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専門家に聞きました「新型コロナワクチン座談会」

2021.10.18

学生生活

※この座談会は2021年10月7日に行いました。情報はその当時のものですが、一部10月16日発表までの情報に言及しています。

出席者:堀成美さん(東京都看護協会 危機管理室アドバイザー、国立国際医療研究センター国際診療部客員研究員)、学生(国際社会科学部1年生)、広報課職員、ライター

学生
私は卒業要件に「海外研修(留学)」があるので「接種しない」という選択肢はありませんでした。でもまわりの友達には「長期的な安全性」に疑問をもっている人がいます。実際のところ、どうなのでしょう?

堀成美さん(以下 堀さん)
とても"正しい"質問ですね!何かを判断するときに、短期的、中期的、長期的な影響のそれぞれを考えるのはすごく大事です。今回のワクチンは新しいため「長期的な安全性」はまだデータがないんです。そういうときにどうするかというと「代理指標」と言いますが、「詳しい人はうっているかどうか」を見るといいんです。今回のワクチンに限らず、私も含め、開発や医薬品の専門家ではない人には「それがヤバイかどうか」はわからないのは当たり前なのです。それが普通です。なので、すごく詳しい先生方がどうしているのかを見ます。去年の冬くらいまでは慎重そうな人もいましたけれど、今は医療関係者はこぞってうっていますよね。接種率が95%以上のところも多いです。日本人の副反応データもそこで集めて分析ができました。

起こりそうなことを心配しよう

堀さん
日本は、薬やワクチンなどにはいつもとても慎重で、まず外国での様子を見てから決めます。その前にもネズミで実験して、サルで実験して、少数の人で試してみて......と手順を踏みます。この段階で「何が起こりそうか」というのは大体わかってくる。なので、起こりそうなことを検討する。例えば、10年後や20年後にワクチンのせいで「目玉が落ちる」などはまず起こりそうにない。

学生
なさそうですね、たしかに(笑)。

堀さん
うったあと痛い・腫れる・熱が出るのは想定の範囲。ワクチンに対して不安を煽ってくる人たちは「長期的な安全性は確認されていない」といいますが、じゃあどういうことが起こりそうなのかというと具体的ではない。逆に「ワクチンをうった次の日に熱が出たらどうしよう」というのは具体的に十分起こりそうなので、不安になる。でも同時に何をしておけばいいかの対策もわかります。

──接種をためらう理由に、接種や副反応で授業に出られなくなってしまうというコメントがありましたので、学習院大学での取り扱いについて学生センター教務課に確認したところ、「学習院大学では、新型コロナウイスルワクチン接種にあたり、ワクチン接種や接種後の副反応を理由に授業の欠席を希望する場合は、欠席扱いや成績評価などについて学生の不利益となる取り扱いは行わず、さらに可能な範囲で配慮するよう全教員に通達しています。 また、学生に向けても教務課より9月16日に、Gportで全学生に向けてワクチン接種や副反応を理由とした欠席をする場合は、教員に相談するよう配信しています。万一、ワクチン接種や副反応を理由とした欠席を担当教員に相談した際に、不利益を被ったという場合には教務課にご連絡ください。
期末試験においても、扱いは通常の追試験と同様ですが、ワクチン接種や副反応を理由とした欠席については追試験の理由として認めることとしています。」
と回答がありました。

──ワクチンで不妊になるというのがありましたが。

堀さん
不妊はワクチンデマの"定番"なんです(笑)。今回のワクチンは世界中でもうたくさんの人がうって、妊娠に気づかずうった人、妊娠しているからこそコロナになりたくなくて積極的にうった人もいます。接種したあとに妊娠した人もたくさんいます。妊婦さんがワクチンをうっても、影響はないことがデータで示されています。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/column/0007.html
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0086.html
デマとは少し違いますが「アレルギーがあるからうてない」って誤解も多いですね。ワクチンに使っている成分(PEG)へのアレルギーだけで、ほとんどの人はうてないってことはないんです。花粉症とか動物アレルギーで諦めて、チャンスを逃してしまった人は本当にお気の毒です。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0024.html

情報とのつきあい方にも注意が必要

学生
情報が古いままで止まっている人もいると思います。

堀さん
新型コロナに関しては不安を煽るような情報がいっぱい流れました。私の母もそうだったんですが、不愉快になるようなネガティブな情報ばかりだと、もう見たくなくなってしまうんです。そうすると情報の更新ができなくなってしまう。一方で、不安な人は不安な情報を探してしまう、というのもあります。これはもう、あなたも私も人間というのは誰しもそうなってしまうものなんだ、ということです。確証バイアス正常性バイアス同調性バイアスや、自分の考えについて反論や否定をされるとかえってその考えを強固にしてしまうバックファイア効果といった心理的な働きがあります。
さらにSNSはエコーチェンバーやフィルターバブルなどによって、一方の意見が増幅されてしまいます。同じ意見の人ばかりがいつのまにか集まってしまって「いいね!」をしあうので "みんなが言っている"ように見えてしまう。本当はもう一方の違う情報も探さないといけない。そうしないと"みんな"で一緒に沈んでいくことになりかねないんです。
総務省 令和元年版 情報通信白書より「インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの」

自治体の接種会場があるうちに

──アンケート回答に「様子をみたい」という声がありました。

堀さん
これはぜひ言っておかなきゃと思っているのですが、新型コロナのワクチン接種はそろそろ終わりになってしまう可能性があるんです。今(2021年10月上旬)は誰でも無料でうてるし、接種してくれる場所もいっぱいあります。でも、今後はどうなるかわからない。自治体の集団接種会場は終了日を決めたところもあります。うちたいのに1回しかうてない人も出てきます。
「接種会場 終了」のgoogle検索結果

避けられる面倒は避けよう

堀さん
何かを決めるときには「しないことで失うメリットは何か」も考えた方が良いと思います。留学したい、海外旅行に行きたいというときに、ワクチンを2回うってないと入学や入国を認めてもらえなかったりします。検査の陰性証明でよいところもありますが、その度に受けなくてはならない。72時間以内、48時間以内などルールもさまざまで変わったりもする。避けられるはずの面倒は、やっぱり避けたいですよね。ワクチンって、面倒くさがり屋さんに一番向いている対策なんです。うち終われば防御レベルを上げてくれますから。
アメリカは11月8日から入国にワクチン接種を義務化 ホワイトハウスのムノーズ副報道官ツイッターより

接種しても意味がない?

学生
ワクチンをうっても感染するブレークスルー感染があるから、意味がないという人もいます。

堀さん
メディアが新しいネタであるかのように誤解をして煽っているだけですよ(笑)。医療現場はブレークスルー感染のことは心配していません。どの感染症のワクチンにもブレークスルー感染はあるんです。「ブレークスルー感染がありました!」と言われても医療者からすると「だから何?」「ふつうあるよね?」なんです。大事なのは、ブレークスルーしたとしても、軽症ですむことです。重症化する人はほとんどいない。ほかの人にうつりにくくなる。調査しても周囲には広がっていません。ブレークスルー感染があるからうたないというのは「がんばっても100点は取れっこないから、もう勉強しない」って言うのと同じです。極端ですよね。極論は何かを失います。

──また別な変異株が出てワクチンが効かなくなるという声もあります。

堀さん
変異株は、ウイルスが広がるときに生じるんです。広がらなければ、出てこない。感染する人が少なければ、変異株は出てきにくいんです。

「急ごしらえ」ではない

学生
急ごしらえのワクチンだから不安だというのもあります。

堀さん
それも誤解ですね。「ワクチンをつくる」には開発と製造の2つがあります。開発については、30年も前から研究していました。製造については(ファイザーやモデルナの)mRNAワクチンはスピードが速いというのが特長です。卵にウイルスを入れて増やすような(インフルエンザの)ワクチンとは違って、速く大量生産ができるんです。

「接種しなくてもいい人」が見つからない

学生
自分たちのような若者は風邪程度だからワクチンはうたなくてもいい、という声もあります。

堀さん
新型コロナのワクチンは「うたなくてもいい人」が見つからない。うたなくてもいいっていうのは、たとえば日本に住んでいる人は「マラリアワクチンはうたなくてもいい人」です。たしかに、若い人は新型コロナにかかっても鼻かぜ程度ですむ人がほとんどです。すごく太っているとか、何か病気のある人以外は、重症化することはほとんどないでしょう。でも、だからといって「かかってよい」ものでは決してない。軽症ですんでも後遺症が出る人がいます。新型コロナ感染症自体は高齢者のほうが重くなりますが、後遺症に関しては、若い人含めてどの年代でも一定数います。味や匂いがわからなくなって、食事がつらいものになってしまう。最新のデータでは「女性、若い人、痩せ型」の方が後遺症が出やすいということもわかっています。
厚生労働省 令和3年度第2回安全技術調査会参考資料より「新型コロナウイルス感染症の後遺症」(2021年6月23日)
国立国際医療研究センターHPより「新型コロナウイルス感染症罹患後の遷延症状の記述疫学とその出現・遷延リスク因子に関する報告」(2021年10月8日)

学生
新型コロナに感染した人の後遺症に脱毛ってあるのを見て「ワクチンうつことにした」っていう知り合いもいます。

堀さん
つらいですよねぇ。ワクチンが出る前の話ですが、後遺症では、女性の方で頭髪の脱毛の報告がありました。お坊さんのようにツルツルになるわけじゃなくて、まだらに地肌がみえるような状態になるようです。男性だと頻度は少ないですが、ED(勃起不全)になってしまう人もいます。本当に人生に影響してしまう。
ナショナルジオグラフィックHPより「新型コロナで男性の性機能が低下、今わかっていること」(2021.09.28)

ワクチンパスポートの考え方

──ワクチンに話を戻したいのですが、接種しない人への差別を案じる声もあります。

堀さん
ワクチンをうっていない人は(うった人に比べて)感染したり健康や生命のリスクが高い人になりますね。守ってあげるべき人と考えているんです。例えば「区別」で安全レベルを上げる方法があります。アイドルのコンサートで1階のステージに近い席はワクチンをうった人が座る。ワクチンをうっていない人は2階席で距離を空けて......という考え方です。ワクチンをうった人がうっていないときと同じ行動を求められるというのがおかしな話なのです。安全の話を無視して全く同じにすれば差別じゃないという考え自体がズレています。接種した人たちができるはずのことを、制限するほうが個人の生活や人生への介入として問題が大きいです。

学生
ワクチンをうった友人3人で誕生日祝いをしようとガラガラのお店で食事をしました。でも、なんだか悪いことをしているような気持ちがありました。誰かに見られているんではないかって、楽しめなかった。

堀さん
それが一番、深刻な問題だと思っています。ワクチンをうった人が全体で7割を超え、状況は良くなっています。でも、不安が消えない、罪悪感はほぐれない。ヨーロッパのニュースを見ていると、規制が解除されたらレストランでもバーでもみんな楽しそうに食事している。でも、日本はなかなかああはなっていない。最初の緊急事態宣言のときに、解除されたあともお客さんが戻らないとタクシーの運転手さんが嘆いていました。緊急事態宣言中もお店で食事をしている人たちはいました。悪いことをしているような報道のされ方もありましたが、聞いてみると「なじみの店を潰すわけには行かない」とか「(高齢だったりして来年は)もう、会えないかもしれない」など、みんなそれぞれの事情があったんですよ。流行していない地域まで都会のニュースに引きずられていました。

他愛のない話ができる日常を取り戻そう

学生
オンライン授業ばかりでキャンパスにほとんど行っていません。授業の中で友人と話す機会はあっても「他愛のないこと」は話せません。課外活動で大学に行っている人たちは直接に会えて仲良しになっているのに。他愛のない話がしたいです。

堀さん
早く日常を取り戻したいですよね。ワクチンと(年内にも日本で承認される見込みの重症化を防ぐ)飲み薬はゲームチェンジャーになり得ます。どういう場面で感染リスクが高いのかはわかってきているので、不必要になった感染対策は減らしていきたいですね。

以 上