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【研究成果】女性リーダーシップ、ジェンダーダイバーシティ・ インクルージョン風土が日本人従業員の業務希望に与える影響について

2023.03.22

女性リーダーシップ、ジェンダーダイバーシティ・
インクルージョン風土が日本人従業員の業務希望に与える影響について

ポイント

  • 日本の製造業において、ダイバーシティ・インクルージョンマネジメントに関する実証的研究を実施しました。
  • 女性リーダーによる両利きリーダーシップ※1は、従業員の職務態度にポジティブな効果をもたらすことが明らかになりました。
  • 女性リーダーの両利きリーダーシップは、ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土を醸成し、そのような組織風土が男女従業員の職務希望を向上させることが究明されました。

概要

本研究は、日本の企業において女性リーダーシップに焦点を当て、女性による両利きリーダーシップが、組織のジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土(D&I climate)と従業員の業務希望(Hope)にどのように影響するかを実証的に調査することを目的とします。社会情報処理論(Social information processing theory)※2と社会的アイデンティティ理論(Social identity theory)※3に基づき、女性リーダーが両利きリーダーシップを発揮することが、従業員の職務態度に及ぼす影響とその心理的メカニズムについて仮説を立てました。調査対象は、中堅・大手製造業で女性上司のいる従業員306人であり、2回のアンケート調査を実施しました。その調査による分析結果は、以下の通りです。

  1. 女性リーダーによる両利きリーダーシップは、ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土を醸成し向上させる。
  2. ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土は、従業員の職務への態度形成にポジティブな影響を及ぼす。具体的には、ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土によって従業員の職務希望(Hope)が高められる。
  3. ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土は、従業員の性別にかかわらず、全従業員の職務希望にプラスの影響を及ぼす。

この分析結果から、女性リーダーが両利きリーダーシップを発揮することで、組織のジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土を促進し、従業員の業務希望の向上につながることが解明されました。これは、女性リーダーによる両利きリーダーシップの必要性と重要性を示します。本研究は、日本において女性リーダーシップが従業員にもたらすポジティブ効果とそのメカニズムを実証的に究明することで、女性リーダーシップに関する知識をより深めます。さらに、その結果は、女性リーダーシップの効果に関する疑問を払拭するための証拠を提供することにより、女性リーダーシップ及びダイバーシティ・インクルージョンの研究の発展に寄与する学術的な意義を持ちます。

本研究成果は、2022年7月18日に心理科学誌Frontiers in Psychologyに掲載されました。


背景・研究内容

近年、人的資源管理研究においてダイバーシティ・インクルージョン経営は重要なテーマとなっています。組織内で公正性を保障し、多様性を受け入れることは、企業の持続可能な成長のために不可欠です。特に若い世代は公正性および平等について注目しているため、このような価値を反映した人事管理制度を設計し効果的に運用する必要があります。したがって、多くの企業がダイバーシティ・インクルージョン経営に注目し、ダイバーシティ・インクルージョン風土を作ろうとしています。しかしながら、日本企業においては、こうした動きとは異なり、多少遅れをとっている状況があります。日本でもダイバーシティ・インクルージョンに対する認識は高まっており、様々な施策が実行されていますが、まだ目に見える実質的効果は乏しいと言わざるを得ません。その理由の一つとして、日本は男性中心の社会環境であるため、女性リーダーまたは女性リーダーシップに対する懐疑的見方が依然として強く存在していることが挙げられます。そのため、女性のリーダーシップ及びこの効果に関する研究が必要となります。


本研究では、既存の研究と理論に基づき、両利きリーダーシップに着目します。両利きリーダーシップは、従業員の創造的な業務成果を促進すると報告され、注目を集めているリーダーシップスタイルです。企業の革新を引き出す両利き経営(深化(exploitation)と探索(exploration)行動が両立する経営)に基づくリーダーシップ概念であり、クロージングリーダーシップ行動(Closing leadership behaviors)とオープニングリーダーシップ行動(Opening leadership behaviors)の2つの要素で構成されます。クロージング行動は、深化に関連する概念であり、従業員の業務を管理し、評価することにより業務の効率化を促進する管理者としてのリーダー行動を指します。一方で、オープニング行動は、探索に関連する概念であり、従業員に権限と自由を与えることで、彼らが職務のやり方や問題に対して様々なアイデアを自由に考え出し、これを実際に実践することができるように導くモチベーターとしてのリーダーの行動を指します。両立するこれらの2つの行動をバランスよく、柔軟に行うという両利きリーダーシップの特徴が女性に適するリーダーシップであると報告されています。そこで、女性による両利きリーダーシップに焦点を当て、従業員への影響及び心理的メカニズムについて調査を実施します。そのため、3つの仮説を設定し、検証します。
 
仮説1. 女性の両利きリーダーシップは従業員の職務希望に正(+)の影響を与える。
女性リーダーは、このような両利きリーダーシップを発揮することで、従業員の態度に影響を与えます。女性の両利きリーダーシップにより、従業員は自分の仕事の目標や過程を明確に認識することができ仕事へのモチベーションが高まり職務希望を高めることになります。

仮説2.ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土は、女性の両手利きリーダーシップと従業員の職務希望を媒介する。
女性による両利きリーダーシップの発揮は、従業員に組織が公平性のある人事管理制度を運用し、ダイバーシティ・インクルージョンマネジメントを実践しているという情報を提供し、組織のダイバーシティ・インクルージョン風土を醸成することに寄与します。その風土により、従業員は組織サポートや公平な扱いを受けることを感じ、自身の職務に対する希望を高めることに繋がります。

仮説3. ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土が従業員の職務希望に与える正(+)の効果は、男性従業員よりも女性従業員にとってより大きくなる。
ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土は、組織で女性従業員の処遇及びキャリア形成に直接的に関連する課題であるため、ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土のポジティブな効果は男性従業員に比べて女性従業員にとってより大きくなります。

図

図 研究仮説のモデル

以上の仮説を設定し、日本の中堅・大手製造業の従業員306人を対象としたアンケート分析の結果、仮説1、2は支持され、仮説3は棄却されました。仮説3の結果から、ジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土が従業員の職務希望に与えるプラス効果は、性別に関係なく同一であることが確認されました。分析結果により、女性の両利きリーダーシップは従業員にポジティブな効果を及ぼすことが確認されました。この研究結果は、日本企業のダイバーシティ・インクルージョン経営において重要な示唆を与えます。従業員の仕事に対するモチベーションを高め、職務希望を向上するためには、女性リーダーの役割とジェンダーダイバーシティ・インクルージョン風土を醸成することが必要であることが示唆されます。

今後の展開

今後の研究においては、この研究結果に基づいて、女性の両利きリーダーシップが組織や従業員に及ぼす他の効果を調査し、女性の両利きリーダーシップの効果をより具体的に究明する必要があります。さらに、女性だけでなく男性の両利きリーダーシップとの効果の違いを比較・分析することで、女性両利きリーダーシップの効果やメリットをより明確にすることが考えられます。

 

参考文献

Rosing, K., Frese, M., & Bausch, A. 2011. Explaining the heterogeneity of the leadership-innovation relationship: Ambidextrous leadership. The Leadership Quarterly, 22(5): 956-974.
Salancik, G. R., & Pfeffer, J. (1978). A social information processing approach to job attitudes and task design. Administrative science quarterly, 224-253. 
Tajfel, H., & Turner, J. C. (1986). "The social identity theory of intergroup behavior," in Psychology of Intergroup Relations, 2nd Edn, eds S. Worchel and W. G. Austin (Chicago: Nelson-Hall), 7-24.

用語解説

※1 両利きリーダーシップ:リーダーが深化(exploitation)と探索(exploration)の双方の行動を実践し、それらの行動を柔軟に切り替えることで、フォロワーの探化と探索行動の両方を育てるリーダーシップ能力を表す(Rosing et al., p. 957)。


※2 社会情報処理論(Social information processing theory):適応的な有機体としての個人は、
自らの行動、信念を社会的文脈と自身の過去や現在の行動と状況の現実に適応させる。そのため、個人の行動を理解するには、その行動が発生し、適応する情報的・社会的環境を研究する必要がある(Salancik &Pfeffer, 1978, p. 226)。


※3 社会的アイデンティティ理論(Social identity theory):人は社会的グループの一員として自己のアイデンティティを確立し、そのアイデンティティは人々が所属するイングループと非所属のアウトグループに対する態度や行動に影響を及ぼす(Tajfel & Turner, 1986)。


論文情報

論文名:Are Your Employees Hopeful at Work? The Influence of Female Leadership, Gender Diversity and Inclusion Climate on Japanese Employees' Hope
著者名:金 素延
雑誌:Frontiers in Psychology
DOI:10.3389/fpsyg.2022.936811

研究支援

本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金(18K12857)の助成を受けて実施されました
また、学習院大学グランドデザイン2039「国際学術誌論文掲載補助事業」より掲載費を助成しています。

 

 

国際社会科学部 金 素延 准教授 

プロフィール:/iss/program/faculty/soyeonkim.html

researchmap:https://researchmap.jp/bless_skim