SPECIAL INTERVIEW
伊藤 順朗(いとう じゅんろう)
株式会社セブン&アイ・ホールディングス 
代表取締役専務執行役員 最高サステナビリティ責任者
兼 ESG推進本部長
兼 スーパーストア事業管掌
伊藤 順朗(いとう じゅんろう)
PROFILE
1977年経済学部経営学科入学後、1年間カナダへ留学。1982年卒業後、三井信託銀行(現:三井住友信託銀行)入社。米国クレアモント大学経営大学院修了(MBA)、ノードストローム社勤務を経て1990年セブン-イレブン・ジャパン入社。店舗経営指導の地域統括やマーケティング部長を歴任後、2009年より同社持株会社であるセブン&アイ・ホールディングスへ転籍。事業推進部、CSR統括部を経て2016年より経営推進本部長、2023年4月より代表取締役専務執行役員 最高サステナビリティ責任者 兼 ESG推進本部長 兼 スーパーストア事業管掌。
今の私があるのは、田島義博先生と出会ったおかげ。

1982年に学習院大学経済学部経営学科を卒業した伊藤順朗氏。20234月より、日本を代表する企業セブン&アイ・ホールディングスの代表取締役専務執行役員を務めている。伊藤氏に当時の学生生活を振り返っていただくとともに、在学生、これから学習院大学経済学部を目指す方へのメッセージをいただいた。

経済学部を志望された経緯について、教えていただけますでしょうか?

家が商売をやっていたので、大学では経済・経営、特に流通やマーケティングを学びたいと考えていました。学習院大学には田島義博先生という流通研究の第一人者がいると父から聞いていたので、漠然とではありますが中学生の頃から経済学部に入って田島先生の元で勉強したいという思いがありました。実際に大学3年生から4年生にかけて、田島先生が持たれていたゼミに参加することができ、そこで流通・マーケティングの基礎を学ばせていただきました。

第24代学習院院長も務められていた田島義博先生ですが、ゼミではどんな先生だったのでしょうか?

大学院に進んだ先輩が多いゼミだったので、現役のゼミ生の面倒を見てくれるという、ユニークなプログラムを組んでくださっていました。経済学部長や副学長を務められた現在経済学部教授の青木幸弘先生も、当時一橋大学大学院で学びながら我々ゼミ生の指導もしてくださっていて、「田島ファミリー」とも言うべき温かいコミュニティの中で育てていただきました。

大学4年生の秋、京都へのゼミ旅行。お酒の神様を祀った「松尾大社」にて。中央が田島先生、後列左から5番目が伊藤順朗氏

田島先生は優れた学者でありながら、雑誌の編集長のご経験をお持ちで、自ら「財団法人 流通経済研究所」も設立され、また食品・酒類メーカーのコンサルティングをされるなど実務にも長けた方でした。当時から「小さな算盤を弾くんじゃない」と、目先の損得よりももっと大きな視点で経済や流通を俯瞰するよう教わりました。また国税庁中央酒類審議会会長を務めていたせいかどうかはわかりませんが、お酒、特に日本酒が好きな方でしたね。ゼミのあとはよく先輩たちに連れられて目白界隈の居酒屋で浴びるほど飲んだ記憶があります(笑)

学問の本質は「問い続けること」。知識は陳腐化するが、「問う」姿勢や思考は永遠である。
学生生活で学んだことの中で、今でも役に立っていると感じるのはどういったことでしょうか?

当時、まだ日本でほとんど考慮されることのなかったROI(「Return On Investment」の略。日本語では「投資利益率」とも呼ばれ、投資に対する利益の割合を示す指標となる)という考え方をいち早く教えてくださったのが田島先生で、今でも私どもの会社の健全な財務体質の礎になっています。

また、先生や先輩方から経済に関する数々の名著を教わり、たくさんの読書機会に恵まれたことも役立っています。アルビン・トフラーの著書『第三の波』(1980年出版)は、情報革命がもたらす社会の変化を未来予測した本なのですが、今現実に起こっている現象をいくつも当てていて、その洞察力には驚かされます。

インターゼミという仕組みの中で、討論会などを通じて他大学の学生と交流を深められたことも良い思い出です。そこで知り合った慶應大学の学生と、社会に出てから仕事で繋がるというご縁もありました。知識だけでなく人脈、さらにはその後の人生観さえも、田島ゼミで教えていただいたと思っています。

田島ゼミで形成されたという人生観について、もう少し具体的にお話いただけますでしょうか?

先生や先輩方から学んだのは、「学問の本質は、問うことを学ぶ」ということ。「知識は陳腐化するけれども、問うことを学ぶ姿勢やそのための思考は永遠で、それこそが学問である」という考え方です。田島ゼミは、共に学ぶ仲間の存在、また学ぶことの喜びを私に与えてくれた最高の環境であり、以後常に「問うことを学ぶ」大切さを心に刻むようになりました。

また学問とは少し離れますが、先生から「頼んだ人の気持ちだけでなく、頼まれた人の気持ちも考えなさい」と教わったことも大変印象的でした。商売相手の立場に立って考える意識を持てたのは、今思えば大変ありがたい教えだったと思っています。

マンモス校にはない親近感と鷹揚な校風こそ、学習院大学の魅力。
学習院大学経済学部の良いところ、強みなどについて教えてください。

いわゆるマンモス校ではないのが、良いところだと思っています。田島ゼミも私の代は12名という少人数制でしたし、卒業後も田島ゼミOB会の「博遊会」や「オール学習院」、「経済学部同窓会」など、みんなで集まり交流する機会がたくさんあります。現在の学習院大学でも、少人数だからこそ先生と話しやすい仕組みをつくったり、就職の面倒見が良く、面接対策などにも力を入れたりしていると聞いています。横だけでなく縦の繋がりも大切にしていて、クラブ活動を通じて大学生が中等科・高等科の生徒たちと交流することもあります。

 こうした文化が脈々と受け継がれているからか、親切で、人柄のいい人間が多い気がします。なんでも競争するのではなく、鷹揚(目先のことにこだわらず、おっとりとして上品なさま)な校風を強みとすることで、社会で活躍している方はたくさんいらっしゃると思います。

現在の学生、または経済学部志望者の方へ、学生のうちに学んでおくべきことをアドバイスいただけますでしょうか?

先ほども申しましたが、「学問の本質=問うことを学ぶ」姿勢を大切にしてください。私がクレアモントの大学院で学んでいた際に、ピーター・ドラッカー先生も同じことをおっしゃっていたのですが、多くの場合、問題か何かわからないことが課題・問題なのであって、それを見極められたら答えは自ずと明らかになるはずです。

また、論語に「徳有隣」という言葉があります。これは「徳のある者は孤立することはなく、必ず理解し協力してくれる隣人が現れる」という意味なのですが、ぜひ大学ではたくさん徳を積んで、人に優しく、友人を大切にして過ごして欲しいと思います。この「徳有隣」と書かれた色紙も田島先生の直筆でいただいたもので、私は今でも書斎の目に入る場所に飾っていて、人生の道標としています。

多忙なスケジュールにもかかわらず、ご出演を快諾してくださった伊藤氏。「鷹揚」と評された学習院大学の校風を自ら体現するような穏やか語り口で、今でも「人との繋がり」を何より大切にされていることが伝わるインタビューだった。

卒業生からのメッセージ一覧に戻る
chevron_right