知識モデルにおけるunawareness表現の不可能性定理に関する新解釈を提示
2026.05.22
リリース
研究成果
知識モデルにおけるunawareness表現の不可能性定理に関する新解釈を提示
ポイント
- 知識モデルにおけるunawareness表現の不可能性定理を批判的に再検討しました。
- 不可能性定理の公理の一部を緩めても同じ結果が成り立つことなどを示しました。
研究の概要
意思決定論では、知識を数学的に表現、分析するためのモデル(知識モデル)に関する研究がなされています。この知識モデルでは、意思決定者がある事柄に気付いていない状況を表現できないことを数学的に示した、「unawareness 表現の不可能性定理」が知られています。
学習院大学経済学部の佐々木康朗教授と富山大学学術研究部社会科学系の多田由彦助教は、この不可能性定理を批判的に再検討し、特にこの定理で仮定される三つの条件(公理)について、本来の意図よりも強い条件を要請している可能性を指摘しました。これをふまえて、この不可能性定理において、三つの公理のうち一つを、より弱い条件に緩めても同じ結果が成立することなどを示しました。これらの結果は、従来の知識モデルでは、ここで指摘した批判を考慮してもなおunawareness表現が不可能であることを示すもので、不可能性定理の内容を補完する結果と言えます。一方で、別の観点から従来の知識モデルの範囲でunawarenessを表現する可能性についても議論しました。
本研究成果は、2026年4月30日に国際学術誌「Theory and Decision」にオンライン掲載されました。
研究の背景
「雨が降ると分かっていれば傘を持って行く」というように、人々の意思決定には、その時点で何を知っているか、または知らないか、が影響します。意思決定論では、数学の集合論をベースに、知識を形式的に取り扱うためのモデルが開発され、これまでに知識と意思決定の関わりについて様々な理論的な分析がなされてきました。これらの成果は、経済学やゲーム理論、情報科学、哲学などの分野に応用されています。
この知識モデルに関する一つの重要な知見が、Dekelらが1998年にEconometrica誌に発表した「unawareness 表現の不可能性定理」です。unawareness(直訳すると「気付いていないこと」ですが、定着した訳語がないため英語のまま表記します)とは、物事を単に知らないだけではなく、自分が知らないことを知らない、そもそも念頭にない、という状況を指します。たとえば、企業は自社が将来起こし得るイノベーションの可能性を全て列挙して、その中から最適なものを選ぶわけではありません。おそらくそれらの可能性の多くには現時点では「気付いていない」でしょう。また日常でも、私たちは何かに「気付いていない」ことはよくあります。このように、身近なunawarenessという認知の状態を知識モデルの枠組みで表現しようと多くの研究者が取り組みましたが、それに否定的な結論を示したのが、上記の不可能性定理です。この定理は、unawarenessが一般に満たすべき三つの条件(数学的には公理と言います)を仮定すると、従来の知識モデルでは、有意味な形でunawarenessを表現することができないことを示したものです。この結果をふまえて、現在ではunawarenessを表現するために拡張された知識モデルが開発されています。
研究の内容
本研究では、従来の知識モデルにもとづくこの不可能性定理に立ち戻り、これを批判的に再検討しました。具体的には、三つの公理のそれぞれについて、その数学的な定式化の妥当性を吟味し、本来の意図よりも強い条件を要請している可能性を指摘しました。
この議論にもとづき、主要な結果として次の二点を示しました。一つ目は、この不可能性定理において、三つの公理のうち一つを、より弱い条件に緩めても同じ結果が成立する、というものです。二つ目は、三つの公理のうち二つを、別のある弱い条件に置き換えても同じ結果が成立する、というものです。いずれも、従来の知識モデルでは、本研究で指摘した批判を考慮してもなおunawareness表現が不可能であることを示すもので、オリジナルの不可能性定理のメッセージを補完する結果と言えます。一方で、論文では別の観点から従来の知識モデルの範囲でunawarenessを表現する可能性についても議論しています。
本研究成果の意義
近年ではunawarenessはゲーム理論にも応用され、従来のゲーム理論では扱われなかった認識の非対称性を伴うより現実的な戦略的意思決定の状況が分析されるようになっています。本研究の議論は、こうした状況における意思決定者の認識の表現についての基礎理論に関するものです。本研究の成果は、この分野の既存研究に対して新解釈を提示し、さらに新たな知見を付加する理論的な貢献を行ったものと言えます。
発表者
佐々木 康朗(学習院大学経済学部 教授)
多田 由彦(富山大学学術研究部社会科学系 助教)
論文情報
論文名:Revisiting introspection axioms for unawareness in standard state-space modelsitorubin, berberrubine-based compounds that improve mitochondrial function, exhibit cardioprotective effects against age-related cardiac dysfunction
雑誌:Theory and Decision
著者名:Yasuo Sasaki and Yoshihiko Tada
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s11238-026-10140-9
DOI:https://doi.org/10.1007/s11238-026-10140-9
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