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日本経済史(近現代)
社会経済史学会 経営史学会
日本経済史の授業は、19世紀後半から1970年代までの日本経済の歴史を取り上げます。できるだけ図表、映像などを交えながら、「歴史的に思考する方法」を身につけてもらうことを目ざします。高校までの歴史とは異なり、細かなことを覚えるよりも、歴史の複雑な因果関係を理解することが目標です。
演習では、学生どうしでディスカッションをしたり、フィールドワークをしたり、資料収集、プレゼンテーションの手法を磨きながら、現代の日本のさまざまな社会問題・経済問題を取り上げ、歴史的に理解し、考えることを目ざします。
私は、近現代日本の経済史を専門としています。
経済史は、歴史学と経済学の間にあり、実際の歴史の経済的な側面を解明したり、歴史の流れを経済学のツールを使って解釈したりすることで、時代を超えた長期的な視点、社会全体を包括するような大きな視点から、人類のさまざまな営みについて理解することを目ざしています。
経済史研究の具体的なテーマはとても多様で、私も大学院生の時以来、さまざまなテーマを取り扱ってきましたが、最近は特に、戦争と経済の関わりについて、歴史的な関心を持っています。具体的には、日中戦争・太平洋戦争期から戦後GHQ占領、サンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約の下で復興に動き始めた頃までの日本経済の動きです。この時期の資料は、捨てられたり、焼かれてしまったりしたものも少なくありませんが、残された興味深いものが数多くあり、まだ十分に分析されたとはいいがたい状況です。このため、意外と多くの新たな発見があります。
私が特に関心があるのは、企業の中でのひとびとの日々の営みや研究開発活動などの動きです。この時期、資源の輸入が困難になり、政府による厳しい統制が行われるなど、企業による自由な経済活動は厳しく制約を受けました。その中でも、企業は、戦争に協力する意思を示しながら、将来を見据えた研究開発に取り組んだりしました。戦争遂行のために作られた政府による政策支援などをうまく活用しながら資金を集め、軍需品生産のための新たな工場を建設、それを戦後に民需転換して、企業成長の基盤としたような、したたかな生き方をした企業家もいます。戦争は、多くのひとびとのいのちを奪い、とてつもない苦しみをもたらすだけでなく、自由な創意工夫によって新たな知識を獲得し、より豊かな世界を目ざそうとする経済活動をも抑圧しようとします。しかし、そんな中でも、人間の創造を目ざす活動は、決して絶えることなく、強い想いを抱えたひとびとによって、ひっそりと営まれるのです。もう一つ、最近、興味を持っているのが、企業活動にともなう有害物質の排出や環境破壊に対して、強力に抗ったひとびとの活動や、そのような「公害」企業の中で、企業の方針に異を唱えたり、環境破壊をなんとか抑制しようとして懸命に研究開発に取り組んだりしたひとびとのことです。とんでもなく理不尽な目に遭いながら、家族や友人を巻き込んでしまい、激しい後悔や罪の意識に苛まれながら、齢を重ね、志半ばにして斃れた方々もいます。壮絶な人生だったと思います。歴史を研究することの醍醐味は、このような、ひとびとの偉大な営みに深く感動したり、あるいは、どんな時代にもある、ひとびとのとても短絡的で、愚かしい行為にいとおしさを感じたりすることにあると思っています。
研究以外では、音楽活動をしています。クラシック・ピアノ演奏、地元の小学生・中学生たちとの楽しくバンド活動などやっています。
みなさんが社会に出て、企業や組織に属するようになったとき、ただひたすら組織内のマニュアルやルールを覚え、組織の論理に従うことを求められることがあると思います。だいたいの場合は、組織に従うという行為に問題はないでしょう。しかし、時として、組織の論理に従った行動が社会的な害悪をもたらす場合もあり得ます。そのときは、なんとかして組織の論理に従わないで、生き抜く方法を見つけ出してください。
大学では、何も考えずに企業や組織に従う生き方ではなく、人類や社会にとって何が有益なのかという基準で、徹底的に考える習慣を身につけてください。