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RecA-RecN相互作用の種特異的な共進化はDNA二本鎖切断修復を制御する

2026.09.15

RecA-RecN相互作用の種特異的な共進化はDNA二本鎖切断修復を制御する

ポイント

  • DNA二本鎖切断(DSB)を修復するDNA相同組換え機構の分子メカニズムを明らかにしました。

  • RecA-RecN間の機能的相互作用が生物種ごとに最適化されていることが示されました。

  • 大腸菌において機能性が回復する機能獲得型緑膿菌RecN変異体を同定しました。

  • 効率的なDSB修復を行うためにRecA-RecN間の機能的な相互作用ドメインが生物種ごとに共進化していることを明らかにしました。

研究の概要

 DNA二本鎖切断(DSB)は最も重篤なDNA損傷の一つであり、適切に修復されない場合は突然変異や細胞死を引き起こし、ヒトでは発がんの原因となっています。細菌ではDNA相同組換えがDSB修復において重要な役割を果たしており、RecAリコンビナーゼはその中核となるタンパク質であり、RecNSMC(染色体構造維持)ファミリーに属するタンパク質としてRecAと協調してDSB修復を行います。しかし、両者がどのように相互作用し、その相互作用が生物種間でどの程度保存されているかは不明でした。本研究では、異なる生物種間での機能的相補性に着目し、緑膿菌由来のRecApaRecA)およびRecNpaRecN)を大腸菌で発現させた場合のDNA損傷剤マイトマイシンCMMC)に対する耐性能を指標として解析を行いました。その結果、paRecAまたはpaRecNを単独で発現させた場合は大腸菌のDNA修復能を十分に回復できなかった一方、両者を同時に発現させると野生型レベルの修復能を示すことがわかりました。このことは、RecARecNの間には生物種特異的な機能的適合性が存在することを示していす。さらに、大腸菌RecA(ecRecA)との組み合わせでDNA修復活性を回復するpaRecNの機能獲得型変異体を探索し、I73TおよびR453H変異を同定しました。これらの変異体はecRecAとの適合性を獲得する一方、本来のパートナーであるpaRecAとの機能的相互作用を失っていました。これらの変異体を発現する大腸菌の蛍光顕微鏡観察では、両変異体はDNA損傷時に核様体への局在が増加しており、生化学的解析からもecRecAとの相互作用が増強されていることが示されました。以上の結果から、RecARecNの相互作用領域は生物種ごとにDSB修復を効率的に行うように最適化されており、両タンパク質には共進化の関係があることが明らかになりました。本研究は、タンパク質間相互作用の種特異性がDNA修復効率に大きく影響することを明らかにするとともに、タンパク質共進化を利用したスクリーニングが相互作用に重要なアミノ酸残基の同定に有効であることを示しました。

 本研究成果は文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われ、 2026528日にPLOS Genetics誌のオンライン版に掲載されました。また、本発表は、学習院大学国際論文助成事業より掲載費の助成を受けています。

研究の背景

 DNA二本鎖切断(DSB)は、放射線や化学物質、DNA複製異常などによって生じる最も重篤なDNA損傷の一つです。DSBが適切に修復されない場合、染色体再編成や突然変異の蓄積、さらには細胞死を引き起こします。そのため、生物はDSBを効率的かつ正確に修復する機構を進化させてきました。細菌では、相同組換え修復(HR)が主要なDSB修復経路として機能しており、その中心因子であるRecAは損傷DNA上でフィラメントを形成し、相同配列探索やDNA鎖交換反応を促進します。一方、RecNはSMC(染色体構造維持)ファミリーに属するATPaseであり、DSBが生じた損傷部位へ集積してDNA末端同士を近接させたり、DSBが生じたDNA鎖と組換えの際に鋳型となる相同鎖を繋ぐはたらきを持つため、RecA依存的な修復反応の促進に関与していると考えられています。近年の研究から、RecNはRecAと直接相互作用することが示されていますが、RecA―RecN間の相互作用領域がどこにあり、DSB修復にどのように関与しているのかなど、その分子機構は明らかになっていませんでした。

 そこで本研究では、大腸菌(Escherichia coli)と緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のRecAおよびRecNに着目し、異種由来タンパク質間の機能的相補性を利用してRecA-RecN相互作用の種特異性を解析しました。さらに、異種環境下で機能を回復するRecN変異体を取得することで、RecAとの機能的相互作用に重要なアミノ酸残基の同定と、RecA-RecN相互作用の進化的適応機構の解明を目指しました。

研究の内容

 大腸菌と緑膿菌はともにグラム陰性細菌※1に属するものの、多くのタンパク質のアミノ酸配列相同性は40〜90%程度と幅があり、異種由来タンパク質が宿主内で機能する場合としない場合が存在します。そこで本研究では、大腸菌recA欠損株およびrecN欠損株に緑膿菌由来のpaRecAおよびpaRecNを発現させ、DNA損傷剤マイトマイシンC(MMC)に対する耐性を指標としてDNA修復活性を評価しました。その結果、paRecAおよびpaRecNはいずれも単独では大腸菌のDNA修復能を十分に回復できませんでした。しかしながら、recA recN二重欠損株において両者を同時発現させると、MMC耐性が大腸菌野生型のレベルまで回復しました。この結果から、RecAとRecNの機能的相互作用には生物種特異性が存在し、同一生物種由来の組み合わせにおいて最も効率的なDSB修復が行われることが示唆されました。

 RecAはDNA組換え修復(HR)の中心因子であるとともに、SOS応答※2と呼ばれるSOS遺伝子群の発現誘導においても必須の役割を果たしています。そこで、paRecAの大腸菌における機能欠損の原因を明らかにするため、SOS遺伝子の発現レベルを解析しました。その結果、paRecAはecRecAと同程度のSOS誘導能を持つことが示されました。一方、paRecAを発現する大腸菌では、MMC処理後に異常な核様体凝縮や無核細胞の増加が観察され、相同組換え中間体の解消に異常が生じていました。このことから、paRecAはSOS応答において正常な機能を保持している一方で、HRによるDSB修復機能に欠損があることがわかりました。

 これらの結果から、RecA―RecN間の機能的相互作用がHRによるDSB修復に重要であり、さらにそれは生物種ごとに最適化されていることが示唆されました。そこで、この可能性をさらに検証するため、ecRecAとpaRecNの組み合わせでDNA修復活性を回復するようなpaRecN機能獲得型変異体が得られれば機能的相互作用に重要なアミノ酸残基を同定できるのではないかと考え、paRecN変異体のスクリーニングを行いました。その結果、7種類の機能獲得型変異体の単離に成功し、そのうち、RecNの立体構造解析から近接した位置に存在するpaRecNI73TおよびpaRecNR453H変異体について、さらに詳細に解析しました。その結果、これらの変異体はecRecAとの組み合わせでは高いDNA修復活性を示した一方で、本来のパートナーであるpaRecAとの組み合わせではDNA修復能が低下することがわかりました。この結果は、paRecN変異体がecRecAとの適合性を獲得した一方で、paRecNとの適合性を失うトレードオフが生じたことを示しています(図1)。

 さらに、paRecN変異体の機能について調べるため、GFP※3との融合タンパク質を用いて細胞内局在を蛍光顕微鏡を用いて解析しました。その結果、野生型paRecNはDNA損傷時に核様体への局在をほとんど示さなかったのに対し、paRecNI73TおよびpaRecNR453HではDNA損傷依存的な核様体局在が顕著に増加しました。また、精製タンパク質を用いた生化学的解析から、paRecNI73TおよびpaRecNR453Hは野生型paRecNと比較してecRecAとの相互作用が増強していることが明らかとなりました。以上の結果から、I73TおよびR453H変異はRecNの損傷部位への集積能力とecRecAとの機能的相互作用を向上させることで、大腸菌におけるDNA修復活性を回復させることが示されました。

今後の展開

 本研究により、RecAとRecNの機能的相互作用は単に保存されたタンパク質間相互作用ではなく、生物種ごとに最適化された関係であることが明らかとなりました。特に、paRecNI73TおよびpaRecNR453H変異体がecRecAとの適合性を獲得する一方でpaRecAとの適合性を失ったことは、RecA-RecN間の結合領域が共進化によって形成されてきたことを強く示唆しています。また、変異体では損傷部位への局在性とRecAとの相互作用がともに向上しており、RecNのDNA修復機能には共進化した領域が重要であることが示されました。今後は、残りの機能獲得型変異体についても解析を進めるとともに、RecNがRecAのATPase活性や組換え反応そのものに与える影響を検討することで、RecA-RecN協調機構の詳細な分子基盤を解明したいと考えています。さらに、本研究で確立した異種間相補性を利用した解析手法は、他のタンパク質複合体における共進化残基の同定にも応用できると期待されます。

用語解説

※1 グラム陰性細菌:薄いペプチドグリカン層と外膜を持つ細菌の総称。グラム染色では赤色またはピンク色に染色される。

※2 SOS応答:DNA損傷時に誘導される遺伝子発現機構。活性化したRecAがLexAリプレッサーによる転写抑制を解除するため、DNA修復に関わるSOS遺伝子群の発現が誘導される。

※3 GFP:GFPは、オワンクラゲから単離された蛍光を発するタンパク質。GFPは緑の蛍光(509nm)を発する。

発表者

井上 瑞貴(学習院大学自然科学研究科生命科学専攻 修士課程(研究当時) )
赤沼 元気(城西大学理学部化学生命科学科 准教授)
林 匡史(学習院大学理学部生命科学科 助教)
菱田 卓(学習院大学理学部生命科学科 教授)

論文情報

論文名: Species-specific coevolution of RecA-RecN interfaces governs DNA double-strand break repair in Escherichia coli
雑誌:PLOS Genetics
著者名:井上瑞貴、赤沼元気、林匡史、菱田卓
DOI:10.1371/journal.pgen.1012169
URL:https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1012169

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