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【研究成果・共同プレスリリース】老化で弱ったミトコンドリアを"増やして強くする"新規化合物を発見―加齢に伴う心機能低下を改善、栄養過多による寿命低下を抑制―

2026.04.22

老化で弱ったミトコンドリアを "増やして強くする" 新規化合物を発見
―加齢に伴う心機能低下を改善、栄養過多による寿命低下を抑制―

ポイント

  • 老化に関わるミトコンドリア酵素を指標としたスクリーニングにより、ミトコンドリアを"増やして強くする"植物由来の新規化合物「マイトルビン」を発見
  • 化学修飾により酢酸分子を付加することで、水溶性を高めた改良型マイトルビンも同時に開発
  • 老齢マウスへ投与したところ、加齢による心機能低下を改善し、栄養過多による肥満糖尿病マウスにおいては寿命低下を抑制する効果を確認

研究の概要

 学習院大学理学部の柳茂教授らの研究グループは、熊本大学、日本女子大学、東京都健康長寿医療センター、東京大学、自治医科大学、東京薬科大学、青山学院大学などの共同研究チームとともに、ミトコンドリア1の量と機能を同時に増強する植物由来の新規化合物「マイトルビン」を発見しました。

 細胞内でエネルギーを産生するミトコンドリアは、加齢とともに減少や機能低下が生じ、心不全をはじめとするさまざまな加齢性疾患の一因となることが知られています。しかし、ミトコンドリアの量と機能の両方を同時に改善する有効な手法はこれまで限られていました。

 本研究では、老化に関与するミトコンドリア酵素「MITOL2」を指標としたスクリーニングにより、植物由来の代謝産物から、ミトコンドリアの数を増やすとともにその機能を高める新規化合物「マイトルビン」を同定しました。さらに、化学修飾により水溶性を向上させた改良型マイトルビンの開発にも成功しました。

 これらの化合物は培養細胞やマウスにおいてミトコンドリア機能を高め、老齢マウスの心機能低下を顕著に改善しました。さらに、高脂肪食を負荷した肥満糖尿病マウスに改良型マイトルビンを投与したところ、生存期間中央値3が約40%延長しました。本成果は、ミトコンドリアの機能低下が関係する多くの加齢性疾患や、国の指定難病の一つであるミトコンドリア病等に対する新たな治療戦略の基盤となる可能性を示すものです。


 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)ユニットタイプ「元気につながる生命現象の解明と制御」開発研究領域の研究開発課題「心身の元気をもたらす呼吸鎖超複合体動態制御の解明とその応用」の一環として実施されたものです。

 本研究成果は、2026年4月18日付で加齢医学分野の国際学術誌「npj Aging」に掲載されました。

研究の背景

 ミトコンドリアは、細胞内でエネルギーを産生する重要な細胞小器官であり、その機能低下は老化の進行やさまざまな疾患の発症と密接に関係しています。

 特に、加齢に伴ってミトコンドリアの数の減少や品質の低下が生じることが知られており、心不全や神経変性疾患をはじめとした多くの加齢性疾患の共通基盤と考えられています(図1)。

図1 加齢に伴うミトコンドリアの変化は加齢性疾患の一因となる
図1 加齢に伴うミトコンドリアの変化は加齢性疾患の一因となる

 これまで、ミトコンドリアの機能を改善することを目的とした研究は数多く行われてきましたが、「ミトコンドリアの数(量)を増やすこと」と「ミトコンドリアの働き(質)を高めること」の両方を同時に制御することは容易ではなく、これらを包括的に改善できる手法は限られていました。

 こうした背景のもと、本研究グループは、老化の制御に関わることが知られるミトコンドリア酵素に着目し、その遺伝子発現を高める化合物のスクリーニングを通じて、新たなミトコンドリア活性化分子の探索に取り組みました。

研究の内容

 本研究では、ミトコンドリアの品質管理に重要な役割を果たす酵素「MITOL(マイトル)」に着目し、この酵素の遺伝子発現を指標としたスクリーニング系を構築しました(図2A)。MITOLはこれまでの研究から、加齢に伴い遺伝子発現量が低下することや、その機能の低下が培養細胞やマウスにおいて老化表現型をもたらすことが知られています。

図2 マイトルビンの同定とミトコンドリア機能改善の検証
図2 マイトルビンの同定とミトコンドリア機能改善の検証

 このスクリーニングを通じて、植物由来成分の代謝産物の中から、ミトコンドリアの数を増加させると同時に、その機能を向上させる化合物を同定しました。さらに、その化合物に化学修飾によって酢酸分子を付加することで、水溶性を高めた改良型化合物の開発にも成功し、これらを総称して「マイトルビン」と命名しました(図2B)。

 詳細な解析の結果、これらの化合物は細胞内におけるミトコンドリアの量的増加を促すとともに、そのエネルギー産生能を高めることが確認されました(図2C・D)。

 さらに、老齢マウスに改良型のマイトルビンを長期投与したところ、加齢に伴って低下する心機能が有意に改善されるとともに(図3A~D)、心筋においてミトコンドリアの働きが有意に改善されていることが明らかになりました(図3E)。

図3 改良型マイトルビンによる老齢マウスの心機能とミトコンドリア機能の改善
図3 改良型マイトルビンによる老齢マウスの心機能とミトコンドリア機能の改善

 さらに、高脂肪食負荷マウス(栄養過多による肥満糖尿病マウス)に改良型マイトルビンを投与したところ、寿命低下を抑制する効果が認められ、生存期間中央値で約40%の延長が確認されました(図4)。

図4 改良型マイトルビンによる高脂肪食負荷マウスの生存期間延長
図4 改良型マイトルビンによる高脂肪食負荷マウスの生存期間延長

 本研究は、マイトルビンが哺乳類細胞においてミトコンドリアの「量」と「質」を同時に強化することを示すとともに、生体において加齢性の心機能障害に対する保護効果を実証しました。また、栄養過多条件下において寿命低下を抑制する効果も示されました。これらの知見は、加齢性疾患に対するミトコンドリアを標的とした新たな治療戦略の可能性を示すものです。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究で見出されたマイトルビンおよびその改良型化合物は、ミトコンドリア機能の低下を基盤とするさまざまな疾患に対する新たな介入手段となる可能性があります。

 特に、心不全や神経変性疾患、サルコペニア・フレイル、糖尿病、不妊症といった加齢性疾患に加え、国の指定難病の一つであるミトコンドリア病に対する新たな治療戦略の基盤となることが期待されます。

 今後は、作用機序のさらなる解明や安全性・有効性の検証を進めるとともに、実用化に向けた研究開発を加速させることで、ミトコンドリアを標的とした健康・医療課題の新たな解決策の創出につなげていくことが期待されます。

用語解説

※1 ミトコンドリア:細胞内に存在するオルガネラ(細胞小器官)の一つ。酸素を消費してエネルギー(ATP)を産生する役割をもつ。加齢に伴ってその機能が低下することが、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患や心不全、サルコペニア(筋力低下)をはじめとするさまざまな疾患に関与することが知られている。

※2 MITOL(マイトル):2006年に柳教授らのグループにより発見された、ミトコンドリア外膜に存在する酵素。ユビキチン化と呼ばれるタンパク質翻訳後修飾を介して、ミトコンドリアの品質管理や機能維持に関与することが知られる。加齢に伴いそのタンパク質量が低下し、心不全などの加齢性病態に深く関与することが見出されている。

※3 生存期間中央値:集団の中で半数の個体が生存している時点の期間を指す指標で、寿命の比較に広く用いられる。

研究助成

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)(課題番号:JP24ama121051、JP24ama121053、JP24gm1710006h0002、JP25gm2110001、DNW-24003)、日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号:JP23K07511、JP22K11727、JP24K21297、JP21H04825、JP23H02691、JP23K27382)、武田科学振興財団(2024年度)、ならびに日本老年医学会研究助成(2024年度)の支援を受けて実施されました。

発表者

佐藤 迪夫(熊本大学 助教)
田名部 大士(学習院大学 大学院生)
鳥越 大輔(熊本大学 講師)
門松 毅(熊本大学 講師)
谷若 慶人(株式会社マイトジェニック)
尾形 佳靖(株式会社マイトジェニック)
椎葉 一心(学習院大学 助教=研究当時)
鈴木 結衣子(学習院大学 大学院生=研究当時)
伊藤 直樹(学習院大学 研究員=研究当時)
稲留 涼子(学習院大学 研究員)
徳山 剛士(自治医科大学 助教)
竹岩 俊彦(東京都健康長寿医療センター 研究員)
井上 聡(東京都健康長寿医療センター 研究部長)
金井 瑛斗(青山学院大学 大学院生=研究当時)
濵野 崇(青山学院大学 大学院生)
平田 普三(青山学院大学 教授)
金光 佳世子(東京大学 特任講師)
楠原 洋之(東京大学 教授)
横須賀 章人(東京薬科大学 准教授)
三巻 祥浩(東京薬科大学 教授)
阿部 秀樹(日本女子大学 教授)
尾池 雄一(熊本大学 教授)
柳 茂(学習院大学 教授)

論文情報

論文名:Mitorubin, berberrubine-based compounds that improve mitochondrial function, exhibit cardioprotective effects against age-related cardiac dysfunction
雑誌:npj Aging
著者名:Michio Sato, Daishi Tanabu, Daisuke Torigoe, Tsuyoshi Kadomatsu, Keito Taniwaka, Yoshinobu Ogata, Isshin Shiiba, Yuiko Suzuki, Naoki Ito, Ryoko Inatome, Takeshi Tokuyama, Toshihiko Takeiwa, Satoshi Inoue, Eito Kanai, Takashi Hamano, Hiromi Hirata, Kayoko Kanamitsu, Hiroyuki Kusuhara, Akihito Yokosuka, Yoshihiro Mimaki, Hideki Abe, Yuichi Oike, Shigeru Yanagi
URL:https://www.nature.com/articles/s41514-026-00366-w
DOI:https://doi.org/10.1038/s41514-026-00366-w

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