1998年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、オクスフォード大学大学院で学び、博士号を取得。2005年からマンチェスター大学社会文化研究所で専任研究員を務め、07年から現職。専門は、グローバル経済史、消費文化史。
島としては、グリーンランド、ニューギニアに次ぐ広さを持ち、世界有数の熱帯雨林が広がる東南アジアのボルネオ島。2012年8月、経済学科の眞嶋史叙教授のゼミの学生を中心とする、13人の学習院大学の学生たちは、この島のブアイヤン村でボランティア活動を行った。眞嶋教授は「学生が村の支援を行うというより、村で学ばせていただく代わりにお手伝いしましょうという感覚です。山の中での昔ながらの生活スタイルに触れてほしいと思っていましたが、予想以上に村の人たちに溶け込んでくれました」とその成果を紹介する。
4年生でチームリーダーを務めた筆島督成さんは「ブアイヤン村の人たちが、本当に歓待してくれました。『スラマッパギ(おはよう)』や『テリマカシー(ありがとう)』といった簡単な現地の言葉だけで、村の人たちとコミュニケーションを取ることができました」と言う。
筆島さんは、外国に行くのは今回が初めて。州都コタキナバルから山に分け入り、吊り橋をいくつか渡ってようやく到着するブアイヤン村で過ごした約10日間の経験を、筆島さんは楽しそうに語ってくれた。
副リーダーの望月遥さん(4年生)は、過去にもカンボジアやフィリピン、エチオピアなどでボランティア活動にかかわった経験をもつ。「これまでは子どもたち一人ひとりに向き合う活動でしたが、今回は村全体にかかわる活動でした。印象的だったのは、家族、村全体の絆です。お金や物ではなく、心の豊かさを思い知らされました」と語る。
「プロジェクトDISSOLVA」と名付けられたこの活動は、学生たちの発案から生まれた。11年4月、筆島さんや望月さんたちゼミ生は、ゼミを今後どう進めていくかを議論した。
現在4年生でゼミ長を務めている時任美乃理さんは、「ゼミ生全員が、何をやりたいのかを発表しました。眞嶋先生の専門は経済史ですが、経済史を学ぶことと、発展途上地域の経済を学ぶことは同じこと。既成概念にとらわれず自由に意見を出し合いました」と振り返る。その議論の末に、海外でボランティア活動を行うことが決定した。
学習院大学では以前、経済学部の川嶋辰彦名誉教授が中心となって、タイ北西部でのボランティア活動を十数年にわたり継続的に実施してきた。眞嶋教授自身も、2010年に参加した。
「学生の成長ぶりに目を見張りました。それで自分のゼミでも取り組めないかと考えていたのです。そのため、学生たちが発案したボランティア活動に取り組むことにしました」と眞嶋教授は言う。
場所をボルネオ島北部に位置するマレーシア領サバ州にすること。その方針が固まると、さっそく準備に取り組んだ。現地のサバ大学と連携して、山岳地帯にあるブアイヤン村で活動を行うこと、ボランティア活動内容などは、視察を重ねる中で具体化していき、視察から帰るたびに学生たちと眞嶋教授が話し合って計画が進められた。
ゼミの時間にボルネオの経済や歴史を学んだり、東日本大震災の被災地を訪れてボランティア活動を経験したり、1年がかりで準備を整えてきた。
ブアイヤン村はコタキナバルから山に分け入ったところにある。 途中までは車で行けるが、最後は徒歩しか交通手段はない。ここに1000世帯ほどが焼き畑農業をしつつ暮らしている。最近まで村人たちは自給自足の暮らしを続けてきたが、マレーシアの経済発展に伴って、その暮らしは変わりつつある。ダムの建設も予定されていて、もし計画通りに建設されれば村全体が近隣の8カ村とともに水没するという問題も抱えている。
現地での学生たちの1日は、朝6時の鶏の鳴き声で始まる。そして7時には、村の“お母さん”たちが作ってくれた朝ご飯を食べ終わると、8時半からボランティア活動だ。
村の周りに群生する竹を切り出してシャワー室を作る。朽ち果てた小学校の図書館の床を貼り替える。村の小型の水流発電の小屋を修理する。いずれも、ほとんどの学生が初めて経験する作業ばかりだ。
望月さんは「村の人たちは、若い日本の学生のおぼつかない作業に心配だったのでしょうね。ずっと後ろに付いてくれていました」と打ち明けるが、学生たちは村人たちの力を借りながら、8日ほどで予定通りの作業をこなした。
村には小学校しかなく、中学生以上は村を出て、都市の学校に通っている。しかし、この期間は休暇で村に戻ってきており、夜はゴスペルや大ヒット曲「田舎っぺ」を歌うなどして交流を深めた。
筆島さんは村の若者たちとの意識の違いに驚かされたという。
「若者たちが『村のために貢献したい』という強い気持ちをもっていました。ただ、開発については、自然を守るべきだという意見の一方で、車の通る道路が欲しいという意見も。でも皆、希望を持っていました」
筆島さんは地域経済に興味をもっており、就職も故郷の福井県のメーカーに内定している。そんな筆島さんに、ブアイヤン村の学生たちの意識の高さは強い印象を残したようだ。
眞嶋教授は「私たちの日々の暮らしとは違う視点から、豊かさとか、幸せを感じ、日本にもち帰れるような機会になればいいと思っていました」と言う。その眞嶋教授の願いは、確実に成就したようだ。
実はゼミ長の時任さんは、大学院の入試のため、今回は参加できなかった。しかしプロジェクトの準備のために、4月に眞嶋教授と一緒にブアイヤン村を訪れ、村人たちの自然と調和した生き方に、心を動かされた。
「来年はブアイヤン村でフィールドワークをしたいというのが今の希望です。そして、来年もプロジェクトが実施されるのなら、現地で学習院の学生たちを迎えたい」
ブアイヤン村で行ったボランティア。村の小型水流発電の小屋にペンキを塗ったり(左上)、村の周りに群生する竹を切り出し、なたで切り込みを入れ観音開きにして、板材として利用(右上)、シャワー室を作ったり(左下)もした。