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【研究成果】COVID-19パンデミックと韓国グローバル企業の社会的責任 :ステークホルダー理論の観点から

2024.03.22

COVID-19パンデミックと韓国グローバル企業の社会的責任:ステークホルダー理論の観点から

ポイント

  • 企業経営において、社会的責任(Corporate Social Responsibility, 以下CSR)の取り組みは極めて重要であります。特に社会的危機や災害が発生した際には、迅速かつ体系的なCSR活動の展開が求められます。
  • 企業のCSR方針や活動は、利害関係者および地域社会の中心となる視点を保持し、社会的ニーズや期待に応じる形での持続的な改善および進化が重要とされます。
  • 災害時に地域社会の回復力を強化するためには、政府が企業とオープンで協力的なパートナーシップの構築に積極的に取り組むべきです。

研究の概要

学習院大学国際社会科学部の金素延准教授は、CSRの重要性に注目し社会的危機や災害が発生した際に企業のCSR活動の特徴と役割について調査を行いました。

ステークホルダー理論1に基づき、韓国のグローバル企業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに直面する中で展開した企業のCSR活動を調査しました。韓国を代表するグローバル企業3社(Samsung ElectronicsLG ElectronicsHyundai Motors)のCSR活動に関するニュース記事を収集し、定性的な調査方法を通じて研究を行いました。20201月以降、韓国でCOVID-19が発生した際に報道されたニュース記事を対象とし、各企業のCSR活動を示す主要なキーワードを抽出し、そのキーワードの属性や頻度を分析し、パターンを把握しまた。調査結果から、これらの企業のCOVID-19パンデミック中のCSR活動は、迅速かつ体系的に実施されていたことが明らかになりました。3社は彼らの事業およびCSRビジョンと密接に一致する主要なCSR活動に焦点を当てると同時に、日常のビジネス活動からサポートが必要な領域を迅速かつ自発的に特定し、速やかに対応していました。この結果から、災害時のCSR活動において、企業の機敏で体系的なアプローチを取ることが重要であることが示されます。このアプローチは、社会とビジネスの双方に利益をもたらし、社会価値の創造と社会との持続的な共栄に寄与します。さらに、本研究は政府と企業の緊密な協力関係が、災害から復興において相乗効果をもたらす可能性を示唆しています。

本研究成果は20231213 日に英国の国際学術誌「Emerald Open Research」に掲載されました。本発表は学習院大学グランドデザイン 2039「国際学術誌論文掲載補助事業」より掲載費の助成を受けています。

発表内容

研究の背景と経緯

企業のCSRは長らく注目を集めてきました。しかしながら、現在、COVID-19パンデミックなどの世界的な災害に直面する状況では、企業のCSR活動を通じた積極的な社会参加と支援活動が一層重要視されています。ステークホルダー理論によれば、企業は、株主の利益増大に限らず、企業の経営活動に関わる可能性のある多様な利害関係者を考慮し、彼らのニーズに応えて社会的便益を増加させる責任があると主張されます。すなわち、CSRは企業の市民としての役割が重視され、単なる慈善的な寄付や特定の団体への資金提供、社会および環境に関する意識喚起など、狭い範囲のCSR活動を越え、より体系的かつ戦略的なアプローチをとり、社会的価値を創出することでビジネス利益を向上することができます。

特に、災害が発生した場合、社会全体と地域社会には緊急の対応が求められ、完全な復旧のためには迅速な支援が必要です。企業のCSRが災害状況において注目される理由は、政府の災害管理や対応能力が不足しているためです。具体的には、リーダーシップや協業能力の欠如、そして硬直化した組織構造により、政府は速やかでかつ効果的な救援活動を行うことが難しいとされています。そのため、災害救援において民間部門のより積極的な参加が求められ、民間部門の社会参加がより一般化され、重要視されてきました。

企業は政府とは異なり、迅速かつ体系的に動員できる資源と能力を持っているため、災害時に救援および復旧管理を効果的に進めることができます。企業は、災害が発生した場合に対応的で一時的な救援活動から、事前予防措置のような先制的で積極的な措置まで多様な活動を展開し、利害関係者のニーズを満たすことができます。実際に、COVID-19のパンデミック期間中、世界中の企業が救援および復旧活動を通じて社会に積極的に参加したことが報告されました。特に社会的な認知度が高い企業の場合には、大衆の認識と期待が高いことから、積極的なCSR活動が求められます。そのため、社会的な危機が発生した場合には、社会的な必要性とニーズに応えるためのCSRシステムを構築し、迅速かつ体系的なCSR活動を展開することが重要です。これは現在だけでなく、今後のビジネス活動に直接的な影響を与える可能性があるためです。

研究の内容

では、災害時における企業のCSR活動は、具体的にどのように計画され、行われるべきなのでしょうか。 

本研究では、災害発生時の企業のCSR活動の重要性に注目し、韓国の代表的なグローバル企業3(Samsung ElectronicsLG ElectronicsHyundai Motors)を対象に、COVID-19パンデミック期間中のCSR活動と戦略を調査しました。調査には、3社のホームページに公開されたプレスリリースをに、20201月から20211月までに発表されたCSR活動に関するニュース報道を収集し、Pythonのテキスト分析プログラムを用いて主要キーワードを抽出して分析しました。

調査結果を通じて、COVID-19パンデミック期間中、3社の企業の社会参加方法を具体的に確認することができました。企業ごとに全体的なCSRビジョン、主要利害関係者、主要活動に違いはありますが、パンデミック期間中のCSR活動は迅速かつ体系的に行われたことが明らかになりました。各企業の全体的なCSR戦略と連携したCSR活動はもちろん、対応的なCSR活動を行い地域社会に迅速にアプローチしました。つまり、企業は支援が必要な地域社会と人々を探し、迅速かつ積極的に関わることで様々な災害救援のCSR活動を展開したのです。COVID-19の拡散後も各企業が保有する資源と能力を共有し、地域社会に関わり地域社会の復旧に努めました。具体的には、金銭的寄付、施設や物資(例えばマスクや自社製品)の提供、啓発キャンペーン、教育プログラムの実施を通じて、COVID-19の危機に対する公衆の認識を高めるとともに、緊急支援が必要な地域社会と社会的に脆弱な集団への支援など、慈善活動を行いました。さらに、予防策として行動規範の普及、政府機関や非政府組織(NGO)とのパートナーシップを通じて、体系的な支援活動も実行しました。3社はパンデミック以前から注力してきた主要なCSR活動の継続に加え、各社のCSRイニシアチブに基づく戦略的な災害救援活動を効果的に展開しました。このアプローチにより、これらの企業は地域社会に深い影響を与え、地域コニュニティの復旧と発展に寄与したことが示されます。

本研究の調査結果より、企業がCSR計画を策定する際には、ステークホルダーと地域社会中心の視点を重視し維持することが重要であることが示されました。また、企業のCSR戦略はビジネス戦略に組み込まれるべきであり、社会的ニーズと期待に応じて、適切に改善され、進化すべきであることが示唆されます。このように、社会的危機状況に機敏かつ体系的にアプローチして参加する企業のCSR活動は、社会に役立つだけでなく、社会的価値を創出し社会との持続的な共栄に貢献することができます。これまで、企業のCSR活動の動機は主に利己的であり、最終的には特定の経済的利益を追求するものであるとの議論がありました。しかしながら、本研究結果を通じて、企業のCSR活動は、むしろ社会市民として社会共同体の経済的・社会的利益増進に貢献するために行われることが確認されました。災害が発生した時に、民間部門の果たす役割は極めて重要で効果的であると言えます。企業は、ビジネス能力と経験、そして動員可能な資源を有しているため、政府は災害時において企業とのオープンで協力的なパートナーシップを築くことが求められます。その連携を通じてシナジー効果を生むことが期待でき、地域社会の回復力を向上させるため、連携する方法を前向きに検討すべきです。

本研究は、災害発生時における企業のCSR活動の性質を探究し、その結果から学術的に有意義な洞察を提供します。しかし、本研究の調査が大規模のグローバル企業に焦点を当てているため、その結果の適用範囲に限界があります。特に、中小企業では、資源や経験が限られているため、災害が発生した時に展開可能なCSR活動に制約がある可能性があります。この点は、企業の規模や特性によるCSR活動や戦略の違いを比較分析する必要性を示唆します。今後の研究においては、CSR活動およびのそれがビジネスに及ぼす影響について包括的な理解を深め、より普遍的なフレームワークやツールを開発することが期待されます。

用語解説

※1 ステークホルダー理論

企業が経営活動を遂行する際に、影響を及ぼす可能性のある全ての関係者(ステークホルダー)を考慮する経営理論です。この理論によれば、企業は、株主のみならず従業員、顧客、供給者、政府機関、地域社会など多岐にわたるステークホルダーの影響や利益を考慮すべきであり、それを考慮した意思決定が重要であると主張されます。

論文情報

論文名:The COVID-19 pandemic and corporate social responsibility of Korean global firms: from the perspective of stakeholder theory

雑誌名:Emerald Open Research

著者名:Soyeon Kim

DOI:10.1108/EOR-04-2023-0013

発表者

金 素延 学習院大学国際社会科学部・准教授