経済学の世界に魅了され、研究者としての一歩を踏み出した増原さん。キャリアを決定づけた教授との出会い、そして学習院のアカデミズムへの思いをうかがった。
高校まで野球に打ち込んでいて、進路については考えてこなかったのですが、得意科目だった公民の中でも特に経済の分野が面白いと感じていたので、経済学部がある大学を調べ始めました。すると、学習院大学経済学部には一流の教授陣がそろっていることが分かり、「せっかく教わるなら一流の人に教わりたい」と思い、受験することに決めました。
実際に学習院で過ごす中で実感したのですが、本当に一流の研究をしている教授がたくさんいます。例えば、当時指導を受けていた宮川努先生をはじめ、多くの先生が年間に複数本の論文を執筆されていますが、いずれも国際ジャーナルに掲載されたり、海外の有名な学会でプレゼンテーションの機会を得たりしています。
入学したての頃、岩田規久男先生(現名誉教授)の授業に感動したのがきっかけでした。岩田先生はその後、日本銀行副総裁として「アベノミクス」を推進するのですが、定年前最後の1年が私の入学年だったのです。岩田先生に「経済学が面白いので経済学で食べていきたい」と相談したところ、「大学教授しかない」とアドバイスを受け、教授になるために大学院進学を決意しました。また、経済学の理論を学んでいくうちに「理論的に正しい企業を作るとどうなるか?」という疑問が湧き、その実験をする場として会社を作りました。
学習院大学の研究スピリットに深く共感しているという増原さん。学生時代の経験や、卒業後の母校との関わりについてもお話をうかがった。
私の大学生活の中心はゼミでした。はじめは経済史に興味があったのですが、2年生からは西村淳一先生のもとで産業組織論を学びました。特に思い出深いのは、3年生の時に一橋大学と合同で行った研究発表会です。限られた時間の中で集中して準備を進めるなど大変なこともありましたが、仲間たちと研究に打ち込む時間はとても刺激的でした。
また、サークルは漫画研究会に所属していました。メンバーはみな仲が良く、一日中部室で漫画やアニメの話をしていた時間は青春の1ページです。今振り返ると、のびのび過ごしていたなと思います。
ゼミやサークルの同期とは今でも交流していますし、非常勤講師として学習院でも授業を担当しているので、母校には定期的に帰ってきています。2023年には大学図書館がリニューアルするなど、日々施設も進化しており、卒業後も学習院の良さを再発見しています。
また、同窓会組織である「桜友会」の幹事も務めています。助成金支給委員会では活躍した在学生への褒賞を行っていますし、経済学部同窓会では学びを深めるための講演会などを開催し、学習院を盛り上げています。ビジネスなどで活躍しているOBOGも多いので、在学生の皆さんにもぜひ知ってほしいなと思います。
大学教員としても、企業の経営者としても、経済学の知見はとても役に立っています。勤務先の大学で経済学の講義をするときは、学習院時代に経験した面白い講義をモデルにさせてもらっています。
また、学生時代に特に磨かれたと思うのは「経済社会で生じた物事(または出来事、事象)について考え抜く力」です。
例えば買い物をする時、ある商品の価格が上昇したり、下落したりすることを見かけるときがあります。このような表面的な数字の変化の背景にはどのような要因が影響しているのか、例えば、その商品の需要や供給がどのような要因に影響を受けたのだろうか(例 所得の変化、代替財の参入、中間財の輸入価格の上昇等)と一生懸命考えることで、価格の変動理由について知ることができます。
このような思考力を学生時代に養うことで、例えば経営に携わった場合に、ある商品の売上が伸び悩んでいる状況に対し、市場の縮小や競合他社の台頭等、多角的な視点から原因を分析し、有効な戦略の立案にも寄与できます。
自由闊達な校風です。まるで「学びのテーマパーク」だと思います。私自身、大学教員としてさまざまな大学で講義を行ってきましたが、このような大学は多くありません。大学に来て勉強をするもよし、サークル活動に熱中するもよし、自分がやりたいことを突き詰めるもよし。
多くの学生にとって、人生で最も自由な4年間になると思います。しかし、自由ということは、裏を返せば、自己責任の度合いが高いということです。その中でも自堕落にならず、しっかりとした人間力を養える学生が多いところも学習院のすごさだと思います。
また、研究の最前線で活躍されている先生が多いので、当然ながら講義の内容も最先端です。一流の教授陣から学問を教えていただける環境は本当に希少であると思います。
皆さんの中には、卒業後の将来に不安を感じている人もいるかもしれません。ここで重要なのは、前に向かって進み続けることです。たとえ遅くても、他の人に追い越されてしまっても、前に進み続けることで夢や希望を見つけることができますから、一緒にがんばりましょう。
自由闊達な校風の中、やりたいことに打ち込めるのが学習院の最大の魅力です。勉強に食らいついて学問を突き詰めることも、就職活動を早期から意識してインターンに積極的に参加することも、サークルで仲間たちとの時間を大切にすることもできます。自分の夢を実現するため、そして大きく成長するための4年間として最高の場所です。具体的な志望校がまだないという受験生の方もいると思いますが、学習院に入れば、一流の教授陣からたくさん学び、仲間と共にたくさん考えることができますよ、ということをお伝えしたいです。
また、経済学というと数字を使うイメージがありますから、数学が苦手な人の進路としては選ばれにくいかもしれません。実際、私も高校時代は数学が苦手でした。しかし、経済学部で学ぶ数学は、ただ機械的に答えを出すだけのものではなく、経済社会における複雑な事象間の関係をわかりやすく、シンプルに描写するために必要なツール(道具)です。経済学に興味がある方はぜひ苦手意識を持たず、数学と向き合ってみてもらえるとよいと思います。
ハイレベルな研究に取り組む教授たちの背中を追って、自らもアカデミズムの世界に飛び込んだ増原さん。「経済学で食べていく」―――その挑戦は始まったばかりだ。