これをお読みになる高校生のみなさんや、なかには中学生の方もいらっしゃるかもしれませんけど、そういう人たちもやっぱりこれらの根底にあるのは、就職というものへの過程なんだと考えれる方が結構いると思うんですけど、そういった全体像の中で、就職や就職活動って、どう位置付けたらいいんですかね?
南先生: 先ほど多田先生がおっしゃったように一本のルートのみが最初から示されているということは多分無いし、就活に全く苦労しなかったという人もいないと思います。ですから、誰しもが自分を社会と繋げていくときの苦労やジレンマはある、あって当然である、ということなんです。では就活は苦労だけかというと、決してそうではないと思います。就活に入る前と、就活を終えた学生を外側から比較すると、ものすごく変化していて、人が違ってみえます。
守島先生: 人物が違っちゃうって言いますよね、みんな。本当にゼミ生を見ていると就活前と全然違う、違っちゃいますからね(笑)。
南先生:顔つきや姿勢、目つきなどもう全く違って驚きます(笑)。
守島先生:言葉遣いとかもそうですね。
南先生:ですから、そういうことを考えると、就活とはとても大変だし辛いこともあるけれども、それを乗り越えることで自分の人格的な成長というものが可能になる、ということは理解して欲しいと思います。就活が嫌だとか就活で苦労することを避けたいという気持ちはあるけれども、それを乗り越えたからこそ自分に適した場所を見つけられた達成感とか、やり遂げたという充実感を持てるということが、自分を成長させ高めてくれる、ということを理解してチャレンジして欲しいと思います。
多田先生:キャリアの節目というのは就職に限ったものではないですが、社会に出る、就職するというのは、長い人生の中でも特に大きな節目であると考えています。そのような大きな節目で重要なのは、全体感としての「方向性」をしっかりと持って欲しいということです。この大きな方向性さえ持っていれば、途中で右や左へと寄り道をしても真っすぐ進んでいたら気が付かなかった新しい発見に出会い、それは必ず自身の将来の糧になるものと考えています。そういう意味でも学生から社会に出るという節目では大きな方向感をしっかりと持って欲しいという話をしています。
守島先生:就職というのはさっきおっしゃった、その社会とのブリッジという関係性を持つ最初の段階だと思うんです。ですから、社会に貢献する、であるとか社会に価値を提供する、であるとかそういうものの最初の段階かなと思うんです。これまではどっちかというと、「受ける」といったところが多くずっと生きてきたんだけれども、これからは「受けたものを返す」というか社会に貢献するということやっていくことが人間として生きていく中で極めて重要だと思うんですよ。同時に、それをやることで、自分の人生の設計が可能になるための活動でもあると思うんです。
人生を作るっていう中で、就職をするっていうのは、極端に言えば、別に企業に入らなくてもいいとも思いますけど、働くということは結構重要なことで、そこでいろんなものを社会に貢献することでお金、給料とかそういうものでリターンをもらって、それで自分の人生をつくるのが可能になっていくものですよね。ですから、就職というのはもの凄く重要で、結果的にはもちろん良い会社に入るっていうことも重要なんですけれども、それが結果として自分の人生をつくる、というところにつながっていくことが大切だと私は思っています。
多田先生:そうですね、最近の新入社員の意識調査でも「仕事をする上で重視することは何ですか?」という問に対して、「貢献」「成長」「やりがい」といったものが上位にきています。すなわち、仕事とは金銭を得るための手段として捉えることは決して否定するものではありませんが、近年では仕事を通じて社会に貢献するといった考え方や自己実現の場として捉えている学生が多くなってきているような感じがします。まさに守島先生がいま仰ったとおりだと思います。
守島先生:自己実現という部分もあると思うんですけど、あえて言えば自己実現というのは自分が満足するかっていう話なんですよね。それ以上に社会に対して、他人に対して貢献することが可能になるというのは、人間の存在として私はすごく喜びにつながるところってあるんじゃないかなと。分野とか業種によって全然、具体的な貢献内容というのが変わってきますけど、そこの部分は結構重要なのだと思います。
経済学部での学びとキャリア形成
守島先生:キャリアデザインという考え方は、高校から大学、大学から就職する、という流れの中で、いわゆるその最初の職、職種を初期キャリアって呼びますけれども、最初の5、6年で終わるわけではなく、そのあともどんどん続いていく。特に最近、人生100年時代みたいなことを言われていますけれど、そういった状況になっている中でそのあたりについてのお考えを聞かせていただきたい。
南先生:以前に比べて転職しやすい環境になってきているので、合わなかったらすぐ転職すればいい、という考え方をしている学生も結構いるのですが、それはちょっと考えようよ、という話はしています。学生はまだ全く社会に出ていない真っ白な状態なので、最初の初期キャリアをどこで作るのか、ということは非常に重要な選択です。真っ白な自分をその会社のカラーに染めていく過程が初期キャリアの形成だと思うんですけれども、例えば自分が黄色くなりたいのに、青い会社に入ってしまったとか、赤い会社に入ってしまったとなるとミスマッチが発生しているわけですが、その中で青いものって何だろう?赤いものって何だろう?って、しっかり理解した上で自分のこれからを考える。そこでやっぱり黄色がいいという風に理解して決断するのであれば良いんですけれども、自分が何色を目指しているのかもわからないけど、とりあえず入ってみたら違っていたのですぐやめる、というのはよい選択ではない、ということはきちんと伝えていきたいと思っています。
守島先生:今、3年でやめる若者たちみたいな割合って多いじゃないですか、統計的にも明らかになっていますし、その中にもいろいろあるっていうことですかね?
南先生:そうですね。七五三現象ですね。統計で見るとこの3割の辞めた人達の中でキャリアアップという前向きな理由で辞めている人って1割ぐらいしかいなくて、残りの9割は人間関係が合わないとか労働条件が合わなかったといったネガティブな理由で会社を辞めています。これは、自分の会社員生活をネガティブに捉えることにもなるため、環境をポジティブに捉えられるように変わるためには物凄いパワーが必要になります。ですからキャリアアップしたい、というプラスモードの人が考える転職と、ネガティブになってしまってからの転職は全く違うのですが、それを混同している学生が多いのではないか、というのが懸念としてあります。
※七五三現象:就職して3年以内に中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が離職する現象のこと。
多田先生:そうですね、やはりネガティブな理由で離職しないようにするためにも冒頭にお話しした自己理解を深めるということは重要であると考えています。昔は、教育・仕事・引退(定年)というスリーステージモデルが一般的でしたが、人生100年時代になると教育・仕事・学び直し・仕事・引退(定年)というマルチステージモデルになってくると言われています。そういう意味でも大学期においては「学ぶ」ことも大切ですが、それ以上に「学び方」を学んで欲しいと思っています。それが社会に出てからも自らキャリアをデザインしていくために必要なものであると考えています。
守島先生:要するに自分が何をしたいのか、何を大切にしたいのかとか、どう社会に対して貢献したいのかってことを見つける。で、それにプラスして、社会の状況について学んでもらうみたいなのが大学時代にやるべきことじゃないですかね?
多田先生:まさにそうだと思います。
守島先生:そうすると経済学部で教えられている様々な科目ってありますよね。経済学を筆頭として経営学科であれば、経営学みたいなものを中心として、そういうものっていうのは、その、社会を学ぶっていう部分もあるんだけど、その中で自分が何をやりたいのかであるとか、何が自分に合っているのか、みたいなことを考えていく。そのための一種のきっかけとなるって、そういうイメージですかね?
多田先生:そうですね。授業の中では「社会の変化を知る」というテーマで、人口動態の変化や労働市場の変化についても話をしています。例えば、少子高齢化が進んでいくとどのような世界になっていくのか、或いはChat GPTのような生成AIがどんどん進化していくとどういう社会になっていくのか、ということを経済学部で学んだ専門的な知見と重ね合わせて社会の変化を理解していくことが、今後のキャリアをデザインしていく上で必要になってくると考えています。
守島先生:その大きな動きの中で自分がどこに身を置きたいのかを考えていくイメージですね。
多田先生:そうですね、そういうところが大切なんだと思います。
南先生:激しい環境変化、社会変化の中においての、企業の価値とか、企業経営のあり方と同時に、採用の仕方というものも激変していて、過去の方法が通用しない社会になっているっていうことは分かるんだけれども、これからどうなるのか?ということをきちんと読み解くということが、非常に大事なことだと思うんです。ある分野でどういう変化が起こるのかを読み解くということを考えた時に、例えば授業で学べる先生方の知見というものにより、社会に対する深い予測が立てられるようになる、っていうことはものすごい力になると思います。そういうことを身につけた上でそれを元にして自分はどういう解を出すのかということを検討していく。そういう意味で非常に良い刺激を経済学という専門分野の中で獲得できるということは間違いないと思います。
守島先生:そういう意味でいうと、社会がどういうメカニズムで動いているかであるとか、どういうプロセスで、例えば、今ここにボールペンがありますけれどボールペンをどうやってここに私が使えるような状態まで来るかであるとか、つくる人、デザインする人、それから実際に作る人、それを流通で届ける人がいて、私が行って買うっていう、これはコンビニで買ったんですけれど、そのプロセスがどうなっているのかってことが分かることによって、それが変化する時に自分がどう対応すればいいかっていうことがだんだん分かってくるって、そんなイメージですかね?
南先生:そうですね、仕組みを理解することが武器になっていく。
守島先生:よく言われる話なんですけれど、経済学部経営学科っていうのは、いわゆる専門性がなかなか作れないんじゃないか?例えばこの学校にも理学部ってありますけど理学部だと毎日研究で実験してある意味で専門性がきちんとできるっていうイメージがあって、で、今の社会的にはキャリアっていうものを作るためには、専門性みたいなものが結構重要だっていう話がありますけど、その辺の関連性ってどういう風に考えられますか?
南先生:学生に自分のキャリアどう作っていきたいかとか、自分の武器は何かという話をすると、やっぱり考えている学生はちゃんとした答えが出来ていて、例えば今、大学で勉強していることとは全く違うけれど他にこういう勉強をしているんですとか、こういう資格を取ろうと思っている、っていうような言葉が比較的出てきやすいんです。ですから、今、勉強していることはもちろんベースにあるんだけれども、その枠に制限される必要は無くて、大学入学後の例えば友人とか先生とかの刺激をもらって、解をどうつくるか考えていけばいいのではないかなと思います。
多田先生:経済学部では、将来に役立つ経済学部ならではの専門性があると思います。文学部や法学部にもそこでしか学べない専門性はありますが、やはり経済学部は社会の仕組みや企業の仕組み、金融や会計あるいは人を活かすという意味での人的資源管理など、色々な側面から将来に活かせる実学を学べるのが強みだと思っています。自身の専門性に立脚したキャリアをデザインしていく上で必要な土壌を、肥沃にしていけるのが経済学の面白さではないかと考えています。
守島先生:文系という大きなくくりはありますけど、要するに文系っていう土壌をできるだけつくることによって、その次の段階、特に企業に入った段階であるとか、初期キャリア、最初の頃、5年、10年あたりで、どういう風な自分になりたいのか、専門がマーケティングなのか、会計なのか、人事なのかっていうような、色々ありますけれども、それをつくっていくための土台を作るのが大学、特に経済学部における学びだとそういう話ですね。
学習院大学経済学部の特徴、強み
守島先生:最後に、学習院大学経済学部でのキャリア形成においての特徴、強みについてお話をしたい。まず、私から話しますと、比較的個別に対応する、個別とか小集団に対応する、っていうことがこの学校の一つの大きな特徴かなと思うんですね。講義を受けるだけじゃなくて、質問があれば、ゼミや授業でも教員がちゃんと答えてくれる、っていうのもあるので、別の言い方をすると、結構高度なことが丁寧に学べる環境が整っているのかなと思っています。
南先生:私は講義がずっとコロナ禍でオンラインだった時期に学生との双方向性をどうするかということで、毎時間必ず提出するワークシートに質問欄を設けていたんですね。任意としているにもかかわらず、大変な数の質問が毎回来ていまして、何十枚ときた質問を仕分けていくことから1週間が始まっていたんですけれども(笑)。翌週の講義で質問に返答をしていく中で、学生が幅広い刺激をうけて変化している、という反応を感じていました。
多田先生:経済学部としての専門性を丁寧に学べるということはもちろんですが、学習院大学はすべての学部が1つの敷地内にあるというワンキャンパスが強みであると考えています。すなわち、文系理系を問わずすべての学部の仲間と日常的に交流できることで、学部内だけでは得られない発見があり、それが自身の専門性と有機的につながって活きた知識として身についていくものと思います。さらに、キャリアデザイン科目は学部のみならず全学年から履修できるので、先輩後輩を含む縦横斜めの関係から多様な価値観に接することができるのが、他大学にはない学習院大学の良さの一つであると考えています。それは学生一人ひとりの人としての魅力に間違いなくつながっており、これは社会に出てから改めて感じるところではないかと思います。
守島先生:お二人がおっしゃっていることというのは多様な刺激があるということですよね。教員もいるし、他学部もあるし、あと先輩も後輩も大勢がワンキャンパスの中にいるしという環境で、そのやっぱりさっきの話じゃないですけど、選択をするためには考えないといけない、選択したことを良くしていくっていう風に考えなきゃいけないと思うんですけども、考える訓練が非常にリッチにできるっていうのが、この学校の良さかなと思います。経済学部だけじゃないのかもしれませんけど、学習院大学では、大きな知識を与えるような講義もあるけどゼミもたくさんあって、そういう意味では南先生がおやりになっているような、規模は大きい授業なんだけれども個別に対応している科目も多いので、いろんな種類の刺激を受けて考えることが促進されるのかなと思います。
多田先生:これからのキャリアを自らデザインしてくために必要に要素が自然と埋め込まれているのが経済学部であり、学習院大学の強みであると思います。
守島先生:おっしゃる通りかと思います、キャリアデザインするための本当に必要な環境があるんだと思います。本日はみなさん本当にどうもありがとうございました。