ハイレベルな資質・能力を備える日本語教員を養成 ~学習院大学で体得する国際感覚
中上 亜樹 准教授、日本語日本文学科4年
2026.04.21
魅力あるプログラム ゼミ紹介 文学部 在学生 教職員
日本で暮らす外国籍の人々が増えるなか、日本語教師という職業が国家資格化された。学習院大学の文学部日本語日本文学科は、新しい「登録日本語教員」制度に対応する登録日本語教員養成機関および登録実践研修機関だ。専門的に日本語を学ぶことで、見える世界はどう変化するのか。中上亜樹准教授とゼミ生のお二人に語り合っていただいた(写真は右から小西凛子さん、中上亜樹准教授、伊藤珠実さん)。
日本語教員に求められる資質・能力を身につけるカリキュラム
―中上准教授が日本語教育に関心を抱いたきっかけをお聞かせください。
中上亜樹准教授(以下、中上) 高校2年生のときにカナダでホームステイをしたのですが、現地の人に片言の日本語で話しかけられることが度々ありました。日本語が海外で興味を持たれていることを知った、最初の経験です。その後、3年生になって進路を決めようと資料を開いたときに、真っ先に目に留まったのが「日本語教師」でした。「そういう職業があるんだ」と思ったのと同時に、子どものころから先生になりたいという夢を抱いていたこともあり、それから日本語教育学を志して今に至っています。
大学卒業後はタイに渡り、現地の大学で日本語を教えました。それまで日本人や日本語に触れる機会がほとんどない、タイ北部にある大学の学生たちでしたが、1年が終わって私が帰国するときには、日本語でお別れの手紙を書いてくれるまでになりました。そのときの感動が、日本語教育学の研究者という今につながっています。学習者にとって初めて接する外国人が日本語教師というケースもあり、彼らの人生に与える影響力が大きい。そこも魅力の一つだと感じています。

中上亜樹(なかうえ・あき)/学習院大学文学部日本語日本文学科、人文科学研究科日本語日本文学専攻 准教授。広島大学教育学部日本語教育学科卒、広島大学大学院教育学研究科 言語文化教育学専攻・文化教育開発専攻。博士(教育学)。タイ・ラチャパット大学ウッタラディット 講師、韓国・釜山外国語大学講師、国立国語研究所プロジェクト特別研究員、国士舘大学21世紀アジア学部准教授などを経て、2018年より現職
―伊藤さんと小西さんは、なぜ文学部日本語日本文学科を選ばれたのですか?
伊藤珠実さん(以下、伊藤) 中学3年のときにフィリピン、高校1年のときにカナダへ短期留学する機会があったのですが、言葉が通じなくてとても苦労しました。そのとき現地の方々にいろいろサポートしていただいたことがうれしくて、「私も同じように、日本にいる外国の人たちをサポートしたい」と考えるようになりました。そして学習院大学に入り、2年生のときに受けた中上先生の「社会言語学」の授業が面白くて、先生のゼミに入ったのです。
中上 「社会言語学」というのは、若者言葉やジェンダー言葉について講義したものですね。
伊藤 そのときにステレオタイプについても学び、私自身も留学生の方々と関わるなかで、無意識のバイアスがあることに気づきました。
小西凛子さん(以下、小西) 私も中上ゼミを選んだのは、先生の「社会言語学」がきっかけでした。もともと古文と漢文が好きで日本語日本文学科に入ったので、日本語教師はまったく未知の分野だったのですが、授業を受けるうちに興味が湧いてきて、今は登録日本語教員の資格を取得するために勉強しています。

左:文学部日本語日本文学科4年・小西凛子(こにし・りこ)さん。中:同4年・伊藤珠実(いとう・たまみ)さん
中上 本学科は2年次から「日本語日本文学系」と「日本語教育系」に分かれます。後者のコースは文科省が「登録日本語教員」制度で定める内容に即したカリキュラムで、4年次に日本語教育実習が必須となっているほか、タイや台湾などへの日本語教育インターン派遣プログラムも用意されています。登録日本語教員になるためには、日本語教員試験を受けて「基礎試験」と「応用試験」に合格し、その後「実践研修」を受ける必要がありますが、本学科の過程を修了すれば「基礎試験」と「実践研修」は免除になるので、「応用試験」だけ受けて合格すれば資格を取得できます。
―他学部生が履修できる日本語教師養成プログラムもあるんですね。
中上 はい。全学部生が履修可能な副専攻制度にコースを設置したことからも、学習院大学が日本語教育に注力する本気度が伝わるかと思います。言語や国際関係など、幅広い専攻を持つ他学部、他学科の学生にも日本語教育について学べる機会を提供しており、試験免除の条件も同じです。
キャンパス内は異文化理解の機会が豊富。海外研修など実践の場で武者修行
―日本語の魅力はどこにあるのでしょう。
中上 本学科の学生は、そもそも日本語自体に興味のある人が多いのですが、講義後の学生のコメントを見ると、「一つの事象を表す言葉が豊富で美しい」「小説の登場人物が、その話し方一つでキャラクターが浮き上がる特異な言語だと思う」というような感想を述べたものがあり、印象に残っています。方言や、男性、女性っぽい話し方など、人物を特徴づける表現が多様なのは、確かに特徴的かもしれません。クラスの中に留学生がいることもあるので、そのようなときは、留学生から日本語や日本の習慣がどう見えるのか、授業の中で発言をしてもらったりしています。そういう意味では、キャンパス内にいても異文化理解の機会は多いかもしれませんね。
伊藤 私は今、学内の留学生をサポートする活動をしており、キャンパス内でも異文化を感じています。毎週、彼らに会って課題を手伝ったりしているのですが、ときどき連絡なしにすっぽかされてしまうことがあるんです。ですが、彼らにとっては、すっぽかしているつもりはなくて、その時間にいないのは、今日は行けないと伝えているのと同じだと思っているようなんです。そのようなときには、今後日本でトラブルにならないように、日本のマナーも伝えないといけないと思いました。
小西 同感です。私が入っている吹奏楽部はけっこう時間に厳しいんです。そこに留学生の方々もいるのですが、少し時間にルーズかなと感じることもあります。それも日本語での伝え方や、時間に対する認識の違いが原因だと思うので、互いに歩み寄る姿勢が必要だと思いました。
中上 日本語や日本文化を教えるうえで、講義だけで伝えられることには限りがあります。ですから私たちは、実地での経験を非常に重視しています。先ほど紹介したインターン派遣プログラム以外にも、年に1度は学科行事として海外の日本語教育現場を視察して交流する海外研修を行ったり、本学科の学生が中心となって日本語教室を運営して学習者と交流しながら日本語を教えたりと、知識を実践する場をいくつも用意しています。とくに日本語教室には社会人や大学進学を目指して日本語を勉強している学習者も参加するので、学生にとっては日常の中で得るものが大きい、たいへん貴重な交流機会になっています。



日本語教育インターン派遣プログラムで学生に日本語を教えたり、交流したりしている様子。写真上・左下:カセサート大学(タイ) 右下:東海大学(台湾)
体得した国際的な感覚が、あらゆる領域で役立つ
―伊藤さんと小西さんは、将来は日本語教員の道に進まれるのですか?
伊藤 いえ、私は民間企業に就職することが決まっています。ただ、エンターテインメント業界で、海外向けのコンテンツもあるので、学んだことが生かされるのではないかと思っています。
小西 私は生命保険の会社から内定をもらっています。私は教職課程も履修していて、中学と高校の国語教師になる道も捨てきれず、まだ模索しているところです。
中上 本学科の学生の進路は本当に幅広いですね。それは、ここで身につけた「国際感覚」が、どの業界からも求められているからだと思います。今は、職場に外国籍の同僚がいることが当たり前の時代です。日本語や日本の慣習にうまく馴染めない同僚がいたときに、異文化理解の素地がある卒業生たちならきっとうまくサポートできるでしょう。
―サポートで大事なのは言葉だけではないのですね。
中上 国家資格「登録日本語教員」の新設を機に、日本語教員に必要な資質と能力は明確に定められました。学習院大学は登録日本語教員養成機関・登録実践研修機関として期待に応えつつ、同時に異文化理解のための教育にも力を入れています。多様な文化を尊重し、共生していく知性はこれからの日本で重用されるでしょう。
伊藤 就職活動でも、海外との接点は大きなアピールポイントになりました。どんな業界に行っても、大学での経験を生かす機会があると感じました。
小西 先ほど国語教師の道にも惹かれていると言いましたが、それは外国にルーツのある子どもたちに寄り添いたい気持ちがあるからなのです。子どもたちは日本語が流暢でも、親世代は困難を抱えるケースが多いと聞きます。生徒本人だけでなく、家庭自体を支えられることができたらいいな、と思っているんです。
中上 学生のみなさんには、社内や学校内だけでなく、地域にも目を向けられる社会人になってほしいと思っています。最近、SNSなどで「外国人は郷に入っては郷に従え」のような激しい論調を見かけますが、私たちは他者理解と受容を大切にしなくてはいけません。労働人口が減少していく日本において、外国の方々の労働力は重要度を増しています。日本語教員は、そういう方々を支えるインフラとしての役割も担っているのです。今後もいろんな形で役に立つはずですから、大学時代に勉強したことに誇りを持ってください。

「卒業生の進路は実に多彩」と中上准教授は言う
―最後に、受験生の皆さんにメッセージをお願いいたします。
伊藤 日本語教育を学べる大学はたくさんありますが、私が学習院大学の文学部を選んだのは、まず日本語を多面的に分析するところから始めたいと思ったからです。日本語学習者の立場から日本語をとらえて新しい視点を得、さらに実践の場で知識を試す。こうした学びの環境が整っているのが、学習院の魅力ではないでしょうか。
小西 私もそう思います。日本語へのアプローチがいろいろな角度からできるので、私のように「日本語が好き」という気持ちで入学した学生にも、日々新しい発見があります。ボランティアで参加している日本語教室も、やらなければ知らなかった世界です。みなさんも「日本語」を通して、多様な視点で物事を捉える力を身につける4年間になると思います。
中上 現状では、「登録日本語教員」の資格がなくても教えることはできますが、やはり資格があるほうが有利なことは確かです。日本語教員の需要は高く、活躍の場は海外にも広がっているので、将来性は大きいと言えます。ぜひ一緒に学びましょう。
―日本語を追究されてきたみなさんの、さまざまな領域における活躍を楽しみにしております。本日はありがとうございました。
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学習院大学文学部日本語日本文学科、人文科学研究科日本語日本文学専攻
https://www.gakushuin.ac.jp/univ/let/jpn/index.html
取材・文/武田洋子 撮影/今村拓馬 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ








