持ち前の行動力と学習意欲の高さで、自身の未来を切り拓いてきた陳さん。「新しいことにチャレンジするのが好きだ」という彼の学生時代と、現在のキャリアについてお話をうかがった。
高校生の頃から、漠然と「このまま中国で大学に入って、就職して、結婚して……」というライフプランを送ることに少し違和感がありました。当時、日本のアニメにのめり込んでいたのもあり、せっかくなら新しいことにチャレンジしようと思い、まずは日本語学校に入学しました。
通っていた学校には日本の大学の資料が置いてあり、初めて学習院大学のパンフレットを見た時に「雰囲気が良いな」と思いました。実際にキャンパスを訪れた際も、とても良い環境だと感じましたし、興味をもった教授がいらっしゃったこともあり、受験することに決めました。
学部でも大学院でも河合亜矢子先生のゼミに入っていました。主にプログラミングやDX、3Dプリンタのモデリングといった新しいテクノロジーについて教わったのですが、個人的に興味がある分野だったので、とても楽しく学ぶことができました。
学部時代に印象的だったのは、「イノベーションチームdot」という斉藤徹先生の自主ゼミに参加し、起業支援活動を行ったことです。本当に多くのことを学ばせてもらったと感謝しています。大学院に上がってからは、「プラットフォームのネットワーク効果」をテーマに研究していました。
やはり教授のみなさんが素晴らしく、授業が面白いところですね。また、二年生の後半から入ることができるゼミにもいろいろな方向性があります。私も最初はやりたいことが曖昧でしたが、多彩なゼミの中から何かしらやりたいことが見つかるのではないでしょうか。ほかにも、出身大学を聞かれた時に「学習院大学です」と答えると「すごいですね」と言ってもらえることも多く、誇りに思っています。
日本に留学するという夢を叶えた陳さん。学部から大学院まで、学習院で学んだ6年間は、現在の仕事にどのように生かされているのだろうか?
エムアンドシーシステムというグループ会社に配属になりました。現在は、社内の開発部門が効率的に働けるようなシステムの企画をしています。例えば、最近はAIが自動でコードを書いてくれるサービスもありますが、それを導入するかどうか検討するのが私の仕事です。仮に導入したとしても、すぐに丸井グループ全体に影響があるわけではないのですが、開発部門の働き方が変わることで、結果的にグループ全体の効率も良くなっていきます。
丸井グループでは公募制のプロジェクトや研修は、自ら手を挙げて参加するようになっています。ITは自分の得意分野ではあるのですが、「一生システム畑で食っていくぞ」というわけでもないので、そういう意味では丸井グループの「手挙げ」の制度はありがたいです。また、丸井グループでは本業以外のチャレンジの場として「イニシアティブ」という兼任という働き方があります。「イニシアティブ」は手挙げによって組織されるグループ・部門横断型のプロジェクト型のチームで、本業と並行して社内副業的に活動をします。新規事業創出のためのイニシアティブの役割は、「丸井グループの強みとリソースを最大限に生かす事業を企画する」ことです。私は興味をもっていた「社内起業家コミュニティ検討」のイニシアティブに「手挙げ」し、小論文での選抜を経て、参加メンバーになりました。現在私は、本業のシステム企画に約70パーセント、「社内起業家コミュニティ検討」のイニシアティブに約30パーセントという時間配分で働いています。
イニシアティブに参加したのは、学部時代に「イノベーションチームdot」での経験があったからこそかもしれません。当時の活動はとても刺激的で、これをきっかけに起業に興味を持ちました。だからこそ、今回の募集がかかった時はすぐに手を挙げて、熱意と経験を伝えました。
河合先生は先進的な考えをお持ちだったので、自然と新しいテクノロジーに対する興味を持つようになりました。そういうところは、仕事で新しいIT技術について調べる時に間接的につながっている気がします。
また、「私はこういうことに興味があるんだ」と自己認識できたのも大きかったと思います。学生時代は社会福祉研究会というサークルで、障害のある子と遊んだり、児童養護施設の子に勉強を教えたりしていましたが、活動を通じてボランティアに興味が生まれて、その意識が地球規模まで大きくなった結果、現在はサステナビリティに興味があります。丸井グループ自体もサステナビリティへの取り組みを進めているので、やはり学生時代の経験は現職とも関係があると思います。
それと同時に、学生と社会人はまるで違うとも思っています。何が求められているのかを自分で考えなければいけないところが一番のギャップですよね。もちろん、マーケティングの授業で学んだ「3C分析」などの知識は今でも使えるのですが、実際の仕事に当てはめてみると全然違うこともあります。
大学に入ると、授業に出席して、試験を受けて、単位を取得して、卒業するという大枠があるじゃないですか。そこに対して一生懸命頑張る人は多いですが、私の経験上では、それだけだと足りないと思います。将来に向けた準備や、自分自身をメタ的に認知することが必要で、やりたいことをもっと明確にして、それについて独自の努力をするべきだったと思っています。社会人になってからでは間に合わないこともありますし、選択肢も狭まってきます。可能性が十分にある学生時代に、自分の内側からエネルギーが湧いてくることに注力したほうが、将来的に悔いなく生きられるのではないでしょうか。
学習院は選択肢がとても多い大学です。例えば、交換留学の制度もあり、留学先も充実しています。もちろん、授業を受けることも大切ですが、それだけで卒業してしまうのは少しもったいないと思います。私も最初はそうでしたが、今になって振り返ると、いろいろなチャンスを逃していたのかもしれません。実は交換留学にも行きたいと考えていたのですが、準備を始めたのが遅かったので、選抜から漏れてしまいました。もっと早くから準備を始めていれば、また違った経験ができたはずです。せっかく豊富な授業、資料、制度、設備がそろっているので、それらを有効活用して、いろいろなチャンスをつかんでほしいと思います。少しでも興味があることに、どんどんチャレンジしてみてください。
日本への留学という一歩を踏み出した陳さんは、その後も「新しいこと」への興味を絶やさず、可能性があるところに主体的に飛び込んできた。社内でも積極に手を挙げていく姿勢は、学習院時代に気づかされた「チャレンジする大切さ」の賜物なのかもしれない。
※ 本取材は2024年12月に実施、プロフィールは掲載時点(2025年4月)のものです。