【研究成果】Covid-19が国際貿易に与える負の影響を、 電子商取引が軽減することが明らかに 〜各国のコロナ対策に重要な示唆

【研究成果・プレスリリース】 2021年12月22日公開

Covid-19が国際貿易に与える負の影響を、
電子商取引が軽減することが明らかに
〜各国のコロナ対策に重要な示唆

Can E-commerce Mitigate the Negative Impact of COVID-19 on International Trade?

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図1 主要な結果

 学習院大学経済学部椋寛教授をはじめとする研究グループは、Covid-19が貿易に与える悪影響が、電子商取引(E-commerce)の発展によって軽減されるか否かについて実証分析を行いました。その結果、輸入国と輸出国でCovid-19の感染者数や死亡者数が増加すると、二国間の貿易が大幅に減少するものの、輸入国で電子商取引が発達していると、未発達の国と比較してCovid-19の貿易への悪影響が緩和されることが分かりました。一方、輸出国での電子商取引の発達については、緩和効果があるとは言えません。
 本研究はECの発達による緩和効果に注目した初の研究であり、各国でコロナ対策を考えるにあたっても重要な示唆を与えます。本件に関する論文が、2021年9月29日(水)に、経済学に関する専門誌Japanese Economic Reviewに掲載されました。

【本件のポイント】

  • Covid-19が国際貿易に与える影響と電子商取引の関係についてはじめて実証分析を行った。
  • 輸出国・輸入国での感染者数や死亡者数の拡大は、二国間の貿易を大きく減らす。
  • 輸入国で電子商取引が発達しているほど、Covid-19の蔓延による貿易の縮小が抑えられる。

【背景】

 電子商取引(E-commerce, EC)は、2019年のCovid-19のパンデミックの以来、ますます注目を集めています。Covid-19の蔓延に対応した各種のロックダウン措置により、人々は毎日の運動、食料品の買い物、その他必須のものを除き、外出が許可されなくなりました。感染の可能性を回避しながら買い物をするために、オンラインでの商品購入が拡大し、結果、EC市場は世界中で劇的に成長しました。たとえば日本では、ECの3大市場(楽天、アマゾン、ヤフー)の売上高が、2020年に前年同月比で1月に7%、2月に13%、3月に14%増加しています。
 こうしたECの活発化は、COVID-19の国際貿易への悪影響を緩和することが期待されます。オンラインショッピングは国内取引のみならず、国境を越えた取引でも可能だからです。したがって、ある国でEC市場が発展すれば、その国でのCOVID-19の輸入需要への悪影響は減少すると考えられます。さらに、ECを使用すると、企業は企業間(B2B)取引をオンラインで実行し、サプライチェーンの中断にもかかわらず新しいサプライヤーや顧客を見つけることができます。したがって、ECが発達している国では、そうでない国と比較して、輸出供給に対するCOVID-19の悪影響も緩和する可能性があります。COVID-19の蔓延による貿易の停滞やサプライチェーンの寸断が問題となるなかで、その悪影響を緩和できる要因を探ることが重要となっています。本研究はECの発達による緩和効果に注目した初の研究であり、各国でコロナ対策を考えるにあたっても重要な示唆を与えます。

【概要】

 本研究は、ECの発達がCOVID-19の貿易への悪影響を緩和したかどうか、実際の貿易データを用いて実証分析を行いました。具体的には、2019年と2020年の1月から8月の期間における34の輸出国とその145の貿易相手国との二国間貿易を、貿易額の決定要因を測るための標準的なモデルである重力モデル※1を用いて推定しました。推定には、二国間の貿易額の変化を説明する要因として2種類の新しい指標(変数)を導入しました。 1つは、輸出国と輸入国におけるCOVID-19の被害の程度(感染者数や死亡者数など)、もう1つは、COVID-19の被害の程度と、それぞれの国でのECの発展度合いを掛け合わせたもの(=交差項)です。前者がCOVID-19の被害が貿易額をどれだけ減らしたかを、後者がCOVID-19の貿易額の減少がECの発展により緩和されるかを測ることなります。
 主要な結果は以下の通りです(図1参照)。

  1. 輸入国と輸出国で確認されたCOVID-19の感染者数または死亡数が多いほど、二国間貿易が大幅に減少する。
  2. ECの発達は、COVID-19が輸入国の貿易に及ぼす悪影響を緩和する一方で、輸出国では緩和しているとは言えない。

 輸出国でのEC発達度が、COVID-19の悪影響を緩和する効果が無かった理由としては、輸出業者のECの採用が未だ進んでおらず、国際取引にECを使用できるようになるまでに時間がかかることが考えられます。
なお本研究は科学研究費補助金(基盤研究(B)、課題番号20H01501)の研究助成を受けています。また、学習院大学学校長裁量枠「研究力強化事業(国際学術誌論文掲載補助)」より掲載費の助成を受けています。

【今後の展開】

 本研究では、Covid-19のような世界的ショックが貿易に与える影響を、ECの発展が緩和しうることを示しました。近年は、経済のデジタル化が進行する一方で、データの越境規制や重要データの国内保存義務など、各国でデジタル保護主義と呼ばれる政策が採られる動きがあります。こうしたデジタル保護主義は、国家間の自由なデータ取引を阻害し、ECの発展を阻害する恐れがあります。今後、ECのさらなる成長を実現するためには、ルールに基づき、自由で開かれた、透明性のある環境を確立することが重要です。これらの規制の影響を実証的に検証することが、今後の研究課題です。

【用語解説】

※1 重力モデル(Gravity Model):物理学における万有引力の法則に基づき、二国間の貿易が両国の経済規模が大きくなるほど増加し、逆に両国の距離が離れているほど減るとするモデル。二国間の貿易額の決定要因を実証的に測るための典型的なモデルであり、様々な要素を取り込みつつ手法が高度化するとともに、国際貿易に関する多くの理論モデルとも整合的であることが明らかになっている。

論文情報
著者名:Kazunobu Hayakawa, Hiroshi Mukunoki, Shujiro Urata
論文名:Can E-commerce Mitigate the Negative Impact of COVID-19 on International Trade?
雑誌名:Japanese Economic Review
DOI  :https://doi.org/10.1007/s42973-021-00099-3
URL  :https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs42973-021-00099-3

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