【研究成果】2種のシュモクバエの正直さが違うわけ

【研究成果】 2022年7月29日公開

2種のシュモクバエの正直さが違うわけ

1.発表者:

三木碧 学習院大学理学部生命科学科・卒業生
福田梨紗 学習院大学理学部生命科学科・卒業生
武田晃司 学習院大学理学部生命科学科・元助教
守屋綾乃 学習院大学大学院自然科学研究科生命科学専攻・博士後期課程2
上村佳孝 慶應義塾大学生物学教室・准教授
Chow-Yang Lee カリフォルニア大学リバーサイド校昆虫学科 (マレーシアサインズ大学生物学部)・教授
安達卓 学習院大学理学部生命科学科・教授

2.ポイント:

  • 眼幅を比べ合うことでオス同士が闘うシュモクバエ類において、眼幅が真に実力を反映するのかどうかを調べました。
  • 眼幅は集団全体では実力と相関しますが、各構成員は常に正直ではなく、眼幅だけが優り実力が劣る詐欺が混ざります。
  • 眼柄に脂肪組織が多い1種は眼幅が正直なものでしたが、脂肪組織が少ない1種は詐欺の割合が高いことが判明しました。
  • しかし正直な種においても摂食状態に応じて実力が変動するため、時に詐欺を起こさざるを得なくなると予想されました。
  • 動物個体が相手に送る情報の正直さは、資源保有量、婚姻形態、えり好みなどの要因で変化することが示唆されました。

3.概要:

 シュモクバエというハエのなかまのオスは複眼が大きく突出し、その眼柄成長は多くの栄養を要するハンディキャップになります。一方で長い眼幅は闘争や求愛において有利となります。ザハヴィのハンディキャップ理論に基づけば、シュモクバエの眼幅は、自身の能力を相手に知らせる情報として機能すると予測されますが、眼幅が自身の資源保有量をどれだけ正確に表現しているかはよく理解されていませんでした。今回の研究では、眼幅の雌雄差が小さい日本産のヒメシュモクバエと、雌雄差が大きいマレーシア産のダルマンシュモクバエという2種を用いてそれを調べました。前者の眼柄は後者の眼柄よりも多くの脂肪組織を含み、それは飢餓状態ではオートファジーを起こしてエネルギー源として消費されました。 またこの事実に対応するように、前者は眼幅と飢餓耐性能(資源保有量)の間に強い相関が見られましたが、後者ではその相関は弱いものでした。しかし前者でも、眼幅の優劣が乏しい2個体の間の闘争では、飢餓が勝率を低下させました。これらの観察結果は、資源保有量の提示(眼幅)が真の資源保有量(飢餓耐性能)よりも大きい状況が存在することを示し、情報の忠実度に、種差や状況依存があることが理解されます。
 本研究は学習院大学グランドデザイン 2039「国際学術誌論文掲載補助事業」より掲載費を助成しています。

4.内容

<研究の背景と経緯>
 同種の多数の個体が社会を作る動物では、各個体は他個体の視覚・嗅覚・聴覚などを介して相手に何らかの情報を送りますが、そこには自らの利益が絡むことがほとんどと思われます。なぜなら、情報送信にはコストがかかるため、そこに何の見返りもないのであれば、その行為自体がただの損失となって進化しないからです。そのようにして動物個体は、同性相手であれば自分が優位に立つべく、異性相手であれば自分の配偶行動を受け入れてもらうべく振る舞います。「振る舞う」という言葉を使うのは、その情報が必ずしも真実を反映しているのではなく、それらしく見せかけているだけ、という可能性があるためです。シュモクバエというハエは、この手の問題を研究するために海外でよく使われてきた生物材料です。両眼が突出しており、その長さを他個体に見せる儀式によって闘争や求愛を行います。日本にはただ1種のみが沖縄に生息しており、本研究は、約10年前に1人の大学院生からその種を採りに行くことを促されたことから始まりました。以来、のべ400人程の生命科学科の学生に学生実習を通して闘争行動の分析を積み上げてもらい、研究を進めてきました。その中で今回の研究は、好奇心旺盛な卒研生(筆頭著者)が、長く伸長する眼を解剖してみたことがきっかけになっています。

<研究の内容>
 沖縄産のヒメシュモクバエ(図1)の比較的小柄な眼柄(複眼と体幹をつなぐ筒状形態)を解剖すると、そこには大量の栄養貯蔵組織(脂肪組織)が詰まっていました。しかし、マレーシア産のダルマンシュモクバエ(図2)の大きく張り出した眼柄を解剖しても、脂肪組織はわずかにしか存在しませんでした。従って、前者では眼幅が資源保有量を示す情報となりますが、後者はそうではないと予想されます。実際に飢餓耐性能力を使って資源保有量を調べてみると確かにそのようになっており、後者の眼幅を使った勝利や配偶者獲得には、詐欺行為が広く浸透していることが分かりました。また、前者でも飢餓状態におかれると、実際には実力が低下しているのに眼幅に差があると勝利する状況が示唆されました。

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1 沖縄産のヒメシュモクバエ
2 マレーシア産のダルマンシュモクバエ

 2種のシュモクバエで詐欺行為の頻度に差がある理由は、二つ考えられます。一つは、前者が乱婚型配偶行動を行うのに対して、後者は一夫多妻型婚姻であるからで、一度の勝利がもたらす利益の差に起因すると考えられます。もう一つは、前者ではメスがオスをえり好みしないのに対し、後者ではメスが眼幅の長いオスを好む性質があり眼幅に適応的価値が乏しくとも正のフィードバックによって暴走的に進化する可能性があるためです。これはフィッシャーのランナウェイ説と呼ばれます。多くの動物の場合、各個体が他個体に送るシグナルはハンディキャップ理論で説明できることが示されていました。一方でランナウェイ説に従うことがあり得るとしてもその証明は難しいものでした。
 本研究では、両者が状況に応じて様々な頻度で混在するのが実態であることが示されました。人間社会においても、人は見た目や肩書にこだわる一方で、それらが必ずしも本質を反映しないことも知っています。アピールが誇大であったり、得られる利益が大きかったり、人の好みに付け込んだりすれば詐欺が起きることも、分かっていることです。経験的・直感的に察していたことを、シュモクバエで検証してみた研究と言って良いかも知れません。意欲的に研究してくれた学生達や、多くの教示と機会提供を頂いた共同研究者と協力者の方々に感謝申し上げます。

<今後の展開>
 生物のどのような形質も、環境と遺伝子の両方から影響を受けます。正直であるか詐欺を行うのかといった性質は、上記のように環境の影響を受けますが、他の形質と同様に遺伝的にも支配されていると考えられます。その遺伝子頻度のバランスが自然のレベルから外れた時に(つまり、正直者だけの世界や詐欺師だけの世界になった時に)何か適応的ではない現象が生じるのか、それらを支配する遺伝子がどのような種類のものであるのかなど、探求してゆきたいと考えています。

【用語解説】

シュモクバエ科 200種から成る小規模なハエの分類群で、長い眼幅で闘争・求愛する種が平行進化している。
ハンディキャップ理論 鹿の角など、大きなハンディキャップを負える個体は良い遺伝子をもつと考えるザハヴィの理論。
ランナウェイ説 二次性徴の極端な進化は異性によるえり好みに基づき良い遺伝子とは考えないフィッシャーの説。

(論文情報)
著者名:Aoi Miki, Risa Fukuda, Koji Takeda, Ayano Moriya, Yoshitaka Kamimura, Chow-Yang Lee & Takashi Adachi-Yamada
論文名:Differences in energy source storage in eye stalks between two species of stalk-eyed flies, Sphyracephala detrahens and Cyrtodiopsis dalmanni
雑誌名:Scientific Reports12Article number: 9981 (2022)
DOI  :10.1038/s41598-022-13887-7
URL  :https://doi.org/10.1038/s41598-022-13887-7