帝国ホテルは、日本の迎賓館としての役割を担い、1890年に開業して以来、国内外の賓客をお迎えし続け、国際的ベストホテルを目指して、サービスと商品の向上に努めてきました。現在、東京・大阪・上高地に3つのホテルがあり、2026年春には、京都・祇園に約30年ぶりとなる新規ホテルを開業する予定です。
私は、1984年に入社し、ホテルの各部門や海外営業所での勤務を経験したのち、東京の総支配人を経て2013年に代表取締役社長に就任し、東京だけでなくグループ全体の経営を見ることになりました。就任後4年間は、東京総支配人も兼務していました。ふたつの大役を同時に担うのは、時間的にも体力的にも、とてもハードでしたが、実際にお客様の生の声に触れたことは経営的に大きなプラスになりました。社長専任となった今でも、可能な限りロビーに出て、現場の声を聴くようにしています。帝国ホテルは日本人のお客様だけでなく、海外からも多くの方々がご利用になるホテルです。現場に出て、世界各国のお客様にお喜びいただいている姿を見られることは、日々の活力にもなりますし、ホテルマン冥利に尽きます。
現在、旗艦ホテルである東京事業所の建て替えを計画しており、2024年度にタワー館から着工していきます。2036年まで続く長期プロジェクトとなりますが、先達から受け継いだ歴史ある帝国ホテルの伝統を次の世代にしっかりと継承し、さらにその先にある未来へ続くための礎を築くことが、社長としての私の使命だと思っています。
学生時代、「SUN」というテニスサークルで活動していました。100人を超える大所帯で3年次には副主将を任され、組織運営の第一歩を経験しました。プレイヤーとしてチームをけん引する一方で、時には後輩を叱りながら、率先してトラブルの解決にあたりました。そこで学んだことは、今までの人生において大きな財産となっています。今でも定期的に集まり、近況報告や思い出話に花を咲かせています。
幼少期に、航空会社に勤めていた父親の仕事の関係でドイツ・ハンブルグや香港に住んだことがあり、一時的に日本に帰ってきたときに、帝国ホテルに宿泊した思い出があります。落ち着いた照明と重厚な内装で、ロビーには凛とした空気が漂っていたことを覚えています。そんな経験から、将来は「海外と接点のある仕事がしたい」と考えていたなかで、帝国ホテルに入社したのがホテルマンとしての私のはじまりでした。
29歳の時、ロサンゼルス案内所への異動が叶いました。当時は、アメリカは海外の中で最も大きなマーケットで、その分、責任も大きかったと思います。実際、担当するエリアはカリフォルニア州をはじめとするアメリカの西側全般という、途方もないぐらいの広さで、一人で回るのは非常に大変でした。インターネットのない時代でしたので、パンフレットを鞄いっぱいに詰めて各地に出張し、現地の旅行代理店や企業をひたすら回り続ける日々。帝国ホテルの前に、まずは日本を宣伝するという側面もあり、「メイド・イン・ジャパン」のホテルマンとしての誇りが強まる経験でしたね。「人と会った数だけビジネスが生まれる」と自分に発破をかけ、ロサンゼルスから2400キロメートル離れたアーカンソー州まで米国の西側半分の営業を一人でこなしました。努力が実ったのか、アメリカからのお客様が2割増えたのは非常に嬉しい結果になりました。おもてなしの精神、サービス意識というホテルマンとして思い浮かべる素養とはまた別の、行動力、そしてプレゼンテーション力が身についた時期にもなりました。
都心のキャンパスで、これほどの敷地と緑に恵まれた環境は珍しいと思います。学習院大学は小さな所帯なので、アットホームな雰囲気で結束も固い。そんな環境で4年間を過ごせば、多くのものを吸収できるチャンスがあるはずです。友だちをたくさんつくり、自分はこれだけは負けないというものを磨いてほしい。テクノロジーが進み、AIが発達していっても、人と人とのつながりは社会人としてとても重要です。世界中の人たちとコミュニケーションが取れるように語学についてはしっかりと勉強して身に着けてほしいですね。
※ 本メッセージは、2023年9月に寄稿いただきました。