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【研究成果・プレスリリース】有権者がなぜ特定の個人属性をもつ政治家を好むのかを,ポピュリスト政治家への期待に着目して分析(法学部政治学科三輪洋文教授)

2025.05.30

研究

有権者がなぜ特定の個人属性をもつ政治家を好むのかを,ポピュリスト政治家への期待に着目して分析

1.発表者:

三輪洋文・学習院大学法学部政治学科・教授

2.発表のポイント:

・日本の有権者は,政治家のポピュリスト1傾向を彼らの個人属性に基づいて推測していることを示しました。

・日本の有権者が若い政治家を好むという一般的傾向が,若い政治家に対してポピュリスト的であるという期待を抱いていることによって部分的に説明されることを示しました。

3.発表の概要(サマリー): 

先行研究では,有権者が平均的に特定の個人属性をもつ政治家を好むことが知られていますが,その理由は十分に検討されていませんでした。本研究は,それが有権者のポピュリスト政治家への期待によって説明されるという仮説を立てて,日本の有権者を対象として,サーベイ実験2を組み込んだ2つのオンライン調査を実施しました。1つ目の調査では,日本の有権者が,政治家の個人属性に基づいて彼らのポピュリスト傾向を推測していることを示しました。2つ目の調査では,因果媒介分析3が可能となるように工夫したサーベイ実験を行い,日本の有権者が若い政治家を好むという一般的傾向が,少なくとも部分的に,若い政治家に対してポピュリスト的であるという期待を抱いていることによって説明できることを示しました。

本研究成果は2024726日に国際学術誌「Political Studies」のオンライン版に掲載され、2025年5月19日に同誌73巻2号に掲載されました。

本研究は,JSPS科研費JP19H00584, JP22H00810, JP23K22082の助成を受けたものです。

本発表は、学習院大学国際論文助成事業より掲載費の助成を受けています。

 

4.発表内容:

<研究の背景と経緯>

先行研究では,有権者が特定の個人属性をもつ政治家を好む一般的傾向があることが示されています。例えば,女性である,若い,高学歴である,政治経験が豊富である,世襲でない,といった政治家は,そうでない政治家よりも,所属政党や政策とは無関係に,一般的に好まれる傾向にあることが知られています。しかし,その理由は必ずしも明らかではありません。人々が高学歴で政治経験が豊富な政治家がより有能であると推測するのは自然なことかもしれませんが,性別や年齢,世襲か否かといった属性は,有能さと結びつくとは限りません。

本研究では,有権者が必ずしも有能さと結びつかない特定の個人属性をもつ政治家を支持する理由として,人々のポピュリスト政治家への期待に着目しました。既存の世論調査データを分析すると,日本を含む多くの国で,平均的な傾向として,人々がポピュリスト政治家を好んでいることがわかります。(1) 人々が政治家の個人属性から彼らのポピュリスト傾向を推測し,(2) そこでポピュリスト傾向が強いと認識した政治家を好むようになるのだとすれば,個人属性が有権者の政治家への選好に結びつく理由を説明できます。

<研究の内容>

2021年8月に,調査会社のオンラインパネルに登録している1869歳の日本の有権者を対象とした2つの調査を実施しました。日本の有権者から対象者を無作為抽出した調査でない点に限界がありますが,性別,年齢,学歴,居住地域については,国勢調査の分布に合うように回答者を集めました。仮説を事後的に作ったり,分析方法を恣意的に選択したりということがないことを明確にするために,2つの調査ともに仮説や分析方法の事前登録を行った上で実施しました。

1つ目の調査は,上記(1)を確かめるために,個人属性を無作為に組み合わせた架空の政治家を示し,回答者にその政治家の「既得権益の打破に積極的である」程度(反エリート主義)および「一般の人々の意見を重視している」程度(人民中心主義)を推測してもらうというコンジョイント実験4を実施しました。その結果,回答者は様々な個人属性を手がかりとして,ポピュリズムの構成要素である反エリート主義と人民中心主義の程度を推測していることがわかりました。具体的には,女性,若い,タレント出身,政治経験が浅い,非世襲といった属性をもつ政治家が,ポピュリストであると認識されやすい傾向にありました。この傾向は,所属政党の情報を提示するか否かによって異なりませんでした。

2つ目の調査では,1つ目の調査の結果を踏まえて上記(2)を確かめるために,先行研究で提案された因果媒介分析のためのコンジョイント実験のデザインを採用しました。実際のデザインは複雑なのですが,ここでは政治家の年齢を例として簡略化して説明します(図1)。回答者を2つのグループに無作為に分けて,一方のグループでは,架空の衆院選の候補者の個人属性のみを見せて,その人の衆議院議員としての好ましさを尋ねました。他方のグループでは,個人属性だけでなく,その候補者が「専門家と政治家を中⼼とした政策形成を訴えている」などといった,ポピュリストではなさそうに見える情報を追加で示し,衆議院議員としての好ましさを尋ねました。若い候補者がポピュリストであるという期待によって支持されるのであれば,ポピュリストでないように見える追加情報を示されたグループは,そうでないグループよりも,若い候補者の高齢候補者に対する優位性が低下するはずです。実験の結果はその予想の通りとなり,日本の有権者が若い政治家を好むという一般的傾向が,少なくとも部分的にポピュリスト的であることへの期待に基づくことが示唆されました。しかし,性別などの他の属性については,同じような結果は得られませんでした(図2)。

<今後の展開>

本研究の貢献の一つは,人々の政治家に対する選好を考える際に,どのような政治家を支持するのかという記述的な分析をするだけでなく,なぜその政治家を支持するのかという理由まで考察するという,今後の政治行動論研究の深化の方向を示したことにあります。

技術的な話になるため,ここでは詳しく説明できませんが,本研究では因果媒介分析のためのサーベイ実験デザインに必要な仮定について詳しく議論しています。2つ目の調査に関する上述の説明は大胆に簡略化したものであり,本当に政治家の年齢と人々の政治家への選好をポピュリスト政治家への期待が媒介していると言うためには,厳密に満たされると主張することが難しいものも含む様々な仮定をおく必要があります。実際,学歴など他の個人属性に関しては,仮定の逸脱に由来すると思われる予期せぬ分析結果が得られました。本研究は,その原因を議論することを通じて,同様の実験デザインを用いる研究者へ注意を喚起するとともに,後続研究を促したことにも貢献があると言えます。

5.用語解説:

1 ポピュリスト

近年の政治学では「ポピュリズム」の定義に関して複数の研究潮流がありますが,本研究では「ポピュリズム」を反エリート主義,人民中心主義,二元論的世界観という3つの要素を併せ持つイデオロギーであるとする定義を採用しています。これらの傾向をもつ政治家や政党が「ポピュリスト」ということになります。本研究では,これらの3要素の中でも特に,反エリート主義と人民中心主義に着目した調査と分析を行っています。

2 サーベイ実験

質問文を変えるなどして回答者ごとに異なる情報を与えてアンケートないし世論調査に答えてもらい,異なる情報を与えたグループの間で回答の傾向を比較することで,その情報が調査の回答に与える影響を明らかにする手法です。

3 因果媒介分析

原因Xが結果Yを引き起こすという因果関係があるときに,それが媒介要因Zを経由して(つまり,XZを引き起こし,さらにZYを引き起こすことによって)生じているのか否かを明らかにする分析です。本研究では,Xが政治家の年齢,Yが有権者の政治家に対する選好,Zが有権者が認識する政治家のポピュリスト傾向になります。

4 コンジョイント実験

サーベイ実験の一種で,複数種類の情報(今回の実験の場合は,架空の政治家の性別,年齢,学歴など)を組み合わせて回答者に示し,各情報が回答に与える効果を推定します。

 

6.添付資料:

2024-miwa-1.png

1 2つ目の調査で実施したサーベイ実験で想定される因果関係。本研究では,年齢などの個人属性(Information on personal attributes)は,ポピュリスト傾向の認識(Perceived populist attitudes)を通じて,候補者に対する選好(Preference for candidates)を形成するという仮説を立てましたが,ポピュリスト傾向の認識とは無関係な経路で候補者に対する選好に影響することも考えられます。図の下の経路が前者,上の経路が後者を表します。「専門家と政治家を中⼼とした政策形成を訴えている」のような特記事項(Special notes)を追加で与えられると,回答者の多くはその候補者をポピュリストだと認識しなくなります。つまり,下の経路が閉じられ,個人属性が候補者に対する選好に影響するとしたら上の経路のみによるものとなります。特記事項を与えたグループと与えなかったグループの回答を比較することで,下の経路がどの程度働いているのかが明らかになります。

 

2024-miwa-2.png

2 2つ目の調査で実施したサーベイ実験の分析結果(一部)。まず左のパネルの年齢に関する結果を説明します。AMCEは,特記事項を付記しなかったグループでの34歳と70歳の候補者の衆議院議員としての好ましさの差を示しており,34歳の方が0.41点優位でした。この差は,図1における上の経路と下の経路を合わせた年齢の効果であると言えます。それに対して,ACDEは,特記事項を付記したグループでの差で,0.23点と縮まっています。これは図1の上の経路のみによる効果です。EEAMCEACDEの差,つまり図1の下の経路による効果を示しており,0.17点と推定されました。つまり,候補者の好ましさに年齢が与える効果の41% (=0.17/0.41)は,人々が年齢からポピュリスト傾向の認識を形成することによるものだと解釈できます。右のパネルは世襲か否かに関する分析結果を示していますが,EEがほぼ0であることからわかるように,年齢の場合と同じ結論は得られませんでした。