【研究成果】災い転じて票となす―災害復旧事業が選挙結果に与える影響―
2024.03.19
災い転じて票となす
―災害復旧事業が選挙結果に与える影響―
ポイント
- 過去数十年間の日本の市区町村において、一人当たりの災害復旧事業費がゼロから平均値(7,704円)まで増加した場合、与党得票率は衆議院選挙で2.8%ポイント、参議院選挙で5.4%ポイント、それぞれ増加することがわかりました。
研究の概要
学習院大学法学部の福元健太郎教授とアジア経済研究所の菊田恭輔研究員は、1990年代から2010年代までの日本の市区町村において、災害復旧事業費※1が与党得票率に与える影響を、最大降水量を操作変数※2として用いて識別しました。分析結果では、一人当たりの災害復旧事業費がゼロから平均値(7,704円)まで増加した場合、与党得票率は衆議院選挙で2.8%ポイント、参議院選挙で5.4%ポイント、それぞれ増加しました。さらに分析を進めると、この増加は、棄権者が投票に出向いて与党に入れる「動員」効果ではなく、もともと野党に入れていた人が与党に投票する「説得」効果によることがわかりました。
本研究成果は2024年2月10日に国際学術誌「Political Behavior」のオンライン版に掲載されました。本研究は、科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究16K13340および挑戦的研究(萌芽)19K21683)ならびに日本政治学会からの資金援助を受けています。本発表は、学習院大学グランドデザイン 2039「国際学術誌論文掲載補助事業」より掲載費を助成しています。
発表内容
研究の背景と経緯
有権者は予算の分配を受けると与党に投票しがちであり、このことを知っている与党は選挙目当てに予算を分配すると考えられてきました。こうした内生性※3のため、予算分配が与党得票に与える影響を識別することは難しいことが知られていました。本研究は、災害に着目することで、この問題に対処しようとしました。
研究の内容
過去数十年間の日本の市区町村において、災害復旧事業費が与党得票率に与える影響を、選挙の前年における1時間降水量の最大値を操作変数として用いて識別しました。与党得票率が降雨量に影響を当たることはないため、瞬間的な大雨、それに伴う損失および災害復旧事業が得票率に影響していることを示すことができます。その際、気象庁が保有している、1991年から2017年の間のほぼ全ての時刻について利用可能な解析降雨量のデータを用いました。福元教授らの分析結果では、一人当たりの災害復旧事業費がゼロから平均値(7,704円)まで増加した場合、与党得票率は衆議院選挙で2.8%ポイント、参議院選挙で5.4%ポイント、それぞれ増加しました。さらに分析を進めると、この増加は、棄権者が投票に出向いて与党に入れる「動員」効果ではなく、もともと野党に入れていた人が与党に投票する「説得」効果によることがわかりました。
図 横軸は一人当たりの災害復旧事業費、縦軸は与党得票率、をそれぞれ表します。丸が衆議院選挙、三角が参議院選挙、をそれぞれ表します。95%信頼区間です。一人当たりの災害復旧事業費が増えるほど、与党得票率も増えることがわかります。
今後の展開
災害復旧事業費以外の予算分配が与党得票に与える影響を検討することが待たれます。また災害の外生性を吟味した上で活用する研究が今後求められます。誤解を避けるため敢えて付言すると、被災地には適切な災害復旧事業費が向けられるべきではありますが、災害復旧事業費が与党支持を増やすという事実は、心にとめておく方がよいでしょう。例えば被災地の与党得票率は割り引いて評価しておく必要があると言えます。
用語解説
※1 災害復旧事業費
災害による被害の原状復帰をする事業にかかる投資的経費。
※2 操作変数
説明変数を通してのみ被説明変数に影響し、かつ被説明変数の影響は受けない変数。
※3 内生性
説明変数(ここでは災害復旧事業費)が被説明変数(ここでは(予想される)与党得票率)の影響を受けること。
論文情報
論文名:After a Storm Come Votes: Identifying the Effects of Disaster Relief on Electoral Outcomes
雑誌名:Political Behavior
著者名:Fukumoto Kentaro, Kyosuke Kikuta
DOI:10.1007/s11109-024-09921-1
発表者
福元健太郎 学習院大学法学部・教授
菊田恭輔 アジア経済研究所・研究員