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【研究成果・プレスリリース】光と原子の基本的相互作用を精密に計測する新手法を開発~古典限界を破る量子原子磁力計の実現への重要な一歩~

2023.05.17

光と原子の基本的相互作用を精密に計測する新手法を開発
~古典限界を破る量子原子磁力計の実現への重要な一歩~

ポイント

  • 光と原子の相互作用の大きさの変化を正確に知ることは、原子時計をはじめとする精密計測や原子を用いた量子計算などにとって極めて重要な課題であり、その計測法は長年にわたり進歩してきています。
  • 本研究では、基本的な相互作用の1つである光による原子のエネルギー変化を極低温原子集団を用いて高精度に計測する新たな手法を開発しました。
  • 本研究は、精密計測や量子情報処理の基盤を固めるものであり、また、古典限界を破る感度を有する量子原子磁力計の実現への重要な一歩であると考えられます。

概要

髙井絢之介氏(現所属:産業技術総合研究所、研究時の所属:学習院大学)、東京工業大学の関口直太特任助教、学習院大学理学部の柴田康介助教、同平野琢也教授の研究グループは、極低温のルビジウム原子集団を用い、光による原子のエネルギー変化を従来にない精度で計測できる新たな手法を開発しました。

本研究では、極低温原子集団の内部状態の高度な操作によって多状態の原子干渉計(研究内容の項を参照)を構築しました。この多状態原子干渉計の特性を巧みに利用することで光による原子のエネルギー変化のうち原子の磁気的状態に依存する微小な成分を精密に計測できることを実証しました。

本研究成果は2023年5月11日にPhysical Review A誌のオンライン版に掲載され、Editor's suggestionに選定されました。

本研究は、⽂部科学省光・量⼦⾶躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)JPMXS0118070326、文部科学省科研費JP19K14635、旭硝子財団研究助成の支援を受けて実施されたものです。


研究手法・成果

光と原子の相互作用のうち最も基本的なものの1つとして、光による原子のエネルギーのシフトがあります。このエネルギーシフトの大きさは基本的に原子の磁気的状態に無関係なのですが、わずかに磁気的状態によって変化します。原子を用いた精密計測や高度な量子状態制御を行うにあたって、この微小なエネルギー変化を正確に測定することの重要性は増しています。

光による原子のエネルギーシフトは、これまで、分光法によって測定されることがほとんどでした。分光法は原子のエネルギー変化を精密に測定できる方法です。しかし、分光法では磁気的状態に依存しない成分も検出されるため、分光法による磁気的状態に依存する微小なエネルギー変化の測定精度は低いものにとどまっていました。

本研究では、ルビジウム原子気体をμK以下に冷却し、ボース・アインシュタイン凝縮体と呼ばれる極低温原子集団を準備しました。このような極低温の原子は、古典的な波(例えば音波)のように干渉、つまり、強め合いや弱めあいを示します。この干渉を利用した原子干渉計は、きわめて精密なエネルギー計測を実現できます。例えば、超精密な原子時計にも原子干渉計が用いられています。本研究では、ルビジウム原子気体の5つの内部状態で構成される"多状態"原子干渉計を用いて、光によるエネルギー変化のうち磁気的状態に依存するエネルギー変化のみを選択的にかつ高精度に測定できることを実証しました。

図

(a)実験配置。ルビジウム原子のボース・アインシュタイン凝縮体(赤楕円)に照射した波長795 nmの光パルスによる原子のエネルギーシフトを測定する。

(b)    本研究で用いた原子干渉計のタイムシーケンス。適切なラジオ波(rf)パルスによって原子の5つの内部状態の干渉を起こす。rfパルスの途中に照射した光によって干渉の様子が変化し、出力される原子状態が変化する。

(c)    典型的な実験結果。上図は光パルスが弱い場合の干渉計出力であり、ほぼすべての原子が単一の内部状態を占めている。光パルスを強くすると、下図のように、原子が他の状態に変化する。各状態を占める原子の割合から光によるエネルギーシフトを推定できる。

光によるエネルギー変化を正しく知ることは、原子を用いた精密測定や量子情報処理にとって不可欠であり、本研究はそれらの基盤を固めるものであるといえます。さらに、本手法を応用して原子の磁気的状態に依存するエネルギー変化を精密に補正することによって、古典限界を破る感度を有する量子原子磁力計の実現が期待されます。


論文情報

論文名:Multistate interferometric measurement of the nonlinear ac Stark shift
雑誌:Physical Review A
著者名:Junnosuke Takai, Kosuke Shibata, Naota Sekiguchi, Takuya Hirano
DOI:10.1103/PhysRevA.107.053308


発表者

髙井絢之介 現所属:産業技術総合研究所・研究員、研究時の所属:学習院大学・博士前期課程
柴田康介  学習院大学理学部物理学科・助教
関口直太  東京工業大学・特任助教
平野琢也  学習院大学理学部物理学科・教授

プレスリリース原本はこちら(リンク)