受験生サイト受験生サイト
入試情報入試情報
資料請求資料請求
アクセスアクセス

【研究成果】一対比較を用いる集団意思決定における戦略的操作について:ゲーム理論の観点から

2022.07.12

一対比較を用いる集団意思決定における戦略的操作について:ゲーム理論の観点から
Strategic Manipulation in Group Decisions with Pairwise Comparisons: A Game Theoretical Perspective

【発表者】

佐々木 康朗(学習院大学、経済学部、経営学科・教授)

【本件のポイント】

  • 集団意思決定支援に広く用いられる階層化意思決定法(AHP)における戦略的操作について議論。
  • 戦略的操作とは、集団の構成員が自分に都合の良い結果を導くために虚偽の選好を申告することです。
  • ゲーム理論モデルを用いて、集団AHPの戦略的操作への脆弱性に関するいくつかの理論的性質を明らかにしました。

【概要】

 個人または集団の意思決定支援手法として1970年代にSaaty教授により提案された階層化意思決定法(AHP)が世界中で広く普及しています。集団意思決定支援としてのAHP利用(集団AHP)では、各メンバーが選択肢等に関する一対比較の評価値を提出し、これをもとに何らかの方法で集団としての選好を求め、集団にとって望ましい選択肢を決定します。ここでは、各メンバーが正直に一対比較値を申告することが前提となっていますが、実際の集団意思決定において、このことは必ずしも期待できません。すなわち、特にメンバー間に利害対立がある場合などに、あるメンバーは自身の希望する選択肢を優位にするために、わざとその選択肢が集団としてより選好されるように不正直に一対比較値を申告するかもしれないのです。このような行動を戦略的操作といいます。戦略的操作の問題は社会選択論などの分野においては伝統的に議論されてきましたが、集団AHPなど工学的な意思決定支援手法の適用の文脈ではこれまでほとんど議論されておらず、特に数理的に厳密な研究はありませんでした。
 本研究では、この問題を数理的に扱うためのゲーム理論的なモデルを導入し、集団AHPにおける戦略的操作に関連するいくつかの理論的な性質を明らかにしました。特に重要な結果は次の2点です。一点目は、正直に申告することが支配戦略※になることは事実上ほとんどない、ということです。これは、多くの状況において戦略的操作の問題から逃れることはできないことを示唆しています。二点目は、しばしば満たされるある条件のもとで、正直に申告することは、ある虚偽申告に弱支配※される、ということです。すなわち、この場合は正直申告をするメリットがないことを示唆します。
 これらの結果はいずれも、集団AHPの戦略的操作への脆弱性を示しており、従来議論されてこなかったこうした問題へ注意を向ける必要性を示したものと言えます。戦略的操作については、社会選択論でもある意味で問題を解消することの不可能性定理が知られており、同様に集団AHPにおいても問題を解消することは容易ではないし、おそらく完全に解消することは不可能だと思われます。本研究は理論研究であるので、実践においてどのような戦略行動が観察されるか、そして部分的にでもこれらの問題をどのように緩和することができるかは、将来の研究課題です。
 本研究は、学習院大学グランドデザイン 2039「国際学術誌論文掲載補助事業」より掲載費を助成しています。
(※は用語解説参照)


【用語解説】

支配戦略 ゲーム理論の用語で、他者がどのような選択をした場合でも常に最適となる選択肢のこと。
弱支配 ゲーム理論の用語で、「選択肢Aが選択肢Bに弱支配される」とは、他者がどのような選択をした場合でもBAより常に良い、もしくは同等に望ましい結果を導き、さらに少なくとも一つのケースにおいて、BAより厳密に良い結果を導くこと。

(論文情報)
著者名:Yasuo Sasaki
論文名:Strategic Manipulation in Group Decisions with Pairwise Comparisons: A Game Theoretical Perspective
雑誌名:European Journal of Operational Research
DOI :10.1016/j.ejor.2022.05.015
URL :https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0377221722003885