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【研究成果・プレスリリース】コロナ禍で広がったテレワークの「選択肢」の格差 2020-2024年の継続調査を用いて制度の普及率が職業と学歴によって異なることを実証

2025.12.03

コロナ禍で広がったテレワークの「選択肢」の格差
2020-2024年の継続調査を用いて制度の普及率が職業と学歴によって異なることを実証

ポイント

  • 本研究では、コロナ禍直前(20201月)からその4年後にかけて、テレワークが職場の制度として利用できる者の割合がどのように推移したのかを、職業別・学歴別に分析しました。
  • 分析の結果、テレワークを利用できかつ実際している割合だけでなく、利用できるがしていない割合も増加したことが明らかになりました。これらは専門職や管理職といったホワイトカラー層、大卒・大学院卒といった高学歴層で顕著に見られました。
  • 以上の結果は、テレワークを実施しているかという行動だけでなく、テレワークができるかという選択肢における社会経済的格差がコロナ禍によって現れ、かつコロナ禍が落ち着いた後も持続していることを示しています。

研究の概要

学習院大学法学部の麦山亮太准教授と独立行政法人労働政策研究・研修機構の小松恭子研究員は、2020年以降のコロナ禍を経て、テレワークを実際に利用しているかというだけでなく、職場の制度として利用可能かという「選択肢」に職業や学歴による格差が出現し、コロナ禍が落ち着いた後も持続していることを明らかにしました。

コロナ禍にあって、日本においてもテレワーク(リモートワーク、在宅勤務)が急速に普及しました。この過程では、誰もがテレワークを行えるわけではない、というテレワーク実施の格差に焦点が当たりました。しかし、コロナ禍が落ち着きをみせるにつれて、パンデミック下の一時的な対応にとどまらず、テレワークが柔軟な働き方の選択肢として定着するのかが関心を集めるようになりました。

本研究は、コロナ禍を経てテレワークが働き方の選択肢として定着したのか、そこにいかなる格差が存在するのかを明らかにすることを目的としました。具体的には、20201月から20241月にかけて実施された「就業実態パネル調査」(リクルートワークス研究所)を用い、職場の制度としてテレワークが「利用でき、実際している」割合と「利用できるが、していない」割合がコロナ禍を経てどのように変化したのかを、職業別・学歴別に分析しました。

分析の結果、専門職や管理職といったホワイトカラー層、大学卒・大学院卒といった高学歴層ほど、コロナ禍直前と比べてテレワークを「利用でき、実際している」割合が大きく増加し、その後もこの傾向が持続していることがわかりました。さらに、「利用できるが、していない」割合がホワイトカラー層で一貫して増加していました。

以上の結果は、テレワークを実施しているかどうかという行動では捉えられない、職場の制度としてテレワークの選択肢があるかという側面においても社会経済的格差が現れ、かつそれが持続していることを示しています。

本研究成果は20251129日(英国時間GMT)にSocio-Economic Review誌のオンライン版に掲載されました。

研究の背景

新型コロナウイルスによって生じたパンデミック(コロナ禍)は人びとの働き方を大きく変えました。その一つが、テレワーク(リモートワーク、在宅勤務)の普及です。コロナ禍においては、感染抑制目的でテレワークが実施されるようになり、その過程で、誰もがテレワークできるわけではないという格差に焦点が当てられました。

コロナ禍が落ち着きをみせるにつれて、パンデミック下の一時的な対応にとどまらず、テレワークが柔軟な働き方の選択肢として定着するのかが関心を集めるようになりました。しかしながら、とくにコロナ禍以前と比べて職場の制度としてのテレワークがどの程度普及したのか、またその普及率が社会経済的地位によってどの程度異なっているのかについては十分な研究がなされてきませんでした。

研究の内容

本研究では、2020年から2024年にかけて毎年1月に実施されている「全国就業実態パネル調査」(リクルートワークス研究所)データを用いて、25-64歳の被雇用者を対象とした分析を行いました。本調査は、いわゆるコロナ禍が始まる以前から同一の方法(ウェブ調査)で同一個人に対して同じ調査を継続しているため、コロナ禍以前からのテレワーク利用の変化を厳密に明らかにできます。

テレワークが「制度として導入されていて、自分自身に適用されていた」と回答した人を「利用できる」グループとしました。さらにそのうち、1週間に1時間以上テレワークを行った人を「利用でき、実際利用した(Access and use)」グループ、まったく行わなかった人を「利用できるが、しなかった(Access but non-use)」グループに区別しました。

下図は、テレワークを「利用でき、実際している」グループと、「利用できるが、していない」グループの割合がどのように推移したのかを、職業別・学歴別に示したものです。「利用でき、実際している」グループの割合は、コロナ禍直前(20201月)では2.5%でしたが、コロナ禍直後(20211月)には12.3%へと大きく増加しました。しかし、その傾向は職業や学歴によって大きく異なります。図に示されるとおり、専門職・管理職・事務職といったホワイトカラー層や、大学卒・大学院卒といった高学歴層においてとくに顕著であり、他方、それと比べるとマニュアル職や販売職・サービス職、中学卒・高校卒での増加はごく小さいものにとどまりました。このようにコロナ禍直後に拡大した職業間・学歴間の差は最新の調査時点(20241月)においても持続しており、テレワークを「利用でき、実際している」割合が職業や学歴によって大きく異なるという状況が定着したといえます。

これに加えて、コロナ禍を通じて「利用できるが、していない」者の割合が一貫して増加しています。この割合は2.2%20201月)から6.1%20241月)へと着実に増加してきました。ここでも、専門職・管理職・事務職といったホワイトカラー層、大学卒・大学院卒においてその増加傾向が大きいことがわかります。以上の傾向からは、コロナ禍を経て、実際には行っていないとしても、テレワーク利用の選択肢が特に高い階層の労働者に普及してきたことを示しています。

以上みられた職業および学歴間におけるテレワーク利用可能性の格差の広がりは、同一個人における変化を追跡し、かつ産業、居住地域、企業規模、業務のテレワーク適性といった様々な違いを統制してもなお見られました。具体的には、ホワイトカラー層では「利用でき、実際している」「利用できるが、していない」割合の両方が、高学歴層では「利用でき、実際している」割合が増加したことが明らかになりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)または今後の展開

以上の結果は、テレワークをしているかという行動だけでなく、職場の制度としてテレワークが利用可能であるかどうかという側面においても、職業や学歴といった社会経済的地位による機会の不平等が存在することを示唆しています。ただし、なぜ社会経済的地位によるテレワークの利用可能性の格差が生じるのかについてはまだ十分に明らかでなく、職場慣行などといった組織的要因に着目したさらなる研究が必要といえます。

コロナ禍が落ち着きを見せたのち、テレワークは労働者の「選択肢」となりつつあります。こうした「選択肢」の存在は、テレワークをしているかという行動以上に本人の幸福度や満足度とより強く相関することも確認できました。同一の業務に従事していたとしてもテレワークの「選択肢」に違いが生じることは望ましくなく、改善が求められます。

さらに、テレワークを「利用できるが、していない」者の実態を明らかにすることが期待されます。職場のほうが働きやすいのでテレワークをしないからかもしれませんし、テレワークをすることによって同僚や上司から低く評価されると考えているからかもしれません。欧米のいくつかの国ではコロナ禍以前から「利用できるが、していない」者は存在したものの、テレワーク制度の普及が遅れていた日本ではこうした者は比較的新しい存在といえ、その実態を明らかにすることが重要です。

発表者

麦山亮太

学習院大学法学部政治学科

准教授

小松恭子

労働政策研究・研修機構

研究員

論文情報

論文名:More than usage: Expanding socioeconomic inequality in access to remote work after COVID-19 in Japan

雑誌名:Socio-Economic Review

著者名:Ryota Mugiyama and Kyoko Komatsu

URL: https://academic.oup.com/ser/advance-article-abstract/doi/10.1093/ser/mwaf072/8361721

DOI: https://doi.org/10.1093/ser/mwaf072

研究助成

本研究はJSPS科研費JP21K13439の助成を受けて実施されました。

プレスリリース原本はこちら(PDF)