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AIやアバターが当たり前になる社会。私たちを取りまく法はどう変わっていくべきか?

小塚 荘一郎 教授 2026.07.13 法学部法学科

AIを筆頭にデジタル技術が日々進歩し、実社会がデジタルでバーチャルなものに包まれていく。そんな時代の変化に、商法をはじめとする法律はどう応えていくべきか。最先端の技術と、二千年を超える歴史を持つ法学との接続に取り組む法学部・小塚荘一郎教授に、研究の原動力である「ザラつき」から、研究者としての歩み、2026年度に授業で活用を始めた「AI Kozuka sensei」まで、幅広く話を聞いた。


新しい技術には、新しい法を?
現実はそう単純ではない

― 小塚先生の研究内容について教えてください。

専門は商法です。デジタル技術の進化によって経済活動の枠組みがバーチャルの世界に取り込まれていく現代において、法学はどのように対応していくべきなのか。その枠組みづくりを研究しています。

近年はAIの進化が著しいですが、最新のデジタル技術がどれほど生活空間に浸透しても、私たちの体がなくなるわけではありません。私たちは朝起きたら食事をします。学生であれば学び、遊び、恋愛もするでしょう。そうしたリアルな世界がバーチャルに取り囲まれていくなかで、会社の仕組みや企業間・消費者間の契約など、経済活動に関わる法律分野をどう整えていくべきかを考えています。

― 法学は伝統的な学問という印象があります。その法学と先端技術を接続していく研究なのですね。

技術を開発する側からすると、「新しい技術ができたのだから、それに合わせて新しい法律を早く作ってください」と考えるのは自然なことですよね。実際、国会のひと会期だけで数十本もの法律が成立していますから。

一方、法学は古代ローマに源流をたどれるほど、非常に古い学問です。民法や商法といった法制度の基本にある「人」「物」「契約」の概念、「人」を拡張させた「法人」、すなわち会社という考え方も、そうした長い歴史の中で積み重ねられてきました。

このように対照的な両者だからこそ、どこでどう接続するかが難しい。せっかく新しい技術が世の中を変えようとしているのに、「過去の事例を踏まえて法的に処理すればいい」と言い出せば、実社会は何も変えられない、ということが起きかねません。

古くからの概念との連続性と、先端技術の革新性。その間にあるギャップ、すなわちザラつきのような違和感を、具体的にどう埋めていくべきか。その実感こそが、私が研究を進める原動力になっています。

学習院大学が大切にする「文理融合の学び」とも通じます。

そうですね。法学の研究者であっても、技術についての知識や理解は一定程度必要になる。その意味で、確かに「文理融合の学び」と言えます。私自身、AI開発スタートアップの経営者と共同研究を進めていますし、まずは自分が率先して、技術(理系)と社会科学(文系)の分野を行き来するよう努めています。

また異分野の融合というと文系と理系の融合がイメージされますが、私は、法学、経済学、人文学といった文系の中にも融合があると思っています。歴史学の視点を法学に生かす、経済学の考えを法学に生かす――そうした分野間の行き来こそ、学問にはとても大事なんですね。私自身、子どもの頃から好きだった歴史の視点が、今の研究に大いに生きています。

人とアバター、
物とデジタル資産

― 最近の研究成果について教えてください。

2022年度から、内閣府の「ムーンショット型研究開発事業」に参加しています(※)。これは、「2050年までに、人が身体・脳・空間・時間の制約から解放された社会を実現」するという大きな目標を掲げた国家プロジェクトです。
※ JSTムーンショット型研究開発事業「アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現」JPMJMS2215(プロジェクトマネージャ:新保史生)

私が取り組んでいるのは、そのなかの「アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現」という研究課題です。当初3年間の共同研究の成果は『デジタル資産とアバターの民事法――デジタル時代の人と物』(小塚荘一郎・曽野裕夫:編著)という書籍にまとめました。

また、202510月に開催された日本私法学会(民法・商法分野における最大の学会)のシンポジウムでも「仮想空間における人と物:デジタル資産とアバターの法」を発表しています。

― 「デジタル資産とアバターの法」とは、具体的にどのような内容でしょうか。

現実世界の「人」に対応するものがバーチャル世界の「アバター」であり、「物」に対応するのが「デジタル資産」です。

デジタル資産については「現実世界の『物』と同じように取引したい」というニーズが強く、国際的にも一定の方向性でまとまりつつあります。デジタル資産ですから実体として所有できませんが、暗号技術などでコントロールすることで権利関係を明確にしていこう、というものです。

対して、アバターを現実の「人」と並ぶ存在として認める考え方は、現状あまり受け入れられていません。仮想空間でアバターの姿で活動していても、法律的にはそのアバターの「中の人」と同一とされる。このギャップがどこから来るのか、さらに研究していくつもりです。

― 「人」という概念から「法人」が生まれたように、「アバター」もそうした拡張の可能性を持っている、という視点が興味深いです。

会社、つまり法人という仕組みも、もとは「人」しかいなかったところに生まれたものです。大航海時代、ヨーロッパの人々が海を渡り、見える世界がぐっと広がったとき、東インド会社のような組織が権利行使の主体となれる「第二の人」を作ったほうがいい、という発想から法人格が生まれました。

そして現在は、アバターを「第三の人」とすべきかどうかが問われている。新しい人格のような存在として位置づけるのか、それともログインIDのように、人が使う単なる道具に留めるのか。そういう意味では、今は新たな大航海時代の前夜なのかもしれませんね。

現実世界の私たちは、人権を持った主体であり、財産への所有権や知的財産権を認められた存在です。バーチャル世界の出来事が、その現実世界に不適切な影響を与えないように制御していく。それが、法学者としての重要な責務だと考えています。

歴史好きの文学少年が
「好みではない」法の道へ

― 法学に興味を持つようになったきっかけは何でしたか。

子どもの頃から読書が好きな、いわゆる文学少年でした。中学生になった頃には日本や海外の国がどのようにできてきたのか、という方向へ興味が移り、高校時代は歴史の本を熱心に読んでいました。

時代や社会の大きな流れの中で、小さな存在である一人ひとりが懸命に生きる様子や、その苦悩や欲望といった割り切れないものに惹かれる気持ちが強かったのです。実のところ、法律のように割り切ってしまうものは、今も昔もあまり好みには合わないんですね(笑い)。

大学は法学部に進みましたが、政治学や経済学にも関心があり、1年次は「政治学の研究者になりたい」と考えていました。そのことを先輩に相談したところ、「君ならなれると思う。ただし、そうなったら政治学の本を楽しみだけでは読めなくなるよ」と言われて考え込んでしまいました。

同じ頃、経済学的な手法で法制度の社会への影響を評価する「法と経済学」という考え方に関心を持ちました。これをもっと学んでみたいと思ったとき、当時この手法がいちばん受け入れられていたのが商法の分野だった。商法を専攻したのは、それが理由です。

歴史や政治ほど「好き」ではないからこそ、客観的に研究と向き合えるかもしれない、という思いもありました。博士論文は、フランチャイズ契約の研究でした。

先端技術と法の関わり方、技術の発展に対応した法制度の設計といった、現在抱いている問題意識。その起点は、時代時代に生まれる新たなもの、ひとつの視点で割り切れないものという昔からの関心にあるように思います。

― 「好みではなかった」法学の道をあえて選んだことが、研究者としての独自性にもつながっているのかもしれません。

その側面はあるかもしれません。法律や法学が「純粋に好き」ではないから、どこか突き放して観察している。その距離感が、かえっていろいろな気づきを与えてくれているのだと思います。

それと重なる話かもしれませんが、日本における「法」の位置づけが、欧州諸国とは明らかに異なっている点も私は興味深く感じられます。

研究者になってから、ユニドロワ(私法統一国際協会)という、ローマに本部を置く国際組織の活動に参加するようになりました。英米独仏はもちろん、ヨーロッパやアフリカ、中南米まで、世界の国々の代表と法律を議論する。そのなかで、古代ローマに起源を持ち、西洋の歴史に根ざした法学が、アジアの一国である日本にとってどういう意味を持つのか。そんなことを改めて考えるようになりました。

ヨーロッパでは、法はもともと社会の大前提として、そこにある。一方、明治以降に急速な近代化を進めた日本では、法学と実社会の間にはどこか違和感――「ザラつき」があるように思います。日本を含む非ヨーロッパの国々は、不平等条約を改正したいという動機から、近代になって法を「よそから学んだ」背景があるからです。だから、どんなに上手に使いこなしていても、「よそのもの」という感覚が残る。

近年では、AIの規制をめぐる議論に、その「ザラつき」が顕著に表れているように思います。

EUは「AI法」という厳しい規制を作りました。一方、日本が2025年に作ったAI法は、規制というより、「AIを盛り立てていこう」という産業振興の色合いが強い。問題が起きたら政府が「助言」する、という建て付けです。法が社会の前提としてある国と、必要なときに取り出して使う道具と捉える国。明治期に近代化の一環として法学を取り入れた日本には、その分、独自性や柔軟性があるのだと思います。

個人的には、進化のスピードが速いAIについては、日本的なやり方のほうがうまくいくと考えています。先端技術がこれからどうあるべきかは、研究者にも、政府にも、まだ誰にも分からない。分からないのに、最初から完璧なルールなど作れるはずがありません。

「まず進めてみて、問題が出たら一緒に考える」。この距離感が、先端分野ではかえって効いてくるように思います。

自身の論文をAIに
読み込ませてアバターに

AI Kozuka sensei」は、私が執筆した論文をAIに読み込ませたアバターです。共同研究を行っている米国のスタートアップPrifina共同創業者であり、リトアニア・ビリニュス大学講師でもあるポール・ユルチス先生に開発をお願いしました。

法律の中でも商法という分野は、とりわけ学生に縁遠いものです。会社の経営や商取引の仕組みなど、学生が普段あまり接しないことを扱うので当然なのですが、前提知識を教えることに時間を割くと、肝心の法律そのものを学ぶ時間が減ってしまう。

それならば、前提知識はAIの力を借りて学生それぞれに補ってもらい、その分、授業では法学本来の考え方を学ぶ時間にあてたい。そう考えて「AI Kozuka sensei」を事前事後学習に試験導入しました。

― 学生の反応はいかがですか。

なかなかいいですよ。AI相手だから、どんな初歩的な質問でも遠慮せずに聞けるのがいいようです。教える側の私としても、「ちゃんとAIで下調べをしてくれたんだな」とわかりますし、受講生全体の知識のレベル感も揃うので、授業を進めやすくなりました。

将来的にAIを教育に組み込んでいく際には、どういう使い方をさせ、どういう使い方はさせないのか、ルールを考える必要が出てきます。そこはまさに「どんなルールを設けるか」という法律の問題でもありますから、自分の研究と教育がクロスしてくる面白さも感じています。

答えのない問いを、
共に考える

― AIが学びの形を変えていくなかで、大学で学ぶことの意味はどこにあるのでしょう。

高校までの学びは、先生が正解を与える教育です。しかし、大学は違います。大学は教える側も答えを持っていないことを共に調べ、共に考えていく場です。大学の役割はそこに尽きると私は思っていますし、デジタル世界やバーチャル世界の法の在り方も、まさにそのように共に考えていくテーマのひとつです。

― AIの進化は、法学教育そのものも変えていきそうです。

そうですね。たとえば司法試験では覚えることが膨大にあります。「条文を見ながら試験を受けてよい」と言われても、きちんと頭に入っていなければ今はその条文を探すことすら難しい。

では、「すべてをAIで調べてよい」というルールになったとき、人間には何が残るのか。研究や教育、実務に何が残っていくのか――。その答えはまだ私の中にありません。やはりその問いについても今後の研究を通じて考えていかなければと思っています。

これからの時代は、科学技術をどうコントロールしていくかが最大の課題になっていくでしょう。「AIが人間を超える知能を持つ日も近い」という説に対しては、私自身は留保が必要だと思っていますが、それが悪用されたり、意図しない働きをしたりしないように、私たちは「人間中心」の社会を守っていかなければなりません。

法学もまた、そのためのツールのひとつです。政治学や倫理学、社会学などと連携しながら、科学技術を適切に制御していく。そんな社会を実現するために、私の研究が少しでも役立てばと願っています。

ここ3年間は、「物」と「人」、つまり「デジタル資産」と「アバター」が、デジタル・バーチャルの世界でどう変わっていくのかを考えてきました。この先の研究では、「契約」や「体感」がどう変わるのかなどについても研究を進めていく予定です。思考実験の連なりのようですが、先の先を見据えていきたいですね。取り組むべき課題は、まだまだ山積みです。

Profile

小塚 荘一郎


SOUICHIROU KOZUKA

学習院大学法学部教授。専門は商法・会社法、宇宙法。東京大学法学部出身。「法と経済学」分野へのアプローチから商法研究に入り、「フランチャイズ契約と法」の研究で博士号を取得。私法統一国際協会(ユニドロワ)の活動に携わるほか、AIやメタバースなど最新テクノロジーに関する法律問題に取り組む。編著書に『デジタル資産とアバターの民事法――デジタル時代の人と物』(共編著)など。

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