「小さくともきらりと光るミュージアム」を目指して―霞会館記念学習院ミュージアム―
2025.07.04
社会・地域貢献 教職員
2025年3月、「学習院の歴史と知の集積を未来に伝えるミュージアム」をコンセプトとした霞会館記念学習院ミュージアムがリニューアルオープンしました。今回リニューアルオープンに携わった学芸員の長佐古美奈子さんにオープンの経緯やミュージアム概要、ミュージアムのこれからの展望などを伺いました。

長佐古 美奈子 さん
まずは、リニューアルオープンの経緯や背景について教えてください。
この度リニューアルオープンした霞会館記念学習院ミュージアムは大学史料館がその基となっています。大学史料館は1975(昭和50)年に大学付置研究施設として開設され、学習院や学習院の来歴に基づき、学習院関係の史資料や皇室・皇族・華族に関する史資料などを収集保管・調査研究・展示公開してきました。1985(昭和60)年には博物館相当施設に認定され、学芸員資格取得事務も兼務しています。
史料館の収蔵史料はこの50年で25万点にのぼり、収蔵庫も展示室もとても狭い状況でしたが、この度、大学図書館の移転と新設に伴い、旧大学図書館の建物を再活用する方針で新たに整備することが決まりました。

大学図書館は、1963(昭和38)年にモダニズム建築の巨匠、前川國男により設計・建築された建物で、その外観を建築当初のものに復元し、内部は博物館機能を備えた建物に改修しています。

博物館相当施設である当館の改修にあたっては、史料が適切な環境で収蔵され、長く保全できるような環境が必要となります。幸いにも一般社団法人霞会館からのご助成もいただき、重要文化財も展示できるスペックの施設に生まれ変わりました。現段階で「大学博物館において、日本一の展示ケース」とも言われているようです。また学芸員課程履修の学生たちが使用する畳敷きの実習室や模擬展示のできる展示ケースも備え、学生たちの学びの環境としてもとても充実した施設になりました。


霞会館記念学習院ミュージアムはどのような特徴がありますか。
コンセプトは「学習院の歴史と知の集積を未来に伝えるミュージアム」です。霞会館記念学習院ミュージアムは、霞会館からのご寄付や、学習院の卒業生の方々のご協力をいただきながら、学習院関係の史資料や皇室・皇族・華族に関する史資料などを収集保管・調査研究・展示公開し、学習院の歴史と知の集積をご覧いただける博物館です。


実は私どもは購入予算が一切ないため、学習院コレクションに相応しいものが古書店や美術商にあっても購入できません。史資料はすべて卒業生や旧華族などをはじめとする学習院関係者から寄贈いただいたものであり、皆様のご厚意によってミュージアムは成り立っています。
常設展示にはどのようなものが展示されていますか。
常設展示のコンセプトは「学習院の豊かな学び」です。1877(明治10 )年に華族子弟のための学校として開校した学習院は「日本ではじめて」と言われる教育やそれに関わるものが数多くあります。制服やランドセルも日本ではじめてですが、馬術教育や東洋史、そして恐らく実物教授※ も初めてです。
※実物教授:具体的な実物やものごとの現象を生徒に直接示したり、触れることによって理解や体験を得られるような指導を行うこと。

今回改修にあたり重要文化財などを展示できるスペックにするために、トラックヤードや機械室の面積がどんどん大きくなり、常設展示室の面積がかなりコンパクトになってしまったのは残念でした。そのため、制服はミニチュアで展示していますが、幸いなことにとてもかわいらしいと興味を持っていただいています。また二次元コードを活用し、詳しい説明を提供するなどの工夫もしています。

ミュージアムのリニューアルオープンにあたり苦労した点、新しく取り組んだ点や工夫した点はどのようなことでしょうか。
もともと図書館として建てられた建物ですので、博物館にするにはかなり困難がありました。通路が狭くて大きな史料が運べない、トラックヤードにトラックが入らない、天井が低く掛け軸をかけられないなど、本当に多くの制約があり、苦労しました。
新しく取り組んだのはユニバーサルデザインです。車いすの方でも見やすい展示ケースの高さにしました。実際に車いすの学生が利用した際には、「こんなに見やすい展示室は初めてです」という感想をいただき、工夫してよかったと感じました。展示ケースにもこだわり、反射や映り込みがしないガラスを使用しています。

3月14日 (金) ~ 5月17日 (土)に実施したリニューアルオープン記念展 学習院コレクション「華族文化 美の玉手箱-芸術と伝統文化のパトロネージュ」は大盛況でしたね。担当者として振り返ってみていかがですか。
来場者は15,719名と多くの方にご来場いただきました。リニューアルオープン記念展では、皇室や華族家の方が「実際に使ったもの」「大事にしていたもの」という来歴にこだわりました。展示品の中でもボンボニエールが特に人気を集めていました。

来場者からは、「このミュージアムでしか出合えないものがある」や「このような素晴らしい展示を無料で見ることができるとは信じられない」などと皆様に喜んでいただくことができたことは担当者冥利に尽きます。



高校生の来場者から「とても素晴らしい展示だったので、高校のクラブの仲間20人くらいで来たいのですが、予約は必要ですか?」と言われたのが印象に残っています。若い世代に興味を持っていただいたのはとても嬉しかったですね。
また、単眼鏡を使用している来場者がとても多かったのは個人的に非常にワクワクしました。単眼鏡は絵画や工芸の細部に宿る美しさを拡大して鑑賞するために使用します。単眼鏡を使用する人が多いミュージアムは素晴らしい展示品の多い、質の高いミュージアムを意味します。このミュージアムが高く評価されたことを感じた瞬間でした。

6月23日(月) ~8月2日(土)にはリニューアルオープン記念展Ⅱ 学習院コレクション「芸術と伝統文化のパトロネージュⅡ まだまだ開く玉手箱」が開催されます。見どころを教えてください。
今回の展示は、常設展示とも関連するのですが、学習院の豊かな教育に使われた標本を展示します。標本といっても美術館に美術品として並ぶような逸品です。「これが教材?」と驚かれるかもしれません。皇族家(高松宮家、山階宮家)で使われた教材や人間国宝が製作に関わった教材(縄文土器)なども展示しています。ぜひ展示を通して学習院の豊かな教育の一端に触れていただきたいと思っています。夏季オープンキャンパス参加者もお越しいただけるよう8月2日(土)まで開催しています。ぜひ多くの高校生や保護者の方にもミュージアムに来ていただきたいです。
霞会館記念学習院ミュージアムのこれからの展望を教えてください。
実は学習院で学芸員資格を取得した学芸員が日本全国の博物館に勤務しており、学芸員に占める学習院卒の割合は非常に高いのです。その卒業生がいる博物館と連携することや、大学博物館の枠を超えた展覧会を開催していきたいですね。また広く一般の方だけでなく、在学生や卒業生、これから学習院を目指す方にも親しまれる「小さくともきらりと光るミュージアム」にしていきたいと思っています。

最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。
常設展示室では、いつでも豊かな学習院の歴史に触れることができます。年3回予定の特別展では、華族や皇族文化、学習院に関する展示など、他では見られない展覧会を開催予定ですので何度も足を運んでいただきたいですね。学習院大学は敷居が高いと思われがちですが、気軽にミュージアムに来て、素敵なキャンパスを体感してほしいです。


学習院の歴史に触れる機会が少ない在学生は、これから暑くなる時期には涼みに行くような気軽な気持ちで常設展示室に足を運び、学習院の歴史に触れてみてはいかがでしょうか。きっと「小さくともきらりと光るミュージアム」で新たな発見に出合えることでしょう。
