特色のあるゼミ教育

Introduction of Seminars

菓子パン新商品作りで学ぶ実践マーケティング

学生が製パン会社とのコラボで菓子パンの新商品開発に取り組み、本物のマーケティングを学んでいく。コンセプトが採用されれば、実際に商品として店頭に並ぶ。(経営学科 青木 幸弘ゼミ)

1978年に学習院大学経済学部経営学科卒業。1983年に一橋大学大学院商学研究科博士後期課程を修了し、同大学商学部助手、関西学院大学商学部助教授などを経て、1995年から学習院大学経済学部経営学科教授。専門はマーケティング論。特に、消費者行動分析とブランド戦略。

青木幸弘教授のゼミは、菓子パンの新商品開発に挑戦している。2012年4月から、ゼミでは二つのグループに分かれて商品開発コンセプトの検討を進めてきた。

ゼミと企業のコラボで新しい菓子パンを開発

第1グループは商品パッケージや原料にこだわった魅力的な商品提案を目指し、第2グループは菓子パンとスイーツの狭間を狙った商品提案を行う。

7月12日には、「Pasco」のブランドで知られる敷島製パンの担当者二人がゼミに参加。その前で学生たちが新商品のコンセプトを発表した。

第1グループのプレゼンターである3年生の平塚悠二さんと加納尊徳さんは、「まず米粉を使って人気の『もちもちした食感』を出します。さらに低カロリーに仕上げますが、複数の味を組み合わせることによって満足感を得られるようにします」と発表。

第2グループのプレゼンターの同じく3年生の安蒜美帆さんと徳吉哲秀さんは、「ターゲットは若い女性で、疲れたときの癒やしや自分へのご褒ほう美び にしてもらいたい。以前流行した商品を統合・改良し、あえて高価格にすることによって、ただ安ければいいという価格競争から脱却します」と発表した。

青木ゼミが提案したコンセプトは、2022年7月に商品化された。
激しい競争が起きている市場で学ぶマーケティング

敷島製パンが1年間に発売する新商品の数は、実に約500にも上る。しかし発売されてから3カ月後にも店頭に並んでいる、つまりある程度売れ続けている新商品は、約3割に過ぎないということになる。そこにはメーカー同士の熾烈な競争があるのだ。

青木教授の研究テーマはマーケティング理論だ。マーケティングとは、簡単に言えば「売れる仕組みを作ること」。商品を開発し、価格を設定し、広告宣伝や販売促進を計画し、店頭まで商品をどのように流通させるのか、そして消費者の手にどのように届けるのかといった一連の活動を通じて、売れる仕組みを作っていく。

青木教授は、マーケティング理論のなかでも、特に消費者行動の調査、分析を通して、企業のマーケティング活動や、ブランド戦略がどうあるべきなのかを研究している。

これまでも青木教授は、敷島製パンのブランド戦略に協力してきた。そうした縁があり、青木ゼミと敷島製パンの菓子パン開発コラボレーションが実現したわけだ。学習院大学との商品開発をコラボする意義を、マーケティング部製品企画グループチーフの飯田理恵さんは次のように語る。

「私たちが日ごろ行っているマーケティング活動とは違う知見を、学生さんから得られることを期待しています。パンの場合、例えば購入するのは主婦層だけれども、実際に食べるのはその子どたちであることがよくあります。子どもたちのニーズを直接知るのは難しいのですが、学生さんなら『買う側』ではなく『食べる側』の感覚をお持ちだと思ったのです」

敷島製パンと青木ゼミの新商品開発コラボは、2009年度にも行われた。そして2010年春に「ライスカレーパン」と「とろけるショコラ」という2種類の菓子パンを発売した。しかし残念なことに発売から3カ月ほどで販売終了となった。

「今年の取り組みは、前回のリベンジですね」と青木教授は笑いつつ、「周到に準備して商品開発に臨みたい。よくありがちな『学生が考えました』というようなレベルで終わりたくありません」と言う。

敷島製パンへのプレゼンの準備として、まずは販売中の菓子パンの調査をする。スーパーやコンビニエンスストアで買い集め、中身だけでなくパッケージについても議論する

マーケティングを体感する菓子パン開発
多数の菓子パンを並べアイデアを出し尽くす

学生たちには2012年4月から、業界研究、店頭調査、アンケート、発売中の商品の調査などを通じて、商品開発の基礎を学んできた。6月のゼミでは、各グループメンバーがそれぞれのテーマに即して購入してきた菓子パンやスイーツを持ち寄り、試食しながら検討していった。意見を出し尽くし、それを集約していくことでコンセプトをまとめ上げていく作業である。

アンケート調査や食のトレンドを踏まえ、最適な食感、味、量、カロリーはもちろん、パッケージの親しみやすさを議論。さらに「いつ、誰が、どこで食べるのか」も検討し、パンのコンセプトを固めていった。 そして7月12日に中間報告という形で、これまでの成果を発表したわけだ。

学生たちは自分たちのコンセプトの課題についても言及した。第1グループは、どういった味を組み合わせればよいか、それをパッケージにどう表現するかが課題だという。第2グループは、課題として、菓子パンとスイーツの間にある商品というと、どうしてもコンビニスイーツのイメージが先行してしまい、新鮮味に欠けることを挙げた。

第2グループは新聞記事の調査を活用し、説得力のある発表資料を作成した。プレゼンターは安蒜美帆さん(左)と徳吉哲秀さん(右)

現場からのアドバイスでほかでは得られない学び

企業とのこうしたコラボのメリットの一つは、商品開発の第一線で活躍するビジネスパーソンから、具体的なアドバイスを得られることである。それぞれのグループの発表に対して、敷島製パンの担当者もいくつかのアドバイスを与えた。

同じマーケティング部製品企画グループの長谷川敦さんは「『低カロリー』は必ず上がってくる課題だが、低カロリーにしたからといってその商品がヒットするとは限らない。また人によってどこからが低カロリーなのか、基準が違うのも意識しなければならない」とアドバイスした。

また飯田さんは「コンビニスイーツと菓子パンの違いを具体的にした方がいい。例えば菓子パンは常温商品なのに対し、コンビニスイーツは冷蔵食品で生クリームが使える」と意見を述べた。

学生にとっては、菓子パンという身近な商品を通して、その商品がどのような過程を通して開発されていくのかを学びながら、社会に出てさまざまな会議や検討会などに臨む際の訓練にもなっている。

学生による最終報告は2012年冬に予定されている。そこで出たコンセプトが敷島製パン社内の正式な会議にかけられ、製品として採用されることが決まれば、その後、全国のスーパーやコンビニエンスストアで発売される予定だ。

青木教授は企業とのコラボの教育面での意義をこう語る。

「学生の提案が採用されないことも十分にあり得ます。採用されるのがベストですが、提案に至るプロセスのすべてに学びがあるはず。学生には一つでも多くのことを学び取ってほしいですね」

果たして提案は採用されて商品は店頭に並ぶのか。今から楽しみだ。

第1グループのプレゼンターを務めた平塚悠二さん(左)と加納尊徳さん(右)は、カラフルな発表資料を作成してわかりやすいプレゼンに努めた
「学生は、自分で買ったパンだけでなく、家族が買ってきたパンを食べることも多いはず。小売店の売上情報からは得られない声が聞ける機会になります」と語る敷島製パンの飯田理恵さん(左)と長谷川敦さん(右)
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